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36 代役

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声で誰に呼ばれていたのか分かっていたが、振り向かないわけにもいかずゆっくり向きを変える。
距離をとって頭を下げる。そのまま再度声がかかるのを待っていると笑いながら名前を呼ばれる。

「シルヴィ、今日は控えめだね」

声が自分に近づいて来るので一歩下がると足音が早くなり目の前に立たれたのが分かった。さらに下がろうとすると腕を掴まれた。

「顔をあげてシルヴィ」

逃げられる状況ではなく渋々顔をあげると、満面の笑みのフレデリックと目が合った。

「ちょっと来てくれるかな?」
「え?」

「殿下…どちらへ…」

逃げる事もできずグイッと引っ張られたまま歩かされる。食堂から出て反対側の教室に連れていかれると生徒会のメンバーが揃っていた。中にいたマルクがシルヴィに気がつき、目を見開いて驚いている。

「殿下!なぜシルヴィを…」
「代役を頼もうと思ってね」
「代役?」

先程見ていた生徒会の劇で、午後から出演する予定だった生徒が、急遽招待客の案内をすることになり一人足りなくなっていた。
しかし役的にいなくてもストーリーに問題はなくそのまま進めようとなっていたはずなのに、フレデリックが代役を連れてきたのだ。
生徒会メンバーが驚くのも無理はない。

「立ってるだけでいいからお願いできる?」
「え?は?私ですか?」
「殿下…代役は立てなくてもいいと先ほど決めたのでは…」
「私クラスの当番が…」
「そちらには既に連絡してある。いいよね?シルヴィ」

嫌ですとは言えない圧力ある笑顔で、シルヴィは頷くしかなかった。
マルクがシルヴィの腕を掴み

「どうしてこうなった?アランは?」
「いきなり連れてこられて今こうなっているの!私も分からないわよ!アランは委員の仕事に行っちゃったし…」

──アランに怒られる!!でも断れる感じじゃないし…

マルクがフレデリックから見られないようにアランに知らせに行こうとそっと抜け出そうとしたら、いつの間にか扉の前にフレデリックがいて塞がれた。

「マルク今から準備もあるのにどこに行く?」
「いえ、あの…戻ります」

今日のフレデリックは誰にも逆らえない雰囲気が漂っていた。



一度見た劇とはいえ細部まで覚えてはいないので軽く説明を受ける。
シルヴィの役はセリフもなく、舞台上でも一人になることはないようで、2年生の役員と常に一緒らしい。本当にいなくてもいい役ではあった。

マルクは何回か抜け出そうとしたが全て見つかり既に諦めていた。
少し休憩させてもらっていたシルヴィがマルクのそばまで行きコソコソと話をする。

「マルク様!早くどうにかしてくださいよ」
「いやもう立っているだけだしシルヴィ…諦めたら?」
「裏切り者ーー!」

招待客の案内の為急に抜けることになった生徒がシルヴィに頭を下げる。

「本当にすみません。私が出れなくて…」
「立っているだけですし大丈夫です。案内も大変だと思いますので頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。ではよろしくお願いいたします」


──あーもうやるしかないわ…

シルヴィも諦めることにしたが、立っているだけとは言え出るからには失敗して迷惑かけないようにと前向きに考えるようにした。





劇が始まる直前、ものすごく緊張していたシルヴィだったが始まってみるとあっという間に終わりほっと脱力した。
最後のカーテンコールには出るつもりなかったが一緒に舞台にたっていた2年生に一緒にと端ではあったが出させてもらった。
その時後ろの方にローズがいたのが見えた。拍手をしながらシルヴィを見て何しているの?と表情が訴えていたが横に年配の方がいたのでシルヴィが驚いた。

──侯爵様いらしたのね。

後ろに引いてからすぐにローズの元に行こうと扉へ向かおうとするシルヴィの腕をフレデリックが掴み引き止めた。

「どこに行く?」
「あの…ローズのところへ行こうかと」

にっこりと笑いながらも掴んでいる手は離さない。

「殿下…あの…」
「シルヴィはこのまま私のフォローをお願いできるかな?」
「え?でも私この後…」
「頼むね。シルヴィ」

ゾクッと背中に緊張が走る。
断ろうとするもシルヴィは声を出せなかった。
それほどにフレデリックの低く 力のこもった声と目線にそのまま座り込んだ。

マルクがそのすきに抜け出しアランの元に向かう。




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