上 下
69 / 128
第三章 イベント回避の方向で

マナの光(1)

しおりを挟む
 邸一階の廊下を行きながら、私は窓の外を見た。日は完全に落ちて、今夜は雲が厚いのかかなり暗い。
 数刻前に終わった夕食にて、明日の午前に美生とカサハが再び王城へ出向くことが決まった。
 王都を自由に見て回る許可が下りているとはいえ、通常王族しか入室できない禁書庫となればまた話は別だろう。それに美生たちは明日知ることになるが、鍵も司書ではなく専用の管理人がいる。禁書庫専用の管理人なのだから、当然その人物も城勤めなのだ。
 そんなわけで、明日は美生とカサハ以外は二人が城から戻るまで邸で待機となっていた。――予定としては。

(予定は未定ってね)

 窓から廊下へと目を戻す。そこから数歩進んだ後、私は立ち止まった。
 コンコンコン
 目的の部屋――執務室の扉を叩く。中から返ってきた「どうぞ」というナツメの声に、私は扉を開けた。

「お邪魔します」

 言いながら、入室する。
 執務机の横、立ったまま本を読んでいたらしいナツメが、こちらを振り返った。

「アヤコさん? 何かありましたか?」

 訪問者が私なことが意外だったのか、ナツメが少し驚いた表情を見せる。

「あ、ううん。これといって用があったわけじゃないんだけど……」

 私はすぐに出るつもりで、その場で立ち止まって答えた。
 ナツメは夕食前に着替えたので、今はもう彼の服にあの戦闘の痕跡は見られない。
 食堂でも確認したことだ。けれど、また確認したくなり、ここまで押しかけてしまった。

「そうですか。用が無いけれど来た。貴女が口にすると、嬉しく感じるから不思議ですね。まあ、一瞬本当に「謝りに来た」のかと思ったので、その点では残念でしたが」

 ナツメが本を閉じ、それを机の上に置く。
 私は彼が言った『残念な点』が何を指すのか掴めず、首を傾げた。
 そのまま三秒、ナツメの顔を見つめて――

「あ!」

 思い出した。声を上げた拍子に、首も真っ直ぐに戻った。

『いいですよ。謝る必要はありません。必要はありませんが、貴女がそうしたいのであれば、今夜俺のベッドまでどうぞ』

 台詞の後に向けられた妖しい微笑みまで、きっちりと脳内再生されてしまう。思わず私は、顔ごと彼から目を逸らした。

「あんな質の悪い冗談を真に受けるわけないし、ナツメだって真に受けそうなタイプの人には言わないでしょう?」
「正確に表現するなら、真に受けられては困る相手には言いませんね」

 熱くなった頬を手の甲でこすっていた私の方へ、ナツメが寄ってくる。そして目の前まで来た彼は、私のまだ赤いであろう頬をくすぐるような手つきで触れてきた。

「大方、昼間のことを気にして来たんでしょう?」

 核心を突いてきたナツメに、つい彼に目を戻しそうになるのを堪える。

「俺にああ言った指示を出したことを貴女は気に病んでいるようですが、少なくとも俺にとって貴女はいとうどころか、精神的に満たされる相手ですよ」
「……そう、ありがとう」
「ついでに言えば、肉体的に満たしたい相手です」
「そう、ありが――って、どさくさに紛れて何言ってるのよ」
「あははっ。でもこれも、真に受けられては困る相手には言いませんよ、俺は」

 ますます直視するのがはばかられるナツメの発言に、私はいっそのこと目を閉じてしまいたかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】エロ運動会

雑煮
恋愛
エロ競技を行う高校の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

悪の組織のイケメンたちに捕まったのですが、全員から愛されてしまったようです。

aika
恋愛
主人公ユミは、ヒーローたちが働く秘密組織のしがない事務員。 ヒーローたちは日夜、人々の安全を守るため正義の名の下に戦っている。 ある朝目が覚めると、ユミは悪の組織のメンバーに誘拐され監禁されていた。 仮面で素顔を隠している悪の組織のメンバーたち。 ユミの前で仮面を外すと・・・彼らは全員揃いも揃ってイケメンばかり。 ヒーローたちに恨みを持つ彼らは、ユミを酷い目に合わせるはずが・・・彼らの拷問はエッチなものばかりで・・・? どうやら私には悪者の心を惹きつける、隠された魅力があるらしい・・・!? 気付けばユミは、悪の組織のイケメンたち全員から、深く愛されてしまっていた・・・・! 悪者(イケメン)たちに囲まれた、総モテ逆ハーレムラブストーリー。

【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される

吉川一巳
恋愛
気が付いたら男性向けエロゲ『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』のヒロインに転生していた。このままでは山賊に輪姦された後に、主人公のハーレム皇太子の寵姫にされてしまう。自分に散々な未来が待っていることを知った男爵令嬢レスリーは、どうにかシナリオから逃げ出すことに成功する。しかし、逃げ出した先で次期辺境伯のお兄さんに捕まってしまい……、というお話。ヒーローは白い結婚ですがお話の中で一度別の女性と結婚しますのでご注意下さい。

処理中です...