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第四章
第27話
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「サリナ様、ヒースクリフ殿下をよろしくお願いしますね」
テレセおばさまは、なんでもないような顔でいろいろ言っていたけれど、本当のところは保身のためでもなく、旦那様やギルバートに言われたからでもなく、ヒースのことをすごく心配してるんだって思った。
「あのような事情で、ずっと心の安まるお相手も得ることができずにいらしたの。平民だったら子ができなくても仲の良い夫婦はいると聞くのに、王族貴族はだめなのよ。殿下が王妃様が亡くなられた時に事情を明らかにして身を引きたいと仰ったのを、旦那様は止めたけれど、わたくしにはできませんでした」
もう亡くなられたヒースのお母さんだった王妃様と、テレセおばさまはとても仲がよかったらしい。
「王族であることを捨てることでヒースクリフ殿下が幸せになれるのなら、それでいいと思っていたの。結局わたくしたちの都合で呼び戻すことになってしまったけれど、せめてサリナ様とお幸せになれるように、お力になりたいわ」
「……ありがとうございます」
もうどう答えていいかわからなかったから、そう言った。
あと、長々と答えることはできなかった。
今、わたしはコルセットを締められている真っ最中だからだ。
締めているのはミルラ、締められているのはわたし。
信頼できる侍女しか連れていけないとなると、既に巻き込まれて一蓮托生気味のミルラに一通りできるようになってもらうしかないということで、湯浴みの世話から始まり、現在はドレスの着付けの練習中。
絹っぽい生地の下着をつけ、コルセットを締め、ドレスを着付けるところまで。
「お世話について行くことはできませんけれど、できるだけ面会にまいりますから、その時にまたいろいろお教えしますわ」
他の侍女さんたちは、今はちょっと離れたところで控えている。
ギルバートが連れてきたヒースが王子様なのはわかっているんだろうから、その更に連れであったわたしたちが訳ありなのは察しているだろう。
ヒースはこの国に黒髪がいないって言ってたから、少なくとも外国人認識なのは間違いない。
この国の人の容姿はヨーロッパ風だから、顔立ちも違うしね。
「こっこれでいいですか?」
「もうちょっと締められそうだけど」
無理!
むり!!
これ以上締めたら死んじゃう!
「これくらいから始めて、慣れたらもっと締めることにしましょうね」
テレセおばさまの鬼発言に膝を突きそうになったけど、どうにか踏み止まった。
貴族のお嬢様がこんな圧死しそうな矯正下着を着けているってことは知識があったけど、自分が着けることになるとは思わなかった……
「じゃあ、今のうちに採寸いたしましょう。生憎と、サリナ様の着られるドレスをたくさん用意することはできませんでしたの。足らない分は急いで作らせますわ」
「え……いや、そんな」
そこまでしてもらっていいんだろうか?
でも、いいも悪いもわからない。
なにしろ、わたしは最初から身一つだからだ。
食べる物も着る物も、寝床だってヒースの善意にどっぷり甘えていた。
「出来合いの、古着で十分なんですが……」
せめて新品じゃなくてもと伝えると。
「それがね、この枷があるから、袖のあるものは無理なの。その型のものと決まっているから、たくさんは無理だったのよ」
そういうことかあああ……
脱ぐ時に手こずったんだから、着るのも制限がかかるに決まってた。
でも枷の役目を考えたら、外すことはできない。
……観念して、採寸されることにする。
「あら、よかったわ。ソフィアのがちょうどいいのねえ」
どうやら、テレセおばさまの娘さんとサイズが近いらしい。
「ソフィアのドレスはほとんど手を入れずに着られそうだわ。歳も近そうだし、仲良くしてくださいね」
…………
サイズが近いのは事実かもしれないけど、年齢が近いっていうのは間違いじゃないのかな。
だって、さっきの話だと娘さんとギルバートってだいぶ歳離れてるんじゃないっけ。
ギルバートとわたしの差って、いいとこ3~4歳くらいじゃないかなあって思うんだけど。
疑問を捨て置けなくて、そっと訊いてみた。
「……娘さん、おいくつですか?」
「ソフィアは14になりました」
14と22は近い……?
いや、近い近くないで考えちゃいけない。
問題は、わたしの歳が14に近いと思われてるってことだ。
いいのかそれ。
ヒースにも言われたっけ、14か15に見えたって。
ヒースも実年齢より若く見えるからその時は気にしてなかったけど、わたしが14じゃ、22だって言ってたヒースがロリコンだってことになっちゃうよ。
……って。
しまった。ヤバイ。
見た目判断だと本当にそうなのかも。
今更のようにショックを受けて、固まった。
「さあ、ドレスを着ましょうね」
そんなことでぐるぐるしてるうちに、いつの間にか着付けが終わる。
着付けどころか、アクセサリーもつけられて、軽く化粧まで終わっていた。
「よかったわ、晩餐の時間には間に合ったわね」
いい仕事をしたとばかりに笑顔のテレセおばさまに手を引かれて、部屋を出た。
ミルラは既に力尽きていたようで、部屋を出る時に振り返ったらソファでぐったりしていた。
「お待たせいたしましたわ」
わたしはヒースとギルバートがいる部屋に連れて行かれた。
そこでハッとした。
ぼーっとしてて、自分のでき上がりをちゃんと確認していない。
鏡を見せてもらったはずだけど、ちゃんと憶えていなかった。
どうにか思い出せるのは、袖がないどころか襟がない、そんなに大きくない胸の半分ちょっと上のところまでしか布地がないドレスだった。
そう思って見下ろせば、一応谷間が見えた。
……露出、高すぎないだろうか。
そう思って覚悟を決めてヒースの顔を改めて確認したら、ちょっと顔を顰めている気がした。
あんまり直視はできなかったけど、でも、見た感じだとそう思った。
やっぱりちょっとヤンデレな人に、この露出度はまずいのでは。
「ずいぶん大人びたドレスにしたのですね、母上」
ギルバートは単純にびっくりしたみたいだった。
「だって、袖のあるドレスは着られないのですもの。ソフィアのドレスなのだけど、大人っぽいから着る機会がなかったものなのよ。同じような型の物は多くないけど、すべてサリナ様に差し上げるわ。足らない分は急いで作らせるから、お待ちになってね」
「ありがとうございます、バルフ公爵夫人」
そう答えたヒースをチラ見したら、微笑んでいる。
……大丈夫だったのかな……
テレセおばさまは、なんでもないような顔でいろいろ言っていたけれど、本当のところは保身のためでもなく、旦那様やギルバートに言われたからでもなく、ヒースのことをすごく心配してるんだって思った。
「あのような事情で、ずっと心の安まるお相手も得ることができずにいらしたの。平民だったら子ができなくても仲の良い夫婦はいると聞くのに、王族貴族はだめなのよ。殿下が王妃様が亡くなられた時に事情を明らかにして身を引きたいと仰ったのを、旦那様は止めたけれど、わたくしにはできませんでした」
もう亡くなられたヒースのお母さんだった王妃様と、テレセおばさまはとても仲がよかったらしい。
「王族であることを捨てることでヒースクリフ殿下が幸せになれるのなら、それでいいと思っていたの。結局わたくしたちの都合で呼び戻すことになってしまったけれど、せめてサリナ様とお幸せになれるように、お力になりたいわ」
「……ありがとうございます」
もうどう答えていいかわからなかったから、そう言った。
あと、長々と答えることはできなかった。
今、わたしはコルセットを締められている真っ最中だからだ。
締めているのはミルラ、締められているのはわたし。
信頼できる侍女しか連れていけないとなると、既に巻き込まれて一蓮托生気味のミルラに一通りできるようになってもらうしかないということで、湯浴みの世話から始まり、現在はドレスの着付けの練習中。
絹っぽい生地の下着をつけ、コルセットを締め、ドレスを着付けるところまで。
「お世話について行くことはできませんけれど、できるだけ面会にまいりますから、その時にまたいろいろお教えしますわ」
他の侍女さんたちは、今はちょっと離れたところで控えている。
ギルバートが連れてきたヒースが王子様なのはわかっているんだろうから、その更に連れであったわたしたちが訳ありなのは察しているだろう。
ヒースはこの国に黒髪がいないって言ってたから、少なくとも外国人認識なのは間違いない。
この国の人の容姿はヨーロッパ風だから、顔立ちも違うしね。
「こっこれでいいですか?」
「もうちょっと締められそうだけど」
無理!
むり!!
これ以上締めたら死んじゃう!
「これくらいから始めて、慣れたらもっと締めることにしましょうね」
テレセおばさまの鬼発言に膝を突きそうになったけど、どうにか踏み止まった。
貴族のお嬢様がこんな圧死しそうな矯正下着を着けているってことは知識があったけど、自分が着けることになるとは思わなかった……
「じゃあ、今のうちに採寸いたしましょう。生憎と、サリナ様の着られるドレスをたくさん用意することはできませんでしたの。足らない分は急いで作らせますわ」
「え……いや、そんな」
そこまでしてもらっていいんだろうか?
でも、いいも悪いもわからない。
なにしろ、わたしは最初から身一つだからだ。
食べる物も着る物も、寝床だってヒースの善意にどっぷり甘えていた。
「出来合いの、古着で十分なんですが……」
せめて新品じゃなくてもと伝えると。
「それがね、この枷があるから、袖のあるものは無理なの。その型のものと決まっているから、たくさんは無理だったのよ」
そういうことかあああ……
脱ぐ時に手こずったんだから、着るのも制限がかかるに決まってた。
でも枷の役目を考えたら、外すことはできない。
……観念して、採寸されることにする。
「あら、よかったわ。ソフィアのがちょうどいいのねえ」
どうやら、テレセおばさまの娘さんとサイズが近いらしい。
「ソフィアのドレスはほとんど手を入れずに着られそうだわ。歳も近そうだし、仲良くしてくださいね」
…………
サイズが近いのは事実かもしれないけど、年齢が近いっていうのは間違いじゃないのかな。
だって、さっきの話だと娘さんとギルバートってだいぶ歳離れてるんじゃないっけ。
ギルバートとわたしの差って、いいとこ3~4歳くらいじゃないかなあって思うんだけど。
疑問を捨て置けなくて、そっと訊いてみた。
「……娘さん、おいくつですか?」
「ソフィアは14になりました」
14と22は近い……?
いや、近い近くないで考えちゃいけない。
問題は、わたしの歳が14に近いと思われてるってことだ。
いいのかそれ。
ヒースにも言われたっけ、14か15に見えたって。
ヒースも実年齢より若く見えるからその時は気にしてなかったけど、わたしが14じゃ、22だって言ってたヒースがロリコンだってことになっちゃうよ。
……って。
しまった。ヤバイ。
見た目判断だと本当にそうなのかも。
今更のようにショックを受けて、固まった。
「さあ、ドレスを着ましょうね」
そんなことでぐるぐるしてるうちに、いつの間にか着付けが終わる。
着付けどころか、アクセサリーもつけられて、軽く化粧まで終わっていた。
「よかったわ、晩餐の時間には間に合ったわね」
いい仕事をしたとばかりに笑顔のテレセおばさまに手を引かれて、部屋を出た。
ミルラは既に力尽きていたようで、部屋を出る時に振り返ったらソファでぐったりしていた。
「お待たせいたしましたわ」
わたしはヒースとギルバートがいる部屋に連れて行かれた。
そこでハッとした。
ぼーっとしてて、自分のでき上がりをちゃんと確認していない。
鏡を見せてもらったはずだけど、ちゃんと憶えていなかった。
どうにか思い出せるのは、袖がないどころか襟がない、そんなに大きくない胸の半分ちょっと上のところまでしか布地がないドレスだった。
そう思って見下ろせば、一応谷間が見えた。
……露出、高すぎないだろうか。
そう思って覚悟を決めてヒースの顔を改めて確認したら、ちょっと顔を顰めている気がした。
あんまり直視はできなかったけど、でも、見た感じだとそう思った。
やっぱりちょっとヤンデレな人に、この露出度はまずいのでは。
「ずいぶん大人びたドレスにしたのですね、母上」
ギルバートは単純にびっくりしたみたいだった。
「だって、袖のあるドレスは着られないのですもの。ソフィアのドレスなのだけど、大人っぽいから着る機会がなかったものなのよ。同じような型の物は多くないけど、すべてサリナ様に差し上げるわ。足らない分は急いで作らせるから、お待ちになってね」
「ありがとうございます、バルフ公爵夫人」
そう答えたヒースをチラ見したら、微笑んでいる。
……大丈夫だったのかな……
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