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第二章 フラグ判定確認中
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徐々に離れていった四人の姿が、やがて見えなくなる。
(この後は王都に行くまで戦闘はない。私が離れていても大丈夫……)
大丈夫。――何が大丈夫だろう。私がいても、カサハは大怪我を負ったのに。しかも質の悪いことに、わかっていて私は彼に怪我を負わせた。
(本当に私の『予言』が最適なの? もっと上手く行く方法があったんじゃないの?)
私は丘の一点に目を向けた。そこはカサハの血で染まっていた。
怪我はナツメの回復魔法で治っても、カサハが傷付いた事実は変わらない。
酷い傷だった。骨が砕ける音にぞっとした。私が彼にそうするよう……言った。
「――ナツメ?」
地面を見ていた私の視界にふと人影が映り、私は顔を上げてその人物の名を呼んだ。
ナツメはどんどんと近付いてきて、ついに私の目の前まで来た。
「どうしたの?」
「どうしたのか、ですか? この場合、そう聞くのは俺の方かと思いますが?」
「え?」
「これまでも貴女は、俺たちを離れた場所から見ていたことはありました。でも俺たちが見えなくなるほど離れたことはなかった。普段と違う様子を見せたなら、気になるのは当然でしょう」
「そ、んなこと……」
否定を口にしながらも、私はナツメから目を逸らしてしまった。普段とは違う――彼の指摘は図星だった。
戦闘が終わり、彩生が終わり、次のイベントが発生する。それは一続きのようであって、だから過去も未来も自分はすべて知っているような感覚で、だけどそれは違っていた。
戦闘が終わった後、彩生までの間にカサハの治療が入った。彩生の後、物語では直ぐに次のイベントの場面へと飛んでいたから、美生の様子を窺いながらカサハが歩いていたことは知らなかった。
今、足下に広がる真新しい踏み跡が残った草も、考えてみれば当たり前であるのに、知らなかった。中には私自身が付けたものも、あるというのに。
「別に、何でもないって。ナツメは細かいからね、考えすぎよ」
何でもない顔を装えたと思えたところで、私はナツメに向き直った。
「――そうですか」
「わっ」
途端、ナツメに後ろ頭を引き寄せられ、額が彼の肩口に当たる。
「なっ、何?」
驚いて反射的に離れようとして、それをナツメのもう片方の手で阻まれる。その手は私の腰を捕らえ、こちらの身動きを完全に封じた。
「別に、俺も何でもありませんよ」
明らかに言葉と行動がちぐはぐなナツメに、私は反論しようとして――開けた口を閉じた。
俺『も』何でもないのだと彼は言った。
ナツメの行動がおかしいと感じるのは、ナツメが私に対してそう感じたということ。彼にしたことを、私はそのまま返されただけ。
「…………さっきの戦闘」
私が逆の立場なら、やはり彼から理由を聞きたいだろう。私は観念して、話を切り出した。
(この後は王都に行くまで戦闘はない。私が離れていても大丈夫……)
大丈夫。――何が大丈夫だろう。私がいても、カサハは大怪我を負ったのに。しかも質の悪いことに、わかっていて私は彼に怪我を負わせた。
(本当に私の『予言』が最適なの? もっと上手く行く方法があったんじゃないの?)
私は丘の一点に目を向けた。そこはカサハの血で染まっていた。
怪我はナツメの回復魔法で治っても、カサハが傷付いた事実は変わらない。
酷い傷だった。骨が砕ける音にぞっとした。私が彼にそうするよう……言った。
「――ナツメ?」
地面を見ていた私の視界にふと人影が映り、私は顔を上げてその人物の名を呼んだ。
ナツメはどんどんと近付いてきて、ついに私の目の前まで来た。
「どうしたの?」
「どうしたのか、ですか? この場合、そう聞くのは俺の方かと思いますが?」
「え?」
「これまでも貴女は、俺たちを離れた場所から見ていたことはありました。でも俺たちが見えなくなるほど離れたことはなかった。普段と違う様子を見せたなら、気になるのは当然でしょう」
「そ、んなこと……」
否定を口にしながらも、私はナツメから目を逸らしてしまった。普段とは違う――彼の指摘は図星だった。
戦闘が終わり、彩生が終わり、次のイベントが発生する。それは一続きのようであって、だから過去も未来も自分はすべて知っているような感覚で、だけどそれは違っていた。
戦闘が終わった後、彩生までの間にカサハの治療が入った。彩生の後、物語では直ぐに次のイベントの場面へと飛んでいたから、美生の様子を窺いながらカサハが歩いていたことは知らなかった。
今、足下に広がる真新しい踏み跡が残った草も、考えてみれば当たり前であるのに、知らなかった。中には私自身が付けたものも、あるというのに。
「別に、何でもないって。ナツメは細かいからね、考えすぎよ」
何でもない顔を装えたと思えたところで、私はナツメに向き直った。
「――そうですか」
「わっ」
途端、ナツメに後ろ頭を引き寄せられ、額が彼の肩口に当たる。
「なっ、何?」
驚いて反射的に離れようとして、それをナツメのもう片方の手で阻まれる。その手は私の腰を捕らえ、こちらの身動きを完全に封じた。
「別に、俺も何でもありませんよ」
明らかに言葉と行動がちぐはぐなナツメに、私は反論しようとして――開けた口を閉じた。
俺『も』何でもないのだと彼は言った。
ナツメの行動がおかしいと感じるのは、ナツメが私に対してそう感じたということ。彼にしたことを、私はそのまま返されただけ。
「…………さっきの戦闘」
私が逆の立場なら、やはり彼から理由を聞きたいだろう。私は観念して、話を切り出した。
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