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早馬での手紙を受け取りロベール侯爵は頭を抱えた。
幼い頃は自慢の娘だった。並外れた可愛らしさと頭の良さで周囲からの羨望の眼差しも心地よかった。
だがいつの頃だっただろうか、人としての大事なものをこの娘は持ち合わせていないと気がついたのは…。

皇太子様からの婚約の話を頂いた時も断るつもりだったが本人が自分に相応しいと勝手に決めてしまった…
国母となる決意をして心を入れ替えたのかと思ったら、今日受け取った手紙を見てどうすべきか頭を悩ませていた。

執事が執務室に入ってきてミアの帰宅を告げた。
重い腰を上げミアの元に向かう。

「おかえりミア」
「お父様ただいま戻りました」

にっこりと微笑むその姿は完璧ではあるが、父親は大きく息を吐く。

「ミア…今日カールに何を言った?」
「あら?お父様なんのことかしら?」

帰ってきてソファに座りお茶を飲みながら悪びれることも無くゆっくりと父親を見上げた。

「お前はこの国の皇太子様と婚約をしているのだ。それなのに…」
「ええ、私は皇太子様の婚約者ですわ。だからこそ何をしてもいいのでは?私は頂点に立つ立場ですわ」

ロベール侯爵は片手で顔を覆い首を振る。

「明日からしばらく家から出るな」
「お父様…私に命令されるのですか?」

ミアが自慢の美しい顔を少し崩し父親を睨む。

「そうだ!親である私が命令する。家から出るな」

ロベール侯爵は扉を乱暴に開け、執務室に戻って行った。執事が夫人を呼び、メイド長も加えた3人に今後ミアを外に出すなと伝え、屋敷中に徹底させた。


◇◆◇


放課後ブランカはディアンヌの部屋に向かった。トントンと扉を開くとエミリアが出てきて中に案内してくれた。中にはルネもまだ残っていた。

「ディアンヌ様」
「ブランカ様先程は失礼致しました」

笑って対応していたがいつもの笑顔では無く無理しているのがわかってブランカは胸が痛んだ。

「カール様が2人で話がしたいとお待ちです。案内しますので一緒に来ていただけませんか?」
「カール様がですか?」

──いい機会かもしれませんね。きちんとお話しないと…

下を向いて口をキュッと結び考え込んだがディアンヌが顔をあげた。

「分かりました。案内よろしくお願いいたしますブランカ様」

ルネが一緒に行こうかと言ってくれたが、自分で話をすると決め断った。
ではとブランカが案内するために部屋を出て歩き始める。しばらく廊下を黙って歩いていたがブランカが話はじめた。

「ディアンヌ様…私今日はじめてミア様を見たんですが…」

──お姉様は素晴らしいのです。ブランカ様もきっとそう感じてらっしゃるのね

「はっきり申し上げます。私大嫌いですミア様」
「え?」

歩きを止めブランカを見る。先を歩いていたブランカはくるっと向きを変え、今まで見せたことの無い笑顔をディアンヌに向けた。

「私はディアンヌ様の方が素晴らしいと思います」

「私はディアンヌ様が大好きです」

失礼しますとブランカはディアンヌに抱きついた。そして耳元で

「そう思ってるのは私だけではありません」

ブランカは身体を離してまっすぐ見つめディアンヌの頬を濡らしていた涙を拭いて微笑む。

「あっ…私…え?涙?」

その時はじめて自分が泣いている事に気がついたディアンヌは自分で涙を拭く。
今までずっと心の中にあった大きな塊が少しずつ崩れ始めていた。

──本当にお姉様より私を…?

「ふふっ私男前な事してしまいましたね。カール様に怒られそうです」

さあ行きましょうと手を取られ、植物園の中に連れて行かれた。

学園内の植物園とはいえ、種々さまざまな植物がある。研究に使っているものがほとんどだが、観賞用の花もたくさんある。普段は関係者以外入ることの無い奥にひっそりとテーブル席があった。
そこにはカールが先に来ていてディアンヌの顔を見つけると席から立ち迎えに歩いてきた。

「お連れしました。カール様」
「ありがとうブランカ嬢。ディアンヌ大丈夫か?」

「はい…カール様」

何故かはじめてカールを見たような…婚約者と紹介された時と同じように胸が踊るのを止めることができず、顔が赤くなっていた。
カールがエスコートして席に座らせ、自分も席につくと、カールの付き人がお茶を出してくれた。

「では私はこれで」

とブランカが去っていきその場にはカールとディアンヌだけになっていた。
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