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浅い眠りを繰り返し、はっきりしない意識を無理やり起こして朝の支度に取りかかる。
ドナルドより先に調理場に行ったので朝食の準備をして、後は食堂に持って行くだけだったが、今朝は声がかからなかった。

エドガーからレオンは昨夜あの後、王宮に戻ったと聞いた。

──呆れられて当然だわ

自分が軽率に動いた為、視察帰りで疲れてたレオンに迷惑をかけた…
ここで働きたいと我儘を言ってこれ以上負担をかける訳には行かないと公爵家行きを決めた。その先は1度実家に戻る事も考えていた。

──ベアトリス様の好意に、甘えっぱなしもダメよね

洗濯しながらも色々考えて身の振り方を決めていった。

「クレア昨日本当に大丈夫だったの?私が変なことに付き合わせちゃって…ごめんなさいね」

「ノラさんのせいじゃないですよ。ちょっと自分が考え無しだっただけなので…」

「そうなの?それならいいけど…」

ノラにも心配かけたとさらに自己嫌悪に陥る。

「本当にすみません。私今日からまた公爵家に行くことになりそうです」

いつ帰ってくるの?と聞かれるのが困るので話を切り上げる。
洗濯終わった頃エドガーが呼びに来た。

「そろそろ行きますか?」

「はい」

ジョンが荷物を持ってくれ馬車まで運んでくれる。乗り込んで出発するだけとなった時早馬の使者がやってくる。

エドガーが手紙を受け取り封を開けると…

「ご主人様が訓練中にゲガを!!このまま王宮に向かいます。クレアさんは…」
「私も行きます!!」

エドガーは迷ったが今ははやく状況を確認しないと…このまま出る方が早いと判断して馬車を走らせる。





王宮入口の門で騎士団詰所までの入場許可をもらう為待っている。
そんなにかからないはずだが、待ってる時間は長く感じる。
クレアは馬車の窓から外を見てはやくと祈る。

その横を王宮から出ていく馬車が通り過ぎようとしていた。門入口なのでかなりゆっくりと通り過ぎる。中の従者がクレアに気づき主人に報告する。

「ニコル様を助けてくださった方です」

そう言われ少しだけ目線を動かしたその男性は、クレアを見てとても驚く。馬車は走り出していたが、今見た少女の顔が頭から離れない。馬車の窓から少ししか見えなかったが、それでも見覚えのある顔と重なる。


「今のは…グレース…?いや、さすがに歳が…まさか」

従者が今ハミルトン家お預かりの方ですと説明するとニヤリと笑って確信する。

──ベアトリス…仲がよかったな…

「こんな偶然もあるとは…こちらに風が吹くとは愉快だ」

中に乗っていた男は楽しそうに声を出して笑っていた。




許可をもらい中に入っていく。
詰所の前に着くとエドガーが急いで降りる。クレアも降りようとするのは止められる。

「待っててください」



──ケガって…


目を閉じ必死に祈るが身体の震えが止まらない。


どれほど経っただろうか、実際はそんなに長くはないが、待ってる間の時間は覚えてない。

ガチャと馬車の扉が開き、レオンが入ろうと顔を上げて動きを止める。

「なぜ…」

「公爵家に行こうとした時に知らせを受けたので、早くこちらにと、そのまま…申し訳ございません」

エドガーが説明するも、中に入ろうとしないレオンに

「申し訳ございません。私降ります」

と急いで降りようするので

「いや良い。とりあえず帰る」

とクレアを手で制し乗り込んで座る。続いてエドガーが乗り込み馬車は屋敷まで戻る。

レオンは額に包帯を巻き右腕も首から吊って固定してる。歩けてはいるが痛みは相当だろうと泣きそうに見てると

「…大丈夫だ。そんな目で見ないでくれ」

「申し訳ございません…」

下を向くクレアとため息をつき下を向くレオン。エドガーはそんな2人を見てため息をつく。

長い沈黙が続く中屋敷につきエドガーより先にクレアが降り扉を開けレオンが入るのを待つ。
さすがに今日は休むと自室に戻っていく。

「クレアさん落ち着いたら送りますので待っててください」

エドガーが大きな声で言いながら少し前を行く主人をちらっと見る。レオンは気にしてないようで階段を上り自室にむかっている。

自室で1度椅子に座ったが、痛みとふらつきもありベッドへ移動する。
傷からの発熱もあり目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。




昔から感情の起伏は少ないほうだった。長兄は頭脳派、次兄は芸術派だったので何となく持った剣や馬が性に合った。兄2人が言い争うのを冷めて見てることが多かったし、表舞台に出ることもほぼなかった。
しかし昨日からの騒動は傍観出来るものではなく、今までに感じたことがない感情ばかりだった。
クレアを掴んでる男に腹が立ち、会いに行ったクレアにも腹が立ち、それを問い詰めてる自分にも腹が立つ。
この感情をなんと言うか分からないが、この頃ずっと下を向かせているのも…もどかしい。
そのモヤモヤを抱えたまま騎士団の訓練で集中力を切らしケガをするとか…自分が情けない。
馬車の中いると思ってなかったクレアが心配そうに見てくるのも苦しかった。昨日の事を引きずってクレアが自分のせいだと思いそうで…

以前襟を直した時に見せた笑顔が見たいだけなのに…




──ちょっと待て、笑顔が見たい…?なんだそれ?

また自分の感情に考えが置いつかず混乱してきた。



送っていくと言ってたから、もうこの屋敷にはいないか…そう思いながらふと目が覚める。

外は既に暗くなっているが、どれぐらい寝てたのか…少し身体を起こそうと向きを変えるとベッドの端で伏して寝ているクレアがいた。起こさないように動いたつもりだったが少しの音でクレアは目を開けた。

「起きて大丈夫ですか?ご気分は?」

「…大丈夫だ」

よかったと安心した笑顔を見て、思わず手を伸ばそうとして固定されてる事を思い出す。

「エドガーさんを呼んで来ます」

「ちょっと待て…」

席をたって出て行こうとするクレアを思わず呼び止めてしまう。
くるっとこちらを向き直したクレアに再度座るよう促して

「昨日は希望も聞かず勝手に進めてすまん」

「え?いえそれは全然…」

「今君の希望を聞いてもいいか?」

「私の希望を言ってもいいんですか…?」

構わんと言うと、レオンと目を合わせ

「私はこちらで…ご主人様の下で働きたいです。我儘は承知しておりますがここに…残りたいです」

残りたいと言ってくれた事が嬉しく少しホッとする。

「…分かった。ちなみに…兄との婚約は前から決められていたのか?」

「は?」

──婚約?誰が誰と?

「えっとあの誰と誰の話ですか?」

「君とウォルター兄上だが」

「まだ1度しかお会いしたことないですのにそんな話出るわけございません!」

慌てているがキッパリ否定したクレアを見て微笑む。



──よかった……ん?


「分かった。エドガーを呼んでくれ」

クレアは一礼して部屋を出る。



──あんなふうに笑うのは心臓に悪いわ!!

かるくパンと頬を叩き階段を降りる。
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