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第6話

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「わかっていますよ」

 エドアールは侯爵に答えて、またこちらを向いて、わたしの上に圧し掛かった。

「……目を瞑って」

 彼はまた囁く。

「好きな男がいるのなら、そいつを思い浮かべているといい」

 思い浮かべる相手なんて一人しかいないけれど、それは無理だ。
 申し訳なくて、そんなことできない。
 ラウール様にも、エドアールにも。

 でも言葉で説明することもできなかったから、首を振って答えた。

「……そう。じゃあ、力を抜いて」

 わたしの閨着を肩から下ろして、首筋に唇が触れた。
 思っていたほど、嫌な感触じゃなかった。
 エドアールが見せてくれた誠意が、拒否感を弱めたのかもしれない。

 でも指先も唇も肌をなぞっているだけで、何も感じなかった。
 エドアールの指は足に至り、腿を撫でてから、その付け根を何度も撫で摩ったけど、少し居心地が悪い感じがした。

「…っ」

 それから指は奥へと進んで、そこで痛みを覚えた。
 押すような動きに、圧迫感を感じる。
 やがてぬるりとした感じが出て、指は更に奥へ進んだ。

 エドアールの指はわたしのそこを広げようとしていたけれど、指でも痛い。
 庶民だった頃の友人のおかげで閨事の知識はあるけれど、こんなに痛いのか。

「力抜いて」

 痛いから力が入る。
 我慢すれば力が入っちゃう。
 どうしたらいいの。

「力を抜いて……」

 エドアールはもう片方の手でわたしの頬を撫でた。
 その手の感触に気を取られているうちに、彼の顔が近付いていた。
 唇に何かが押し当てられた。

 ……口づけだ。

 口づけも初めてだ。
 びっくりしたけど、やっぱりそんなに嫌だとは思わなかった。
 この先誰かとすることもないから、キスはエドアールとだけなんだろう。
 こうして体を重ねることも、きっとエドアールとだけだ。

 あの老人とじゃなくて良かったと、きっと、そう、思うべきだ。
 そう思ったら、体から力が少し抜けた。

「そう、そのまま」

 エドアールは口づけを繰り返す。

 足の間で、指が動いている。
 指を入れているだけじゃなくて、その上のところで弄るように捏ねるように動いて……

「あ……」

 なんだかそこが、ぞくぞくとしてきた。
 足の間がぬるぬるしている。

 また少し、体の力が抜けた気がした。

「それでいい……」

 彼の囁きの中で揺蕩う。

 縋るものが欲しくなって、彼に手を伸ばした……時だった。

「何をもたもたしておる!」

 怒鳴り声にぎゅっと体が緊張した。
 エドアールに届いた手に、力が籠る。
 彼の腕を強く掴んでしまった。

「爺め」

 舌打ちが聞こえた。

 お父様に引き取られてからは、そういえば聞いたことがなかったかもと思う。
 バシュレーの屋敷とわたしが出かけるような場所には、舌打ちをするような人がいなかった。

 ずっと冷めた顔は表情が動かなかったけれど、今のエドアールは心底嫌そうに見えた。
 それが、なんだか奇妙な程にわたしに親近感を与えてくれた。
 彼の生い立ちからすれば、町中で育った時間も長かったのだろう。

 エドアールの両親は想い合って結ばれ、彼が産まれたのだから、わたしとは違う。
 違うけれど、育った場所が人を作るなら、彼を作ったものとわたしを作ったものには似たところがある。

「とっとと入れんか!」

 怒鳴る老人から現実逃避をするためだったのかもしれないが、わたしは彼の腕を掴みながら、そんなことを考えていた。

「早うせい!」
「……そのように騒がれては、萎えてしまいます。それともお爺様は、周りで騒がれながらお婆様を愛でるような趣味がありましたか。それは特殊な趣味で、誰もが同じだとは思わない方がいいですよ」
「何を言うとるかっ!」

「僕にはそんな特殊嗜好はないので、黙っていてください」
「貴様……!」

 思えば、エドアールは侯爵に挑発的だ。
 従順に従っているかと思えば、辛口の言葉を吐いている。
 今はそれも、わたしのぎりぎりの安定に一役買っていた。

 エドアールが侯爵のような発言をする人物だったら、もうわたしは正気を手放していたかもしれない。

 彼らの会話が一段落すると、またエドアールはわたしに囁いた。

「すまない。……本当は、もっとゆっくりとすべきだろうが、あれが見ている中では君も辛いだろうから」

 エドアールが最後まで言う前に、わたしは頷いた。

「……もう終わらせて」

 ひと思いに。
 そう続けなくても、エドアールには通じたようだ。

「すまない」

 彼は、侯爵のいる方と逆側の片足だけを持ち上げた。
 そして、硬いものをわたしの足の間にあてがった。




 ひと思いに――そう思ったはずだったけれど、ひと思いには入らなかった。

「うぅ……」

 聞こえるのが、どちらの唸り声なのかわからない。
 わたしたちは唸っていた。

 少しずつ引いては押し込みを繰り返している。
 どのくらい入ったのかわからないけれど、とてつもなく痛い。
 死にそうに痛い。

「い……痛……!」

 とうとう言ってしまった。
 さっきから涙も止まらない。

 でも、彼も汗びっしょりで、辛そうだ。

「まだか!」

 そしていらいらした怒鳴り声が定期的に襲い来る。
 怒鳴り声には二人ともびくっとする。

「ぐ……!」
「いっ…たぁ……ああ――っ……!」

 それはその怒鳴り声に反応してしまったのだろうか。

 一気に強く押し込まれ、激痛に悲鳴を上げた。

「いたいっいたい…っぬいてっ」

 わめくわたしを彼は抱きしめてきた。

「すまない……」

 彼は、引き抜いてくれた。
 痛みは残っていたけれど、それでやっと息ができるようになった。

 彼が身を起こす。
 そこで、なんだか眉根を寄せて考え込んだ。

 わたしはこれで純潔を失ったのか。
 穢されたとも言えない、なんという、惨めな……

 それでいて、侯爵の目的は果たされてないような気がした。
 仕事のできない使用人を折檻するように、わたしも鞭打たれて折檻されるんだろうか。

「今日はもうおしまいにしましょう、お爺様」

 再び動き出した彼はわたしから離れ、上着か閨着を拾って、寝台を降りようとしていた。
 ひと思いに終わらせてほしいと自分から求めたのに、痛みを我慢できなかったわたしに呆れてしまったのか。

「何を言っておる! 貴様、まだ終わってなかろう。続けんか!」

 侯爵に怒鳴られながらも、エドアールは寝台を降りて、侯爵に近付く。

「もう無理です。僕が萎えて勃ちません」
「貴様、不能なのか? 不能では後継ぎに出来んぞ!?」
「さっきまでは勃ってましたよ。でももう無理です。僕は、惚れて結ばれたわけでもない不幸な生娘を無理矢理犯して痛みに叫ばせて喜ぶ外道ではなかったようです」

「何を……! 馬鹿を言え! そのあばずれが生娘のはずがなかろう!」
「生娘でしたよ。ほら、これが証拠です」

 ランプと蝋燭の灯りだけじゃ薄暗くて、よく見えない。

「……っ! 貴様! 私に何を握らせるか!」
「これが一番わかりやすいと思ったんです。血がついているでしょう?」

 何を握らせたんだろう……
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