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第三章 イベント回避の方向で
ゲームの内側(2)
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第一波の魔獣がすべて倒され、第二波――増援二体が崖下に現れる。
(ナツメ……ごめん)
想像以上に血が滲んだナツメの服に、私は拳を握り締めた。
防御力の低いナツメにとって魔獣の一撃は、センシルカでカサハが負った傷より重いものになる。
(傷は治っても、傷を負った事実は変わらない)
痛感する。ゲーム中では立ち絵のグラフィックが変わらないため、見過ごしてしまっていた。
もし、今度『彩生世界』をプレイしたなら――。考えようとして、けれど『彼らではない彼ら』の姿が上手く想像できなくて止めた。
バシュンッ
現れた二体の魔獣の内、一体がカサハの剣撃で黒い霧に変わる。続けて彼は、残された一体の爪撃を躱した。
(この後、あの魔獣は崖を上がってくる……)
そしてその位置からは、私も魔獣の射程に入る。私は最後の魔獣の様子を窺いながら、ゴクリと唾を飲んだ。
魔獣に襲われ怪我をするのは、勿論怖い。でもそれ以上に、勝利パターンから外れてしまうことが怖い。
これまで見てきて、魔獣は私に対しても明らかに反応を示していた。単に魔獣にとって攻撃の優先順位が低いだけ。私は本当のシステムグラフィックのように、ゲームの外に存在するわけではないのだ。
攻撃されるのは自分であってはいけない、しかし迂闊に動いてもいけない。私は徐々に近くなってくる交戦地帯に、息を凝らしてこの場に踏み止まった。
(落ち着け、落ち着け……)
崖の上から美生が魔獣に攻撃魔法を当てる。その美生に狙いを定めた魔獣が、私の記憶通り崖を駆け上がってくる。ただし美生の魔法を警戒して、彼女の攻撃範囲外から。美生よりも、私に近い地点から。
手負いの魔獣はカサハなら止めの範囲の軽傷。けれど、崖上まで機動力が足りるのはルーセンだけ。
(大丈夫。手順通りなら)
私は、崖上に姿を現した魔獣を見据えた。
魔獣がこちらを見た――と思った瞬間、「大丈夫」の時は訪れた。
ガシュッ
勢いよく、魔獣の身体から黒い霧が立ち上る。
ルーセンの会心の一撃――戦闘終了だ。
「……はぁ」
私は詰めていた息を大きく吐いた。
途端、真正面に立っていたルーセンがこちらを見てくる。
「アヤコ、あのさ……そんな青い顔するくらいなら、ガーッと遠くに逃げていいよ? 指示自体はどこからでもできるわけだし」
「それだと、フィールドの外にいる本来この場にいない魔獣を釣ってしまう可能性がゼロじゃないから、駄目」
「じゃあいっそのこと、僕たちが豆粒に見えるくらい遠くから指示を出すとか。ほら、城の塔とか登らせてもらって」
「それをやると戦闘になるのがバレバレじゃない。身構えていたら皆の配置が変わるかもしれない。そうなると予言が使えないから、駄目」
「予言細かい!」
ルーセンが額に手を当て、大仰に天を向く。
「そうこうしてる内に、図書館は閉館してる時間だし。仕方ない、明日だね」
それから彼はやれやれといった感じで、暮れ始めた空を指差した。
(ナツメ……ごめん)
想像以上に血が滲んだナツメの服に、私は拳を握り締めた。
防御力の低いナツメにとって魔獣の一撃は、センシルカでカサハが負った傷より重いものになる。
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痛感する。ゲーム中では立ち絵のグラフィックが変わらないため、見過ごしてしまっていた。
もし、今度『彩生世界』をプレイしたなら――。考えようとして、けれど『彼らではない彼ら』の姿が上手く想像できなくて止めた。
バシュンッ
現れた二体の魔獣の内、一体がカサハの剣撃で黒い霧に変わる。続けて彼は、残された一体の爪撃を躱した。
(この後、あの魔獣は崖を上がってくる……)
そしてその位置からは、私も魔獣の射程に入る。私は最後の魔獣の様子を窺いながら、ゴクリと唾を飲んだ。
魔獣に襲われ怪我をするのは、勿論怖い。でもそれ以上に、勝利パターンから外れてしまうことが怖い。
これまで見てきて、魔獣は私に対しても明らかに反応を示していた。単に魔獣にとって攻撃の優先順位が低いだけ。私は本当のシステムグラフィックのように、ゲームの外に存在するわけではないのだ。
攻撃されるのは自分であってはいけない、しかし迂闊に動いてもいけない。私は徐々に近くなってくる交戦地帯に、息を凝らしてこの場に踏み止まった。
(落ち着け、落ち着け……)
崖の上から美生が魔獣に攻撃魔法を当てる。その美生に狙いを定めた魔獣が、私の記憶通り崖を駆け上がってくる。ただし美生の魔法を警戒して、彼女の攻撃範囲外から。美生よりも、私に近い地点から。
手負いの魔獣はカサハなら止めの範囲の軽傷。けれど、崖上まで機動力が足りるのはルーセンだけ。
(大丈夫。手順通りなら)
私は、崖上に姿を現した魔獣を見据えた。
魔獣がこちらを見た――と思った瞬間、「大丈夫」の時は訪れた。
ガシュッ
勢いよく、魔獣の身体から黒い霧が立ち上る。
ルーセンの会心の一撃――戦闘終了だ。
「……はぁ」
私は詰めていた息を大きく吐いた。
途端、真正面に立っていたルーセンがこちらを見てくる。
「アヤコ、あのさ……そんな青い顔するくらいなら、ガーッと遠くに逃げていいよ? 指示自体はどこからでもできるわけだし」
「それだと、フィールドの外にいる本来この場にいない魔獣を釣ってしまう可能性がゼロじゃないから、駄目」
「じゃあいっそのこと、僕たちが豆粒に見えるくらい遠くから指示を出すとか。ほら、城の塔とか登らせてもらって」
「それをやると戦闘になるのがバレバレじゃない。身構えていたら皆の配置が変わるかもしれない。そうなると予言が使えないから、駄目」
「予言細かい!」
ルーセンが額に手を当て、大仰に天を向く。
「そうこうしてる内に、図書館は閉館してる時間だし。仕方ない、明日だね」
それから彼はやれやれといった感じで、暮れ始めた空を指差した。
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