11 / 23
11
しおりを挟む
早馬での手紙を受け取りロベール侯爵は頭を抱えた。
幼い頃は自慢の娘だった。並外れた可愛らしさと頭の良さで周囲からの羨望の眼差しも心地よかった。
だがいつの頃だっただろうか、人としての大事なものをこの娘は持ち合わせていないと気がついたのは…。
皇太子様からの婚約の話を頂いた時も断るつもりだったが本人が自分に相応しいと勝手に決めてしまった…
国母となる決意をして心を入れ替えたのかと思ったら、今日受け取った手紙を見てどうすべきか頭を悩ませていた。
執事が執務室に入ってきてミアの帰宅を告げた。
重い腰を上げミアの元に向かう。
「おかえりミア」
「お父様ただいま戻りました」
にっこりと微笑むその姿は完璧ではあるが、父親は大きく息を吐く。
「ミア…今日カールに何を言った?」
「あら?お父様なんのことかしら?」
帰ってきてソファに座りお茶を飲みながら悪びれることも無くゆっくりと父親を見上げた。
「お前はこの国の皇太子様と婚約をしているのだ。それなのに…」
「ええ、私は皇太子様の婚約者ですわ。だからこそ何をしてもいいのでは?私は頂点に立つ立場ですわ」
ロベール侯爵は片手で顔を覆い首を振る。
「明日からしばらく家から出るな」
「お父様…私に命令されるのですか?」
ミアが自慢の美しい顔を少し崩し父親を睨む。
「そうだ!親である私が命令する。家から出るな」
ロベール侯爵は扉を乱暴に開け、執務室に戻って行った。執事が夫人を呼び、メイド長も加えた3人に今後ミアを外に出すなと伝え、屋敷中に徹底させた。
◇◆◇
放課後ブランカはディアンヌの部屋に向かった。トントンと扉を開くとエミリアが出てきて中に案内してくれた。中にはルネもまだ残っていた。
「ディアンヌ様」
「ブランカ様先程は失礼致しました」
笑って対応していたがいつもの笑顔では無く無理しているのがわかってブランカは胸が痛んだ。
「カール様が2人で話がしたいとお待ちです。案内しますので一緒に来ていただけませんか?」
「カール様がですか?」
──いい機会かもしれませんね。きちんとお話しないと…
下を向いて口をキュッと結び考え込んだがディアンヌが顔をあげた。
「分かりました。案内よろしくお願いいたしますブランカ様」
ルネが一緒に行こうかと言ってくれたが、自分で話をすると決め断った。
ではとブランカが案内するために部屋を出て歩き始める。しばらく廊下を黙って歩いていたがブランカが話はじめた。
「ディアンヌ様…私今日はじめてミア様を見たんですが…」
──お姉様は素晴らしいのです。ブランカ様もきっとそう感じてらっしゃるのね
「はっきり申し上げます。私大嫌いですミア様」
「え?」
歩きを止めブランカを見る。先を歩いていたブランカはくるっと向きを変え、今まで見せたことの無い笑顔をディアンヌに向けた。
「私はディアンヌ様の方が素晴らしいと思います」
「私はディアンヌ様が大好きです」
失礼しますとブランカはディアンヌに抱きついた。そして耳元で
「そう思ってるのは私だけではありません」
ブランカは身体を離してまっすぐ見つめディアンヌの頬を濡らしていた涙を拭いて微笑む。
「あっ…私…え?涙?」
その時はじめて自分が泣いている事に気がついたディアンヌは自分で涙を拭く。
今までずっと心の中にあった大きな塊が少しずつ崩れ始めていた。
──本当にお姉様より私を…?
「ふふっ私男前な事してしまいましたね。カール様に怒られそうです」
さあ行きましょうと手を取られ、植物園の中に連れて行かれた。
学園内の植物園とはいえ、種々さまざまな植物がある。研究に使っているものがほとんどだが、観賞用の花もたくさんある。普段は関係者以外入ることの無い奥にひっそりとテーブル席があった。
そこにはカールが先に来ていてディアンヌの顔を見つけると席から立ち迎えに歩いてきた。
「お連れしました。カール様」
「ありがとうブランカ嬢。ディアンヌ大丈夫か?」
「はい…カール様」
何故かはじめてカールを見たような…婚約者と紹介された時と同じように胸が踊るのを止めることができず、顔が赤くなっていた。
カールがエスコートして席に座らせ、自分も席につくと、カールの付き人がお茶を出してくれた。
「では私はこれで」
とブランカが去っていきその場にはカールとディアンヌだけになっていた。
幼い頃は自慢の娘だった。並外れた可愛らしさと頭の良さで周囲からの羨望の眼差しも心地よかった。
だがいつの頃だっただろうか、人としての大事なものをこの娘は持ち合わせていないと気がついたのは…。
皇太子様からの婚約の話を頂いた時も断るつもりだったが本人が自分に相応しいと勝手に決めてしまった…
国母となる決意をして心を入れ替えたのかと思ったら、今日受け取った手紙を見てどうすべきか頭を悩ませていた。
執事が執務室に入ってきてミアの帰宅を告げた。
重い腰を上げミアの元に向かう。
「おかえりミア」
「お父様ただいま戻りました」
にっこりと微笑むその姿は完璧ではあるが、父親は大きく息を吐く。
「ミア…今日カールに何を言った?」
「あら?お父様なんのことかしら?」
帰ってきてソファに座りお茶を飲みながら悪びれることも無くゆっくりと父親を見上げた。
「お前はこの国の皇太子様と婚約をしているのだ。それなのに…」
「ええ、私は皇太子様の婚約者ですわ。だからこそ何をしてもいいのでは?私は頂点に立つ立場ですわ」
ロベール侯爵は片手で顔を覆い首を振る。
「明日からしばらく家から出るな」
「お父様…私に命令されるのですか?」
ミアが自慢の美しい顔を少し崩し父親を睨む。
「そうだ!親である私が命令する。家から出るな」
ロベール侯爵は扉を乱暴に開け、執務室に戻って行った。執事が夫人を呼び、メイド長も加えた3人に今後ミアを外に出すなと伝え、屋敷中に徹底させた。
◇◆◇
放課後ブランカはディアンヌの部屋に向かった。トントンと扉を開くとエミリアが出てきて中に案内してくれた。中にはルネもまだ残っていた。
「ディアンヌ様」
「ブランカ様先程は失礼致しました」
笑って対応していたがいつもの笑顔では無く無理しているのがわかってブランカは胸が痛んだ。
「カール様が2人で話がしたいとお待ちです。案内しますので一緒に来ていただけませんか?」
「カール様がですか?」
──いい機会かもしれませんね。きちんとお話しないと…
下を向いて口をキュッと結び考え込んだがディアンヌが顔をあげた。
「分かりました。案内よろしくお願いいたしますブランカ様」
ルネが一緒に行こうかと言ってくれたが、自分で話をすると決め断った。
ではとブランカが案内するために部屋を出て歩き始める。しばらく廊下を黙って歩いていたがブランカが話はじめた。
「ディアンヌ様…私今日はじめてミア様を見たんですが…」
──お姉様は素晴らしいのです。ブランカ様もきっとそう感じてらっしゃるのね
「はっきり申し上げます。私大嫌いですミア様」
「え?」
歩きを止めブランカを見る。先を歩いていたブランカはくるっと向きを変え、今まで見せたことの無い笑顔をディアンヌに向けた。
「私はディアンヌ様の方が素晴らしいと思います」
「私はディアンヌ様が大好きです」
失礼しますとブランカはディアンヌに抱きついた。そして耳元で
「そう思ってるのは私だけではありません」
ブランカは身体を離してまっすぐ見つめディアンヌの頬を濡らしていた涙を拭いて微笑む。
「あっ…私…え?涙?」
その時はじめて自分が泣いている事に気がついたディアンヌは自分で涙を拭く。
今までずっと心の中にあった大きな塊が少しずつ崩れ始めていた。
──本当にお姉様より私を…?
「ふふっ私男前な事してしまいましたね。カール様に怒られそうです」
さあ行きましょうと手を取られ、植物園の中に連れて行かれた。
学園内の植物園とはいえ、種々さまざまな植物がある。研究に使っているものがほとんどだが、観賞用の花もたくさんある。普段は関係者以外入ることの無い奥にひっそりとテーブル席があった。
そこにはカールが先に来ていてディアンヌの顔を見つけると席から立ち迎えに歩いてきた。
「お連れしました。カール様」
「ありがとうブランカ嬢。ディアンヌ大丈夫か?」
「はい…カール様」
何故かはじめてカールを見たような…婚約者と紹介された時と同じように胸が踊るのを止めることができず、顔が赤くなっていた。
カールがエスコートして席に座らせ、自分も席につくと、カールの付き人がお茶を出してくれた。
「では私はこれで」
とブランカが去っていきその場にはカールとディアンヌだけになっていた。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
あなたの1番になりたかった
トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。
姉とサムは、ルナの5歳年上。
姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。
その手がとても心地よくて、大好きだった。
15歳になったルナは、まだサムが好き。
気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…
「君が大嫌いだ」といったあなたのその顔があまりに悲しそうなのは何故ですか?
しがわか
恋愛
エリックと婚約発表をするはずだったその日、集まった招待客の前で言われたのは思いがけないセリフだった。
「君が大嫌いだった」
そういった彼の顔はなぜかとても悲しそうだった。
哀しみにくれて帰宅した私は妹に悲嘆を打ち明ける。
けれど妹はあの日から目を覚まさないままで——。
何故彼は私を拒絶したのか。
そして妹が目覚めない理由とは。
2つの答えが重なるとき、2人はまた1つになる。
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。
和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」
同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。
幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。
外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。
しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。
人間、似た物同士が夫婦になるという。
その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。
ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。
そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。
一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる