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第二章
第10話
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……なんかこう、監禁を示唆するような言葉だった気がするんだけど、わたしをそんな風にまでして確保して、ヒースになんかいいことがあるんだろうか。
研究のため……とか……?
「ここにいてくれますか? サリナ」
「いや、あの」
「どうしても……駄目なんですか? 私のそばにはもういられませんか? 私が……」
ヒースの顔は、もう怒ってない気がした。
今度は、苦しそうだ。
「嘘を吐いたと怒っている?」
……嘘?
ヒースがなにを言ってるのかわからない。
「嘘ではないんです。本当に、サリナを見つけるまで、私は誰にもそういう興味を持ったことがなかったんです。その、サリナが本当に初めてで」
あ。そういう興味って、あれか!
わたしを見つけるまでは誰にも……わたしが初めて……
あれ?
恋人はいたことなかったの?
あ、いや、そうじゃなくて。
…………
ええとええと、ええと。
わたしのせい?
今朝のあれが効いちゃったって話よね。
自分でやったことに効果があったって言われただけなのに、それって……!
ちょっと忘れてたのに、また恥ずかしくなってしまった。
今日は次から次へと恥ずかしいことがあって、頭に血が昇りすぎだ。
血管がどっか切れそう。
でも、自分のしたことでヒースを振り回して、その挙げ句の果てに怒っているなんて誤解は解かないといけない。
ここは恥ずかしくても、下を向いちゃだめだ。
顔はきっと赤いけど、我慢よ、我慢!
「それは、わたしのせいだから。怒ったりとかしないよ、絶対」
ヒースの表情が目に見えて、ほっとした。
わたしも息をついた。
そして今なら聞けるかと、さっきのことを考える。
「ねえ」
もしかして、わたしになにか利用価値があったりするんだろうか。
「わたしって、ここにいたらヒースの研究の役に立ったりする?」
「サリナを利用するようなことは、絶対にしません」
……可能かどうかの前に、拒否された気がする。
利用価値があるからここにいてほしいって言ってくれれば、少しは気にせずにここにいられると思ったのに。
今はわたしが一方的に迷惑をかけているだけで、この先もそうで、それが終わる時には更なる大迷惑をかけるだろうと思われるわけで。
わたしはヒースに、なんにもお返しできない。
利用価値があったって迷惑には変わりないけど、それまでは利用できるなら見つからないことに賭けようっていう気持ちになれるかもしれない。
「じゃ、じゃあ、さっきのは何? わたしを閉じ込めて、どうしたいの?」
半分自棄になって、迫るように直球でヒースに訊いた。
ヒースはそんなわたしにも怯むことなく、まっすぐに答えてきた。
「大切にしたいです」
……なにそれ?
勢いこんだ分、よけいに唖然としてしまう。
そして、三つ数えるくらいの時間が過ぎたら、猛烈に腹が立ってきた。
「なによ、それ」
「サリナ?」
「なんでそんなこと言うの! だから勘違いするんじゃないの!」
「勘違いですか?」
「勘違いよ! あなたがわたしのこと好きかもしれないって!」
「…………」
「そんなこと思わなかったら、あそこまでしない!」
仮に身代わりだとしても、好きでいてくれるのかもしれないって思ったから。
それこそ女神補正しかないわたしに、どう見ても美形のヒースをなんにもないところから振り返らせられるとは思わないっての。
「……それは勘違いじゃないですよ。私はサリナが好きですから」
「じゃあなんで避けたの? そりゃ黙って女神の力を使おうとしたのは悪かったけど。さっきヒース、だめだって言ったけど、元々好きならいいじゃないの。それで気持ちが変わったりしないんだから」
「そんなの駄目に決まってるでしょう。サリナはやっぱりちゃんとわかってない。好きな人に意に添わぬ暴力を振るうかもしれないんですよ? 好きなんですから、理性が吹き飛んだらどうするかなんてわかりきってる」
え……
好きって、本気で。
勘違いじゃなくて。
「……す、好き?」
心臓がどくどくいってる。
「あなたがそう信じてくれればどこにも行かないのなら、いくらでも言います。好きです。だから、ここにいてください。あなたがどこかに行くということは、そのままあなたを他の男に奪われることです。それを嫌だと思うのは私のわがままですけど、サリナだって……その……私は嫌われてはいないと思ってたんです」
わたしの顔も赤いだろうけど、ヒースの顔も赤い。
「じゃ、じゃあ、触ってきたりとかしたのは」
ヒースの手がやっとわたしの腕から離れたかと思うと、両手で顔を覆って俯いた。
「すみません……抑え切れてないのはわかっていましたけど……つい。嫌でしたか……」
じゃあ……当たってた?
勘違いじゃなかったって、思ってもいい?
「い、嫌じゃなかったから大丈夫よ」
「……大丈夫ですか?」
「うん。……乱暴するかもしれないから、女神の力は使っちゃだめだったのね」
ヒースは最初からそう言ってたけど、ちゃんと受け止められてなかったなって今更思う。
顔を覆う手を片方だけにして、ヒースは頷いた。
「はい。……安全な男のふりをして、すみません。でも、そうでないとサリナが怖がると思って。危ない男といっしょにいるより、と思われるのが怖くて」
それはそうかもしれない。
安心が先にあって、ヒースを好きになったのはきっとある。
「ありがとう。ヒースはわたしのことを思ってそうしてくれたんだって、わかるから、大丈夫。……ヒースに触られるのも嫌じゃないし」
「嫌じゃない、ですか?」
「嫌じゃないわ。嫌だったら……力を使ってヒースの気を惹こうとも思わないよ」
ヒースも首まで赤い。
私は多分、もっと。
二人で真っ赤になって、何してるの。
「じゃあ、触れても……いいですか」
嫌じゃないけど、正面切って言われるのは恥ずかしいってば!
でも、ここで嫌とは言えない。
緊張しながらも、頷いた。
「い、いいよ」
……そっと伸びてきた手のひらが、頬に触れてから髪を撫でた。
正面からくるのを待ち構えるって、またなんとも恥ずかしい……
研究のため……とか……?
「ここにいてくれますか? サリナ」
「いや、あの」
「どうしても……駄目なんですか? 私のそばにはもういられませんか? 私が……」
ヒースの顔は、もう怒ってない気がした。
今度は、苦しそうだ。
「嘘を吐いたと怒っている?」
……嘘?
ヒースがなにを言ってるのかわからない。
「嘘ではないんです。本当に、サリナを見つけるまで、私は誰にもそういう興味を持ったことがなかったんです。その、サリナが本当に初めてで」
あ。そういう興味って、あれか!
わたしを見つけるまでは誰にも……わたしが初めて……
あれ?
恋人はいたことなかったの?
あ、いや、そうじゃなくて。
…………
ええとええと、ええと。
わたしのせい?
今朝のあれが効いちゃったって話よね。
自分でやったことに効果があったって言われただけなのに、それって……!
ちょっと忘れてたのに、また恥ずかしくなってしまった。
今日は次から次へと恥ずかしいことがあって、頭に血が昇りすぎだ。
血管がどっか切れそう。
でも、自分のしたことでヒースを振り回して、その挙げ句の果てに怒っているなんて誤解は解かないといけない。
ここは恥ずかしくても、下を向いちゃだめだ。
顔はきっと赤いけど、我慢よ、我慢!
「それは、わたしのせいだから。怒ったりとかしないよ、絶対」
ヒースの表情が目に見えて、ほっとした。
わたしも息をついた。
そして今なら聞けるかと、さっきのことを考える。
「ねえ」
もしかして、わたしになにか利用価値があったりするんだろうか。
「わたしって、ここにいたらヒースの研究の役に立ったりする?」
「サリナを利用するようなことは、絶対にしません」
……可能かどうかの前に、拒否された気がする。
利用価値があるからここにいてほしいって言ってくれれば、少しは気にせずにここにいられると思ったのに。
今はわたしが一方的に迷惑をかけているだけで、この先もそうで、それが終わる時には更なる大迷惑をかけるだろうと思われるわけで。
わたしはヒースに、なんにもお返しできない。
利用価値があったって迷惑には変わりないけど、それまでは利用できるなら見つからないことに賭けようっていう気持ちになれるかもしれない。
「じゃ、じゃあ、さっきのは何? わたしを閉じ込めて、どうしたいの?」
半分自棄になって、迫るように直球でヒースに訊いた。
ヒースはそんなわたしにも怯むことなく、まっすぐに答えてきた。
「大切にしたいです」
……なにそれ?
勢いこんだ分、よけいに唖然としてしまう。
そして、三つ数えるくらいの時間が過ぎたら、猛烈に腹が立ってきた。
「なによ、それ」
「サリナ?」
「なんでそんなこと言うの! だから勘違いするんじゃないの!」
「勘違いですか?」
「勘違いよ! あなたがわたしのこと好きかもしれないって!」
「…………」
「そんなこと思わなかったら、あそこまでしない!」
仮に身代わりだとしても、好きでいてくれるのかもしれないって思ったから。
それこそ女神補正しかないわたしに、どう見ても美形のヒースをなんにもないところから振り返らせられるとは思わないっての。
「……それは勘違いじゃないですよ。私はサリナが好きですから」
「じゃあなんで避けたの? そりゃ黙って女神の力を使おうとしたのは悪かったけど。さっきヒース、だめだって言ったけど、元々好きならいいじゃないの。それで気持ちが変わったりしないんだから」
「そんなの駄目に決まってるでしょう。サリナはやっぱりちゃんとわかってない。好きな人に意に添わぬ暴力を振るうかもしれないんですよ? 好きなんですから、理性が吹き飛んだらどうするかなんてわかりきってる」
え……
好きって、本気で。
勘違いじゃなくて。
「……す、好き?」
心臓がどくどくいってる。
「あなたがそう信じてくれればどこにも行かないのなら、いくらでも言います。好きです。だから、ここにいてください。あなたがどこかに行くということは、そのままあなたを他の男に奪われることです。それを嫌だと思うのは私のわがままですけど、サリナだって……その……私は嫌われてはいないと思ってたんです」
わたしの顔も赤いだろうけど、ヒースの顔も赤い。
「じゃ、じゃあ、触ってきたりとかしたのは」
ヒースの手がやっとわたしの腕から離れたかと思うと、両手で顔を覆って俯いた。
「すみません……抑え切れてないのはわかっていましたけど……つい。嫌でしたか……」
じゃあ……当たってた?
勘違いじゃなかったって、思ってもいい?
「い、嫌じゃなかったから大丈夫よ」
「……大丈夫ですか?」
「うん。……乱暴するかもしれないから、女神の力は使っちゃだめだったのね」
ヒースは最初からそう言ってたけど、ちゃんと受け止められてなかったなって今更思う。
顔を覆う手を片方だけにして、ヒースは頷いた。
「はい。……安全な男のふりをして、すみません。でも、そうでないとサリナが怖がると思って。危ない男といっしょにいるより、と思われるのが怖くて」
それはそうかもしれない。
安心が先にあって、ヒースを好きになったのはきっとある。
「ありがとう。ヒースはわたしのことを思ってそうしてくれたんだって、わかるから、大丈夫。……ヒースに触られるのも嫌じゃないし」
「嫌じゃない、ですか?」
「嫌じゃないわ。嫌だったら……力を使ってヒースの気を惹こうとも思わないよ」
ヒースも首まで赤い。
私は多分、もっと。
二人で真っ赤になって、何してるの。
「じゃあ、触れても……いいですか」
嫌じゃないけど、正面切って言われるのは恥ずかしいってば!
でも、ここで嫌とは言えない。
緊張しながらも、頷いた。
「い、いいよ」
……そっと伸びてきた手のひらが、頬に触れてから髪を撫でた。
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