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第二章 フラグ判定確認中

距離の近さと親密度(1)

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 召喚されて十日が経った。その間に数回戦闘があり、皆も『予言』に慣れてきた模様。
 ルーセンなんて慣れすぎて、「今日は私の出番は無し」と予め言ったにもかかわらず、数刻前の戦闘で伝達盤を探す素振りを見せていた。
 私の出番が無いイコール戦闘が無いという意味じゃないのよ。本編以外は関われないって意味なのよ。事前に説明したからね、私は。だから魔獣が出たときに、「聞いてない」みたい目を向けないで欲しい。
 そんなわけで、今日は役に立てないことがわかっていながら同行した私。
 何が目的って……フラグ判定の確認に来ました、はい。
 今のところ、ゲームの流れ通りに魔獣を仕留めたところで日が暮れ、イスミナの森で野宿(初体験!)という展開になっている。

(皆が集まってキャンプが始まったら、本編イベントの開始なのよね)

 そうなものだから、ここへ来るまでの戦闘は関われなかった。でも本編以外の戦闘って、ゲームでは「この前の戦闘はこうだった」的に勝った前提の語られ方をするわけじゃない。つまり不戦勝も同然。皆、自分を信じて頑張って!
 ――今、頑張るのは私もだけど。

(ぐぬぬ……重い……)

 只今、絶賛水運び中。プラスチック製のバケツで汲んだときの感覚を想定していたので、持ってきた二つのバケツに満杯まで入れてしまった。

(木製バケツは、バケツ自体が重かった……)

 少し考えればわかることなのだけれど、頭からすっぽ抜けていた。

「……ふぅ」

 それでも何とか水汲みを終え、私はカサハが張ったテント側の草むらに腰を下ろした。
 カサハと美生は山菜と薬草を採りに行って、まだ戻っていない。キャンプ周辺に結界を張りに行ったナツメもまだだ。
 私は唯一この場に残っているルーセンを見上げた。彼は小型テーブルに置かれた鍋の中身を、しやくでかき混ぜている最中だ。

「ルーセンて、料理ができたのね」
「できるからっ。君もナツメも失礼だからっ」

 鍋が載せられているのは、魔法で熱を発生させる金属板。オフにするまで載せた物が温かいままという優れものだ。
 魔法のランプも日常的に使われているし、この金属板以外にも魔法道具に分類される調理器具は多いらしい。よく魔法と科学は対比されるが、ルシスにおいても魔法は現代の電気のような感覚で使われているようだ。

「私は純粋に、ルーセンは料理をする機会なんて無かったんじゃないかって、思っただけよ」

 料理担当に名乗りを上げたルーセンに、間髪入れず「俺の解毒魔法は完璧です」と言い放った男と一緒にしないで欲しい。

「邸で初めて作ったときは、味見で倒れてナツメの世話になったけど」
「ナツメの台詞は体験談だったの……」
「今は大丈夫だって。――よし、美味い」

 ルーセンがスープの味見をして――いや、がっつり飲んでいるのが目に留まる。

「ルーセン、味見で全部無くなるとか、そういうギャグはリアルでは要らないからね?」
「あ、僕はこれでいいから先に貰っただけ。アヤコたちは、カサハたちが採ってきた山菜入りの完成品を食べるといいよ」
「それでいいって、持ってきた乾燥野菜しか入ってないじゃない。折角、カサハがこの辺りには食べ応えのある大きなきのこがあるって――あ、そういうこと。きのこが嫌いだから先に入ってないスープを飲みたかったわけ」

 指摘に少しせたルーセンに、確信する。そう言えばルーセンは、きのこ料理全般が駄目なキャラだった。

「……今ので思い出したけどさ、アヤコ」
「うん?」

 私の側まで来たルーセンが、内緒話でもするように顔を寄せてくる。

「初日に君が言ってた僕の「隠しておきたい秘密」って、僕がめちゃめちゃ隠しておきたいアレのことなわけ?」

 実際、内緒話だったようだ。

「多分、そのめちゃめちゃ隠しておきたいアレのことだと思うわ」
「……僕の嫌いな物は知ってたみたいだけど、じゃあカサハの嫌いな食べ物は?」
「カロテ」

 カロテは人参みたいな野菜らしい。

「じゃ、ナツメは?」
「ウリス」

 ウリスはピクルスみたいな食べ物だとか。
 カロテもウリスも実物は見たことがないので、ゲーム中で美生が思っていた感想以上の知識は無い。

「ちょっ、予言者本気でやばいでしょ! 絶対僕の秘密言わないでよ!?」
「だから言わないってば」

 そうこうしている内に、カサハたちが戻ってきたのが目に入る。

「「おかえりー」」

 ルーセンと声が揃う。それも抑揚までそうなったものだから、美生に笑われてしまった。
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