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第二章 フラグ判定確認中

『神の申し子』(1)

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 センシルカの街は、街の中に転送ポータルが存在する。よって私たちは、同じく転送ポータルが設置してある神殿敷地内から、本当にあっという間にセンシルカへと到着した。
 便利な装置がある弊害か、ルシスでは主な交通手段がこれしかないという。そうなると当然、街を繋ぐ道などは整備されずますます転送ポータル頼りになる。使用にはそれなりの料金が掛かるというから、ルシスの交通事情については装置を管理する教会側の思惑も幾らかありそうだ。

(ゲームでも教会の権力者が黒い部分は、ちらほら出てたもんね……)

 治療士ヒーラーとなるのは通常、神官だ。よって教会は医療の実権も握っているということになる。交通と医療、両方の権力者となれば、それは多くの人は滅多なことでは逆らえないだろう。
 ちなみに「通常」という表現になるのは、ルシス史上最高の治療士とうたわれるナツメが唯一、神官ではないからだ。聖魔法は神の奇跡などではなく単なる学問、よって魔法の使用に信仰心は関係しない――というのが本人談。もっとも、ナツメレベルになるためには、それこそ奇跡的なセンスが必要なわけだが。
 そんな本物の神官泣かせなナツメは、ルシスではちょっとした有名人である。ゲームでもそのくだりは語られていたので、私もそのことは知っていた。
 ――知ってはいた。

「何、この状況……」

 ナツメ以外のメンバーは、センシルカの騎士団長(カサハの叔父さんにあたる)に会いに行ったため、ナツメが宿を取った。美生たち側は今回ストーリーが進むだけなので、私はナツメに付いてきた。で、私だけほんの二十分ほど出掛けた。そして戻ってきたなら――ナツメの部屋の前にひとたかりが出来ていた。
 宿の受付のお姉さんからナツメに来客があった旨は聞いたが、来客以外も大勢詰め寄せているとは聞いていない。ざわめく廊下を呆然として見ていたところ、不意に部屋の扉が開き中からぞろぞろと男たちが出てきた。揃いも揃って見るからにやんちゃそうな彼らが、「来客」だったのだろう。彼らが姿を現すと、野次馬と思われる人波がさっと引けた。

(センシルカの傭兵っぽい?)

 ナツメがセンシルカ入りした情報をすぐさま得て、かつ早々に彼を訪ねる用がある人物――職業といった方が正しいだろうか。それに思い当たり、私はそう見当を付けた。
 現在のセンシルカは、正式な統治者が不在である。イスミナの場合は街ごと消えたが、センシルカは領主邸がピンポイントで消されたからだ。
 邸とともに消えた領主は、王族。故に遺体が見つからない状態で亡き者にするわけにもいかず。新たに王都から派遣された領主はあくまで代理人という立場であり、そして代理人は王族ではない。
 不可解な現象が起きている場所に、王族を派遣するわけにも行かなかったのだろう。しかし、それが誘因となりセンシルカの御三家と呼ばれる大商人たちが、こぞって「我こそが」と領主代理を名乗り上げてしまった。以来センシルカは、各家が雇っている傭兵たちの喧嘩が日常的に見られるという。一言で言って、治安が悪い。
 ただ御三家は、傭兵の腕っ節だけでなく本来の商売の方もちゃんと競っている。そのため、商業都市としては成功していると言える。だから多少治安が悪くても、それほど住人の流出は見られないという話だ。代理人とともに派遣された騎士団が駐在しているので、今のところ一般民への被害が少ないという理由もあるだろう。

「相変わらずナツメ先生の魔法は人間めてんなー」
「止めてんじゃなくて、初めから人間じゃねぇんだろ。何せ『ルシスの申し子』だ」
「違いねぇ」

 私の横を通り過ぎて、男たちが笑いながら帰っていく。その全員が血染めの破れた服を着ているのだから、ちょっとしたホラーだ。あの出血量からいって、診たのがナツメでなければ死んでいたレベルの怪我だったかもしれない。

(ナツメの回復魔法は、死んでいない限り元の状態に戻せるって設定だもんねぇ)

 野次馬たちが見たかったのは、ほぼ死人の彼らが生き返る様だったのだろう。「奇跡だ」「これが噂の……」と口々に言う人混みが、緩やかにけ出す。
 その彼らの最後尾が廊下の角を曲がったのを見て、私はナツメの部屋の扉を叩いた。
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