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第三章 イベント回避の方向で
ゲームの内側(1)
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「それって、禁書に魔獣の記述もあるパターンじゃない? 早速、図書館に行って――って、あ、ここで来るわけだ!?」
ポンッと手を打ったルーセンが、次に察した状況に慌てて武器を構える。
魔獣発生の前兆であるグラグラと揺らぐ景色を前に、私はいつものように指示盤と伝達盤を出した。
指示盤で初期配置を再確認する。――大丈夫だ。
慎重になってしまうのは、午前のナツメの一件が頭を過ったから。彼の話では、彼が本来のエピローグと同じ心境になったのは、初日の食堂での一言がきっかけだと言っていた。もう既に、私が知っている物語とは食い違ってしまっていたのだ。
(でも逆に言えば、それでいて本編通り進んでいるということ)
案外、共通ルートや美生が進行中のカサハルートに関連しない限りは、影響がないのかも。あるいは、ナツメのフラグが立ってるどころかエピローグまで回収済みというのが幸いしたのか。とにかく戦闘手順に影響がなさそうなのは助かった。
(幾つかランダムで発生するイベントもあったから、私のもその範囲内に収まっているのかも)
メモに書かれた内容に、時々止まりそうになる手を叱咤しながら手早く手順を入力して行く。
今回の魔獣の第一波は、崖の下に現れる。入力し終えた私が顔を上げたのと、カサハが魔獣への最初の一撃を加えたのはほぼ同時だった。
「どうやら今日は、俺が景気良く血を流しそうな作戦ですね」
「!!」
不意に後ろから来たナツメの声に、カサハに目を向けていた私の心臓が跳ね上がった。
今回の手順は、敵視のシステムを逆用したもの。わざとナツメに過剰に補助魔法を使わせ、彼を囮として使う。――そう、彼が今言ったように。
ナツメを振り返れない私に、彼がそれでもどんな表情をしているのかわかるような楽しげな笑い声を上げる。
「いいですよ。謝る必要はありません。必要はありませんが、貴女がそうしたいのであれば、今夜俺のベッドまでどうぞ」
「! ちょっ!」
さっきとはまた別の理由で、心臓がどきりとする。
そして私は、思わずナツメを振り返ってしまった。移動を始めたナツメとのすれ違いざまに、妖しい笑みが一瞬目に入る。
「何でだろ。僕にはナツメよりアヤコの方がピンチに思えてならない……」
そのナツメの向こう側。ルーセンの「ご愁傷様」と言わんばかりの声に、私はうっかり同意しかけてしまった。
ルーセンも手順に従い、崖の方へと駆けて行く。美生はカサハとともに既に交戦中。一人この場に残った私は、こちらに背を向けたナツメに改めて目を向けた。
(本当にもう……優しい人)
ナツメが詠唱を始める。僅かにも迷った様子など無く。
後悔しないでおこう。きっとそれが彼へのせめてもの礼儀だから。
私は静かに、彼に頭を下げた。
ポンッと手を打ったルーセンが、次に察した状況に慌てて武器を構える。
魔獣発生の前兆であるグラグラと揺らぐ景色を前に、私はいつものように指示盤と伝達盤を出した。
指示盤で初期配置を再確認する。――大丈夫だ。
慎重になってしまうのは、午前のナツメの一件が頭を過ったから。彼の話では、彼が本来のエピローグと同じ心境になったのは、初日の食堂での一言がきっかけだと言っていた。もう既に、私が知っている物語とは食い違ってしまっていたのだ。
(でも逆に言えば、それでいて本編通り進んでいるということ)
案外、共通ルートや美生が進行中のカサハルートに関連しない限りは、影響がないのかも。あるいは、ナツメのフラグが立ってるどころかエピローグまで回収済みというのが幸いしたのか。とにかく戦闘手順に影響がなさそうなのは助かった。
(幾つかランダムで発生するイベントもあったから、私のもその範囲内に収まっているのかも)
メモに書かれた内容に、時々止まりそうになる手を叱咤しながら手早く手順を入力して行く。
今回の魔獣の第一波は、崖の下に現れる。入力し終えた私が顔を上げたのと、カサハが魔獣への最初の一撃を加えたのはほぼ同時だった。
「どうやら今日は、俺が景気良く血を流しそうな作戦ですね」
「!!」
不意に後ろから来たナツメの声に、カサハに目を向けていた私の心臓が跳ね上がった。
今回の手順は、敵視のシステムを逆用したもの。わざとナツメに過剰に補助魔法を使わせ、彼を囮として使う。――そう、彼が今言ったように。
ナツメを振り返れない私に、彼がそれでもどんな表情をしているのかわかるような楽しげな笑い声を上げる。
「いいですよ。謝る必要はありません。必要はありませんが、貴女がそうしたいのであれば、今夜俺のベッドまでどうぞ」
「! ちょっ!」
さっきとはまた別の理由で、心臓がどきりとする。
そして私は、思わずナツメを振り返ってしまった。移動を始めたナツメとのすれ違いざまに、妖しい笑みが一瞬目に入る。
「何でだろ。僕にはナツメよりアヤコの方がピンチに思えてならない……」
そのナツメの向こう側。ルーセンの「ご愁傷様」と言わんばかりの声に、私はうっかり同意しかけてしまった。
ルーセンも手順に従い、崖の方へと駆けて行く。美生はカサハとともに既に交戦中。一人この場に残った私は、こちらに背を向けたナツメに改めて目を向けた。
(本当にもう……優しい人)
ナツメが詠唱を始める。僅かにも迷った様子など無く。
後悔しないでおこう。きっとそれが彼へのせめてもの礼儀だから。
私は静かに、彼に頭を下げた。
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