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第三章 イベント回避の方向で
マナの光(1)
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邸一階の廊下を行きながら、私は窓の外を見た。日は完全に落ちて、今夜は雲が厚いのかかなり暗い。
数刻前に終わった夕食にて、明日の午前に美生とカサハが再び王城へ出向くことが決まった。
王都を自由に見て回る許可が下りているとはいえ、通常王族しか入室できない禁書庫となればまた話は別だろう。それに美生たちは明日知ることになるが、鍵も司書ではなく専用の管理人がいる。禁書庫専用の管理人なのだから、当然その人物も城勤めなのだ。
そんなわけで、明日は美生とカサハ以外は二人が城から戻るまで邸で待機となっていた。――予定としては。
(予定は未定ってね)
窓から廊下へと目を戻す。そこから数歩進んだ後、私は立ち止まった。
コンコンコン
目的の部屋――執務室の扉を叩く。中から返ってきた「どうぞ」というナツメの声に、私は扉を開けた。
「お邪魔します」
言いながら、入室する。
執務机の横、立ったまま本を読んでいたらしいナツメが、こちらを振り返った。
「アヤコさん? 何かありましたか?」
訪問者が私なことが意外だったのか、ナツメが少し驚いた表情を見せる。
「あ、ううん。これといって用があったわけじゃないんだけど……」
私はすぐに出るつもりで、その場で立ち止まって答えた。
ナツメは夕食前に着替えたので、今はもう彼の服にあの戦闘の痕跡は見られない。
食堂でも確認したことだ。けれど、また確認したくなり、ここまで押しかけてしまった。
「そうですか。用が無いけれど来た。貴女が口にすると、嬉しく感じるから不思議ですね。まあ、一瞬本当に「謝りに来た」のかと思ったので、その点では残念でしたが」
ナツメが本を閉じ、それを机の上に置く。
私は彼が言った『残念な点』が何を指すのか掴めず、首を傾げた。
そのまま三秒、ナツメの顔を見つめて――
「あ!」
思い出した。声を上げた拍子に、首も真っ直ぐに戻った。
『いいですよ。謝る必要はありません。必要はありませんが、貴女がそうしたいのであれば、今夜俺のベッドまでどうぞ』
台詞の後に向けられた妖しい微笑みまで、きっちりと脳内再生されてしまう。思わず私は、顔ごと彼から目を逸らした。
「あんな質の悪い冗談を真に受けるわけないし、ナツメだって真に受けそうなタイプの人には言わないでしょう?」
「正確に表現するなら、真に受けられては困る相手には言いませんね」
熱くなった頬を手の甲で擦っていた私の方へ、ナツメが寄ってくる。そして目の前まで来た彼は、私のまだ赤いであろう頬をくすぐるような手つきで触れてきた。
「大方、昼間のことを気にして来たんでしょう?」
核心を突いてきたナツメに、つい彼に目を戻しそうになるのを堪える。
「俺にああ言った指示を出したことを貴女は気に病んでいるようですが、少なくとも俺にとって貴女は厭うどころか、精神的に満たされる相手ですよ」
「……そう、ありがとう」
「ついでに言えば、肉体的に満たしたい相手です」
「そう、ありが――って、どさくさに紛れて何言ってるのよ」
「あははっ。でもこれも、真に受けられては困る相手には言いませんよ、俺は」
ますます直視するのが憚られるナツメの発言に、私はいっそのこと目を閉じてしまいたかった。
数刻前に終わった夕食にて、明日の午前に美生とカサハが再び王城へ出向くことが決まった。
王都を自由に見て回る許可が下りているとはいえ、通常王族しか入室できない禁書庫となればまた話は別だろう。それに美生たちは明日知ることになるが、鍵も司書ではなく専用の管理人がいる。禁書庫専用の管理人なのだから、当然その人物も城勤めなのだ。
そんなわけで、明日は美生とカサハ以外は二人が城から戻るまで邸で待機となっていた。――予定としては。
(予定は未定ってね)
窓から廊下へと目を戻す。そこから数歩進んだ後、私は立ち止まった。
コンコンコン
目的の部屋――執務室の扉を叩く。中から返ってきた「どうぞ」というナツメの声に、私は扉を開けた。
「お邪魔します」
言いながら、入室する。
執務机の横、立ったまま本を読んでいたらしいナツメが、こちらを振り返った。
「アヤコさん? 何かありましたか?」
訪問者が私なことが意外だったのか、ナツメが少し驚いた表情を見せる。
「あ、ううん。これといって用があったわけじゃないんだけど……」
私はすぐに出るつもりで、その場で立ち止まって答えた。
ナツメは夕食前に着替えたので、今はもう彼の服にあの戦闘の痕跡は見られない。
食堂でも確認したことだ。けれど、また確認したくなり、ここまで押しかけてしまった。
「そうですか。用が無いけれど来た。貴女が口にすると、嬉しく感じるから不思議ですね。まあ、一瞬本当に「謝りに来た」のかと思ったので、その点では残念でしたが」
ナツメが本を閉じ、それを机の上に置く。
私は彼が言った『残念な点』が何を指すのか掴めず、首を傾げた。
そのまま三秒、ナツメの顔を見つめて――
「あ!」
思い出した。声を上げた拍子に、首も真っ直ぐに戻った。
『いいですよ。謝る必要はありません。必要はありませんが、貴女がそうしたいのであれば、今夜俺のベッドまでどうぞ』
台詞の後に向けられた妖しい微笑みまで、きっちりと脳内再生されてしまう。思わず私は、顔ごと彼から目を逸らした。
「あんな質の悪い冗談を真に受けるわけないし、ナツメだって真に受けそうなタイプの人には言わないでしょう?」
「正確に表現するなら、真に受けられては困る相手には言いませんね」
熱くなった頬を手の甲で擦っていた私の方へ、ナツメが寄ってくる。そして目の前まで来た彼は、私のまだ赤いであろう頬をくすぐるような手つきで触れてきた。
「大方、昼間のことを気にして来たんでしょう?」
核心を突いてきたナツメに、つい彼に目を戻しそうになるのを堪える。
「俺にああ言った指示を出したことを貴女は気に病んでいるようですが、少なくとも俺にとって貴女は厭うどころか、精神的に満たされる相手ですよ」
「……そう、ありがとう」
「ついでに言えば、肉体的に満たしたい相手です」
「そう、ありが――って、どさくさに紛れて何言ってるのよ」
「あははっ。でもこれも、真に受けられては困る相手には言いませんよ、俺は」
ますます直視するのが憚られるナツメの発言に、私はいっそのこと目を閉じてしまいたかった。
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