上 下
11 / 27
本条薫編

本条薫のパンドラの箱

しおりを挟む
 母親は大女優、本条麗華。その息子が僕、本条薫だ。
 父親は僕が生まれる前に母と離婚したから会ったことがない。そもそも、本当に父の子かどうかも定かではないという話だ。母は奔放的で自由な人だった。
 “母親”よりも“女”でいることを選び“家庭”よりも“仕事”を優先してきた。
 だから僕は母ではなくお手伝いさんに幼い頃は面倒を見てもらった。

 幼い頃から僕は愛情というものに飢えていた。そんな僕は、ずっと“愛”が何なのかを知りたかった。辞書で意味を調べても、恋愛小説を読んでも、恋愛映画を観ても、さっぱりわからない。
 そんな時。女の子から告白されたのだ。
「本条くんのことが好きなの。付き合って」と。
 これで僕は“愛”を知ることが出来るかもしれない。だけど女の子と付き合っても僕の感情は何ら変わらない。僕にはまだ愛がわからなかった。
 愛を知るために僕は次から次へと女の子と付き合う。
「ねぇ薫。愛してるわ」女の子は僕に愛を囁く。だけれど、僕は満たされることなく虚しさばかり募っていった。
 そんなある日。僕は学園でハナちゃんを見つけた。彼女は学年首席の西園寺と中等部一の悪と言われている金剛に言い寄られていた。顔がいい二人なのに。普通の女の子なら、すぐに付き合ってもおかしくないのに。彼女はどこか迷惑そうにしていて、他の女の子と違う反応をしていた。
 そのことが新鮮に思えて僕は興味を持った。他の女の子と違う彼女といたら“愛”を知ることが出来るかもしれない。僕は彼女に近付いた――……。

「あーあ。この部屋を開けちゃったんだね」
 背後で本条の声がして、私の肩がビクリと跳ねた。
「先輩、これは……」
「ハナちゃんも薄々気付いているだろうけど、僕は本条麗華の息子さ」
 やっぱり、そうだったんだ……。
「酷い母親だろう? 息子を放っておいて海外にいってさ。しかも帰国するだなんてことテレビで知ったし。これまで連絡もなかったんだ」
「先輩……」
「ハナちゃん。僕の世話係はクビね。もう手伝いをしなくていいから」
「え、でも不便なんじゃ」
 すると、本条は手に巻いていた包帯を外す。
「実は骨折だなんて嘘なんだ」
「え」
「ハナちゃんのこと気になって近付いたけど飽きちゃった。だから、さようならだね」
 そう言うと本条は私を部屋から閉め出した。

 どうやら私は本条のパンドラの箱を開いてしまったようだ。

 本条の世話係をクビになってから三日。私は学園で本条から絡まれることがなくなった。
 学園内で顔を合わせても、本条の方から目を逸らすのだ。
 なんだあの態度は⁉
 いや、色気ムンムンフェロモンのイケメンから相手にされなくなったことは私にとって本望なのだが、何だろう……胸がモヤモヤする。
「本条先輩の世話係から解放されて良かったわね、ハナ!」
 私が本条から絡まれなくなったと知ったエリカは喜んでいるようだった。
 本条は学園でも有名な色男だ。そんな男と自分の大事なハナ親友が一緒にいることはエリカにとってさぞかし心配だっただろう。
 本条はこれまで色んな女の子と付き合い、浮名を流してきた。でもそれは本当は――……。
「ハナ? 何を考え込んでいるの?」
「あ、ううん。何でもない」
 私は、へらりと笑う。
 するとエリカは私の手を取った。
「ねぇハナ。私はアナタが心配よ、この前は不良に拉致されて悪いことに巻き込まれて」
「エリカ……」
「お願い、ハナ。私を心配させるようなことはしないで」
「うん。わかった」
 私はエリカを安心させるために約束した。

 私が廊下を歩いている時のことだ。
「あら、誰かと思えばアナタは本条くんの相手じゃない」
「さすがつまみ食い程度の女、もうポイされたのね」
 意地悪そうな甲高い声。
 それはいつぞやの腰巾着女子ABだった。
「何だ、アンタたちか。私はアンタに付き合っているほど暇じゃないのよ」
 私は適当にあしらう。
「なっ、何よその言い草!」
「アンタみたいなゲテモノを食べたせいで本条先輩は今日休んでいるんだから!」
 そんな私を食べたせいで腹を壊したみたいな言い方しないでほしい。てか、食われてないし……って、え?
「本条先輩休んでいるの?」
「えぇ。教室にいなかったし学園に来てないみたい」
 その時の私は、きっとモデルの仕事で休んでいるんだろう、程度にしか考えてなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

腹黒公爵の狩りの時間

編端みどり
恋愛
この婚約破棄は神に誓いますのに出てくるエミリーの兄、サイモン・ド・カートライト視点メインの話です。やっとモブ令嬢の名前が出せます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...