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第四章 意味と願いと選択と
追憶(1)
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コントローラーのボタンを断続的に押していた指を止める。
私の目の前には、ゲーム機を繋いだテレビの画面。そこに映された、二つの選択肢。
一つ目は、
『ルシスに残る』
二つ目は、
『元の世界に帰る』
選択肢が表示される画面左下には、思い悩む美生の姿が描かれている。
何度も見たことがある画面だ。そして何度もそうしたように、止めていた指を動かす。
『ルシスに残る』
カーソルを合わせ、決定ボタンを押す。
「私……あの人の傍にいたい」
美生のグラフィックが、微笑んだものに変わる。
この先の幸せなエピローグを思い、私は軽快に文章を送る。
チクリと胸を刺す、小さな棘には気付かない振りをして――
温かく、柔らかいものに包まれている。最初に、その感覚があった。
「……ん?」
次いで小さく声が聞こえて、それが自分のものだと気付いた。
「アヤコさん!」
「ナツメ……?」
やけに近い位置から声がして、私はまだぼんやりとする視界の中、声の出処を探した。
そして自分の状態を知る。声が近いのもそのはず、私は胡座をかいたナツメの上に、横向きに抱えられていた。
目が合ったナツメが安堵の笑みを浮かべる。しかしそれは一瞬で、直ぐさま彼の眉が釣り上がった。
「アヤコさん、俺を庇いましたよね? 貴女が知る物語では、俺が滑落していたはずです。違いますか?」
「!」
ナツメの指摘に息を呑む。
(そうだ、私、考えなしに……)
本当は、もっと不自然ではない代替え案を練るつもりだった。けれど、三回目の雷光を見た瞬間、それが頭から抜けてしまっていた。
本来いないはずの自分が直接関わるなど、最も不自然な愚策だ。
「今回のは、本編には影響無いはずだから――」
「そういう問題じゃないでしょう!」
問いに答えたというよりは自身に言い聞かせようとした言葉を、ナツメに遮られる。
珍しく声を荒げたナツメに驚いてしまい、私は続きの言葉を言えないまま口を閉じた。
「何故、あんな真似をしたんですか。怪我をすれば痛いんです、一瞬で治療できるわけじゃありません。以前、貴女自身が回復魔法は思っていたより時間が掛かるものだと、言っていたじゃありませんか」
「そうだけど……」
私は意識が無くなる直前に見た、血だらけの手に目を遣った。
もう傷一つ見当たらない。全身の痛みも嘘のように無くなっていた。
「でも今の状況を考えると、怪我をしたのが私の方で正解だったと思う。私はこうしてナツメに治してもらえるけど、ナツメは数時間苦しんでいたから……」
おそらく私は打撲、最悪骨折もしていただろう。目が覚めたら治っていた私と違い、ナツメは長時間苦しみ続ける。それを考えると、背筋が凍る。
だから正解だと、そう結論付けたのに。
「……貴女は理解していない」
苦しげな表情をしたナツメに、それを否定される。
「えっ」
そしてそうされたと思ったときにはもう、私は彼に抱き込まれていた。
私の目の前には、ゲーム機を繋いだテレビの画面。そこに映された、二つの選択肢。
一つ目は、
『ルシスに残る』
二つ目は、
『元の世界に帰る』
選択肢が表示される画面左下には、思い悩む美生の姿が描かれている。
何度も見たことがある画面だ。そして何度もそうしたように、止めていた指を動かす。
『ルシスに残る』
カーソルを合わせ、決定ボタンを押す。
「私……あの人の傍にいたい」
美生のグラフィックが、微笑んだものに変わる。
この先の幸せなエピローグを思い、私は軽快に文章を送る。
チクリと胸を刺す、小さな棘には気付かない振りをして――
温かく、柔らかいものに包まれている。最初に、その感覚があった。
「……ん?」
次いで小さく声が聞こえて、それが自分のものだと気付いた。
「アヤコさん!」
「ナツメ……?」
やけに近い位置から声がして、私はまだぼんやりとする視界の中、声の出処を探した。
そして自分の状態を知る。声が近いのもそのはず、私は胡座をかいたナツメの上に、横向きに抱えられていた。
目が合ったナツメが安堵の笑みを浮かべる。しかしそれは一瞬で、直ぐさま彼の眉が釣り上がった。
「アヤコさん、俺を庇いましたよね? 貴女が知る物語では、俺が滑落していたはずです。違いますか?」
「!」
ナツメの指摘に息を呑む。
(そうだ、私、考えなしに……)
本当は、もっと不自然ではない代替え案を練るつもりだった。けれど、三回目の雷光を見た瞬間、それが頭から抜けてしまっていた。
本来いないはずの自分が直接関わるなど、最も不自然な愚策だ。
「今回のは、本編には影響無いはずだから――」
「そういう問題じゃないでしょう!」
問いに答えたというよりは自身に言い聞かせようとした言葉を、ナツメに遮られる。
珍しく声を荒げたナツメに驚いてしまい、私は続きの言葉を言えないまま口を閉じた。
「何故、あんな真似をしたんですか。怪我をすれば痛いんです、一瞬で治療できるわけじゃありません。以前、貴女自身が回復魔法は思っていたより時間が掛かるものだと、言っていたじゃありませんか」
「そうだけど……」
私は意識が無くなる直前に見た、血だらけの手に目を遣った。
もう傷一つ見当たらない。全身の痛みも嘘のように無くなっていた。
「でも今の状況を考えると、怪我をしたのが私の方で正解だったと思う。私はこうしてナツメに治してもらえるけど、ナツメは数時間苦しんでいたから……」
おそらく私は打撲、最悪骨折もしていただろう。目が覚めたら治っていた私と違い、ナツメは長時間苦しみ続ける。それを考えると、背筋が凍る。
だから正解だと、そう結論付けたのに。
「……貴女は理解していない」
苦しげな表情をしたナツメに、それを否定される。
「えっ」
そしてそうされたと思ったときにはもう、私は彼に抱き込まれていた。
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