63 / 103
63、にらめっこ
しおりを挟む宿屋の一室。
テーブルを囲む勇者と魔王と俺。
物凄く変な空気。
「今回は遊びに来ただけで、戦う気はないと」
切り出したのは俺。
魔王が遊びに来たらまずいでしょう。
「そうだ。全然来ないからこっちから出向いた」
──これ、どうするの?
勇者パーティーの倒すべき敵。
その魔王が目の前で座ってます。
本人は遊びに来たとか言っている。
しかも、俺のことをお気に入りになったようですけど‥‥‥。
「魔王は世界を滅ぼそうとしてて、勇者パーティーは邪魔な存在じゃないんですか?」
「女神にそう聞いたんだろうが、そもそも俺は何のために世界を滅ぼすんだ?」
俺が知ってる訳がない。
「‥‥‥普通は魔族の世界を作るために『このムシケラ共め』とか言って、邪魔な人間を滅ぼそうとするんじゃないですかね」
RPGの定番。
「魔族の世界に興味はない。人間も生きようが死のうがどうでも良い」
‥‥‥なにこの無気力魔王。
「じゃあなんで、国を滅ぼしたんだ?」
確か隣国が魔王軍に皆殺しにされて、滅ぼされたと聞いている。
「あれは、やらないといけない契約だったからな」
「‥‥‥契約?」
誰と?
「‥‥‥あと、一つ言っておくが俺は魔族じゃない。人間だ」
「‥‥‥え?!」
「魔族に見えるか?」
「‥‥‥恐ろしく強かったので。顔も隠しておられますし‥‥‥」
魔族を束ねる魔王が人間なんて事があるのか?
「よし、顔をもう一度見せよう。今度はよく見ろ」
「あ、大丈夫です!」
もう鼻血を吹き出すのはごめんだ。
「‥‥‥そうか」
なんとなく残念そうな魔王。
「俺を殺すために、四天王のボラギノ◯ルみたいな名前の魔族を使って、ポキ村の人を全滅させたのはなんでだ?」
「‥‥‥ボルディアな。あの時はニア、お前の存在が邪魔だと思った。村の人間を殺したのはあいつの勝手だし、俺は別に殺せとも殺すなとも言ってない」
滅ぼす気がなくても、やはり魔王にとって人間の命の価値は低そうだな。
「同じ人間なんだろ! だから、これ以上人間を殺すな! とか言ったら怒るタイプですか?」
「わかった」
頷く鉄仮面。
‥‥‥まさか、効果があった。
言ってみるもんだな!
「ただし、条件がある」
「‥‥‥やっぱり」
世界の半分をやるから、仲間になれとかですか?
「俺はこの世界でお前にしか興味がない。たまに遊んでくれるなら、言う事を聞いてやってもいいぞ」
‥‥‥なんですかその条件。
「遊ぶって、殺し合いじゃないですよね?」
『ほら、ニアの腕が血飛沫をあげて飛んだよー』『魔王の足もズタズタでミンチ肉みたいだぞー』とか言い合う遊びは嫌です。
「何で好きな男を殺すんだ? お前は馬鹿なのか?」
馬鹿とか言わないでください。
賢くないのはコンプレックスなんです。
「‥‥‥じゃあ、何をして遊びましょうか」
まさかバトミントンとかドッジボールとかじゃあるまい。
「男と女が遊ぶと言えば‥‥‥人間の言う、その、デートとかいうものじゃないのか?」
‥‥‥魔王とデート。
魔王と街を一緒に歩いたりして大丈夫?!
「魔王城にも、たまには顔を出してくれ。茶くらい用意する」
魔王はそう言うと立ち上がり俺の前に。
「‥‥‥何ですか?」
座ってる状態から背の高い鉄仮面を見上げると、威圧感がハンパない。
「帰る前にやっておきたい事がある。転移魔法は使いこなせるようになったか?」
‥‥‥そんな事まで知ってるのか。
本当に全てバレてるな。
「一応は」
「そうか、俺の顔をよく覚えとけ」
魔王はそう言うと、鉄仮面を脱いでテーブルに置いた。
「ぐっ‥‥‥」
その素顔は恐ろしく美人。
「‥‥‥綺麗!」
隣に座るレイラも、呆然と魔王の顔を見つめている。
「ちゃんと見とけ、そしてお前も顔を見せろ」
力の抜けた俺の顔から、マスクを取るのは容易だろう。
強引に剥ぎ取られました。
服を脱がされた気分。
‥‥‥なんか恥ずかしい。
「‥‥‥っ」
自らダメージを受けておられます。
美しい顔が赤く染まっている。
‥‥‥可愛い。
──いかんいかん。
「‥‥‥覚えたか?」
「‥‥‥はい」
俺たちは、イソイソと鉄仮面とマスクを装備した。
完全に事後。
「これでお互い、いつでも転移出来るな」
‥‥‥お互い?
「あの、転移魔法使えるんですか?」
「俺はだいたいの魔法は使える」
さすが魔王というところ。
だが、転移魔法なんて魔王に必要か?
本来城にずっといる存在でしょう。
「俺も昔は色々と旅に出たからな」
「‥‥‥魔王も旅行とかするんですね」
魔王に休日とかあるの?
「言ってなかったが、俺は元々勇者だったからな。お前らの使える魔法は全て使える」
「‥‥‥はい?」
魔王が勇者?
0
お気に入りに追加
607
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ
るさんちまん
ファンタジー
40代を数年後に控えた主人公は、ある日、偶然見かけた美少女を事故から助けようとしたところ、彼女の姿で異世界に転生してしまう。見た目は美少女、中身はアラフォーおっさんというギャップで、果たして異世界生活はどうなってしまうのか──。
初めての異世界物です。1話毎のエピソードは短めにしてあります。完走できるように頑張りますので、よろしくお付き合いください。
※この作品は『小説家になろう』(https://ncode.syosetu.com/n9377id/)、『カクヨム』(https://kakuyomu.jp/works/16817139554521631455)でも公開しています。
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜
出汁の素
ファンタジー
アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。
これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。
そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。
のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。
第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。
第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。
第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。
第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。
1章20話(除く閑話)予定です。
-------------------------------------------------------------
書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。
全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。
下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる