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ルイス元気ですか?
お父様はいつも通りかな。これ以上何か背負わされないようにだけ見ててあげてね。
リサも元気かしら?無理だけしないように言ってあげてね。

私は今、ベアトリス公爵夫人に紹介してもらってレオン・ハミルトン様の屋敷で働かせてもらうことになりました。レオン様はベアトリス様の息子さんなの。騎士団の副団長をされてるみたいよ。

屋敷の人たちもいい人で、大変だけど楽しくやってます。
心配しないでね。
何かあればすぐ連絡してね。

ではまたね。




「お姉様も元気そうだね」

「公爵家のご子息の元なら安心ですね」

ルイスとリサが手紙を見ながら話をしてるとバンっと乱暴に扉を開け、中に入ってくる1人の男。

「クレアどこに行ったって?」

2人がびっくりして振り返る。そこに立ってた人物を見て嫌な顔をする…

「…ヨハン様」





◇◆◇

昨日材料を使いきってしまったので、急遽また買い物に出ることになった。ジョンの仕事が後少し残ってるので先に街中に出る。

──野菜も一気に買った方が得かな…

店先で悩んでいると

「クレアさん奇遇ですね」

「あっジン様」

「様なんていらないよ。ちょうどいい所で会えたね。ちょっと付き合ってもらえる?」

ニコっと人懐っこい笑顔で言われる。
嫌ですと言う暇も与えてもらえず、まあまあと引きずられるようにカフェに連れて行かれる。
仕事の時間じゃないの?と不思議に思いながら、嫌な予感しかしない。

ずんずんと店の奥まですすみ、1人座ってるご婦人の前で止まる。貴族では無さそうだが裕福な家の娘さんみたいだなとクレアは思った。

「お待たせ。こちらが今お付き合いしてるクレアさん」

はいと手を出されて勝手に紹介される。

はぁ?何言い出した?

クレアがびっくりしてる以上に座ってたご婦人がびっくりして

「ジン、あなたさすがにそれはないわ。私のどこが劣っているの?」

それ扱いされましたよね私…。キッと隣で腰をさらっと抱いてるジンを睨む。

「クレアさん優秀なんだ。僕そこが好きなんだよね。君何もできないし身体良くても結婚はないよね」

さらっと今、何言った?さすがに我慢できない。



ドスッ!!



「!!」

ジンがうっと唸りながら膝から崩れた。クレアの右肘がみぞおちにきっちりと入っていた。

「ジン様。こちらからふってさしあげます」

「あなたも行きましょう。もっと素敵な男性はいっぱいいます!!」

座ってたご婦人の腕をつかみ、まだ座り込んでるジンを最後さらに睨みクレアは店から出る。

その様子を座り込みながら見てたジンは大声で笑い出す。

「最高だなクレアさん!」

笑いが止まらないジンは立ってみぞおちあたりを擦る。店中からの視線を集めるが全く気にしてない。



「変な男に騙されずよかったです。あんな男忘れて次を探しましょう!お姉さん綺麗からすぐ見つかりますよ」

「あなた…凄いわね」

店先でそんな会話をしてたらジョンが走って来た。

「クレアさん!こんなところに…」

「あっ買い物途中だった!」

ではまた、幸せになりましょうね!とご婦人と別れ、ジョンにも謝る。汗をかくほど走って探してくれて本当にごめんなさいと。
急いで買い物を済ませ、今日の夕食分だけ持ち帰り、残りは明日運んでもらうことにした。




予定時間よりだいぶ遅くなって屋敷まで戻ると玄関前にジンがいた。ジョンが昼食時の会話を思い出しクレアの前に出てくれたが、話があるからと先に中に入ってもらった。扉が閉まるまで心配そうに見てるジョンに大丈夫と手を振る。

さてと…ひと呼吸おいて、しっかりジンの目を見てクレアは頭をさげる。

「申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか?」

さすがにやりすぎたと少し反省していた。

「え?いやクレアさん謝る事ないよね?こちらこそ本当にすみません」

「いやー今まであそこまで引かない人いなくて、なんて断ればいいか迷って…」

とまだヘラヘラ笑うので

「きちんとお話をして、ジン様が誠意を見せるべきでしたね。今回の事を猛省して今後はお付き合いおひとりにされた方が…」

「うん、そうするよ」

と言いながらクレアとの距離を詰めてくる。引こうとするクレアの手を取り

「本気でクレアさんとお付き合いしたいんだけど」

「は?」

呆気にとられて次の行動にうつせないでいるとさらに距離をつめようと近づいてくる。逃げなきゃと思ったその時


「ジン。何をしてる?」


低い威厳ある声…レオンがいた。

「副団長!!」

ばっと手を離し向きを変え姿勢を正す。その隙にクレアは玄関をあけ中に入り主人が入るのを待つ。

「昼から非番だったな…我が家の使用人に何か用か」

「あっそのえーと…」

「用がないなら帰れ」

「はっ」

クレアの方をちらっと見たが一礼して帰って行った。玄関を入ったレオンが

「何か問題あるか?」

「いえ、大丈夫です。おかえりなさいませご主人様」

そうかと何事もなかったように屋敷の中に入って行く。
助かった…ほっとしながらも夕食の支度を何もしてない事に気づき、急ぎ調理場へ向かった。

「クレアさん大丈夫ですか?ジョンが呼びにきてたんですが…」

「大丈夫です。ちょうどご主人様が帰宅されたところで…」

「そうですか…一応報告しときますね」

「いえこんな些細な事ご主人様に報告するほどでは」

野菜を切りながら笑うと、エドガーはそうはいきませんと去って行った。

「本当に大丈夫だったのか?」

ドナルドまで…私そんなに危なげに見えるかなと首を傾けるが、こんなに心配してもらえるのも悪くないなとちょっと嬉しくなっていた。








夕食後片付けをしてるとエドガーが呼びに来る。

「ご主人様がお呼びです」

「え?」

だから報告しなくていいって言ったのに…執務室まで案内するエドガーの背中に文句を言ってみる。

どうぞと扉を開けて中に入るとレオンは見ていた書類をおき顔を上げる。

「何があったか聞いていいか?ジン絡みだと予想はつくが…」

「本当に些細な事です。ご報告するほどではありません」

まっすぐレオンを見て笑顔で答える。

「しかし…君は大丈夫か?ジンはよく女性関係で揉めるから君が傷つく事があれば…」

「今日の場合私よりジン様の方が痛かったかと…」

「…本当に大丈夫か?」

「はい」

少しほっとした顔をして

「君は母から預かっているから何かあっては困るからな」

あーそうか。ベアトリス様から言われてそうなるか…なんだ…ちょっと残念。残念?

ぶんぶんと頭を振って大丈夫ですと執務室から出た。
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