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ベアトリスから解放され部屋に戻ろうとした時、ちょうどレオンが玄関から入ってくるところだった。

「お疲れ様ですレオン様」

「クレアは何か…疲れてるのか?」

「いえ大丈夫です」

──ちょっと疲れて…いるかも?

心配したレオンがクレアに近づこうとした時、クレアの両手がまっすぐ伸ばされる。

「クレア?」

「あの、これ以上は不意に近づくのはやめてください」

「え?」

「毎回私が耐えられないので!」

──恥ずかしさに!!

「…それは許可を貰えばいいと言う事か?」

ニヤと笑いながらレオンがクレアにゆっくり近づく。

──だからそれがダメなんですってば!!

恥ずかしさに目を瞑って思いっきり両手を伸ばしていたがその手を取られ引っ張られると目の前にレオンがいる。

「レオン様!だから…」
「悲しくなるから程々にしてくれ」

──もう…

微笑んでいるレオンに逆らえないなと思っていると階段上から声がした。

「ちょっと近いから!離れて」

「ルイス!」

「これぐらい良くないか」

「近いから」

ルイスが階段を降りて来てレオンとクレアの間に入り、言い合ってるのを見てクレアはなんだか安心して笑った。


夕食後屋敷に戻るレオンをいつものように見送る時、昼間のジンとの事を言うべきか迷っていた。

──特に言うべき事でもないのかしら?お断りしたし関係ないかしら…

「何かあるのか?」

いつもより表情が曇っていて考え込んでいるクレアに気づくレオン。

「あっ…今日昼にジン様にお会いして…」

何と言えばいいのか言いよどんでいると

「…何と答えた?」

全て分かっているのか、レオンはクレアの顔を見て優しく聞く。

「きちんとお断りしました」

「そうか」

目を細め少し複雑な顔をしているが、レオンの声は優しかった。

「許しをもらえたら抱きしめるが…」

「ダ…ダメです!今日は!!」

──改めて聞かれるのも…恥ずかしい

「また明日来る」

笑いながらレオンは帰って行った。




◇◆◇


いよいよ明日が夜会となってクレアは不安しかなかった。
レオンとの事が嬉しくて直視してこなかった事が現実味を帯びてくる。
今までも漠然とは感じていたが、いざ明日となるとそんなモヤモヤしたものではなく大きな塊の完全に形になった物がのしかかってくる。

「ルイス…私貴族社会って全く知らないのだけど、明日大丈夫なのかしら…?」

「一応わかってたんだねお姉様」

「今更どうしようとか言うことじゃないわよね…?」

ルイスはソファーで本を読みながら姉の顔を見て少し呆れながらため息を吐く。
クレアは両手で顔を挟みウロウロしだした。

「お姉様、じゃあレオン様との結婚やめて家に帰ろう。まだ間に合うよ」

ルイスがニヤっと笑って本気で言ってくる。

「え?いや…それは」

「嫌なんでしょ。じゃあ初めの挨拶だけして後は壁とお友達になってればいいんじゃないかな。僕たちもいるんだしね」

「そうよね!ちょっと挨拶して後は目立たないようにしてれば大丈夫よね!」

──うん、そうしよう

ぐっと手に力を入れ決意を決めたところに無惨にも声がかかる。

「それは無理だね。クレアは主役の1人だし」

いつ来たのか扉のところにウォルターがいた。にこっと笑いながら部屋に入ってきてクレアの前までやってきて

「前も言ったけどクレアが1番だって自慢する会だからね?壁ぎわなんて行く暇ないよ」

「ウォルター様…でも私何をしたらいいのか…いえ、反対にやってはいけない事をしてハミルトン家にご迷惑をおかけしてしまったら」

クレアは喋り始めると止まらなくなった。

「本当に今更ですが、身分的にも釣り合ってませんし、ダンスもできないし、何も誇れるところもないですし、レオン様の隣にいるのに相応しくないし…皆様に幻滅されたら…」

「お姉様!落ち着いてください」

「ハミルトン家の誰1人そんな事気にしてないよ」

ウォルターは笑いながらも真剣な眼差しでクレアを見てさらに続ける。

「クレアが不安にならないようにレオンがエスコートするはずだけど…頼りないもんね。不安ならやっぱり私がエスコートするよ?」

「ウォルター様…」

「大丈夫!母上も夫人会の中で地盤固めてくれてるし、レオンが君を守ってくれるよ」

「でも…」

「まだつまらない事を考えているなら、考える余裕がないようにしようか」

にこっと笑いながらクレアの手を取り少し強引に引っ張っていく。何故か空いてる片手でルイスの腕も掴んでいる。

「さあ音楽を聞いて踊ろうか」

「ウォルター様!!」
「なんで俺まで!!」

そのまま練習ホールまで連れていかれてみっちりとたたきこまれたクレアとルイス。確かに身体を動かしていると考える余裕はなかった。

リーフェンが夕食の為呼びに来てダンスの練習は終わったがその頃にはヘトヘトで喋る気力も残ってはいなかった。
2人を残し先に出たウォルターは玄関で、レオンと会う。

「騎士団の仕事も大事だろうけど、女性を不安にさせるのはどうかな?」

「は?」

ウォルターはレオンまでの距離を詰めながら右人差し指1本をレオンの額に向ける。

「明日の事でクレアが不安定になっているからちゃんと安心させてやれよ」

くるっと向きをかえさっさと食堂まで歩いて行ってしまった。
少し遅れてレオンも食堂に入ると、ドミニク以外は皆揃っていた。ドミニクは遅れるとのことで先に食事を済ませる。その間、ダンスの練習で疲れたクレアとルイスは口数少なく今にも寝そうな感じだったが最後まで耐えていた。

明日は朝から用意もあるのでウォルターもレオンも泊まる予定になっている。食事の後のお茶をレオンとクレアは別で用意してもらい応接間で飲むことにした。

移動中レオンが何も言わないので不思議に思っていたクレアだったが、自身も緊張や疲れから喋る気力がなく無言のまま応接間まで来てしまった。

お茶の用意が終わるとメイドは部屋を出て行ったので完全に2人っきりとなった。

「レオン様今日もお疲れ様でした。お迎えに出れず申し訳ございませんでした」

クレアはダンスの練習の後玄関まで行けなかった事を詫びると

「構わない。クレアは何をしていた?」

「ウォルター様にダンスを…ルイスも一緒にかなりみっちりと…」

そうか…とうなづいてからレオンが黙っているので

「レオン様お疲れでしたら明日もありますのでお休みに…」
「私のエスコートでは不安か?」

「え?」

「私も慣れている訳ではないが、クレアを満足させるように…」
「待ってください。レオン様に不安などありません」

「では…何がクレアを不安にさせている?」

言うべきか迷っているとレオンが隣に座り直し手を取る。

「これくらいは許しなくてもいいか?」

優しく笑いながらレオンが手に力を入れる。

「…今レオン様の横にいる事はとても嬉しいです。でも他の方から見たら私は…やはりレオン様には相応しくないのではと…本当に今更な…」

「私が望んだ事だ!!」

レオンはそっとクレアを引き寄せ肩を抱き

「周りに何も言わせないように明日は側にいる」

「レオン様」

「だから明日は私の側で笑っていてくれればいい」

「在り来りな言葉になるが…クレアの事は私が守るから安心してくれ」

未知なる不安が完全に無くなる訳では無いがレオンが側にいる…その言葉だけで随分と心が軽くなる。

「…はい。レオン様を信じます」

ふっと笑いレオンが頬にキスをする。

「やはり許しが無くても良くないか?」

「…ダメです!」

またまた真っ赤になるクレアを見てレオンも幸せそうに笑う。
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