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第二部 魔王と少年トントン(更新中)
第28話 毒の姫 その10
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それは、俺にとって今まで経験したことの無い様な最高の……まさに会心と呼ぶにふさわしい一撃だった。
グゥギャァァァァァァ!!!
ドラゴンの雄叫びとも悲鳴ともつかぬ叫び声が、ビリビリと切り立った岩や大地を震わせながら辺り一帯に響き渡る。
両手に残る斬撃の余韻……確かに手応えはあった。しかしドラゴンに何ら変わった様子は見られ無い。それどころかドラゴンは、まるで威嚇でもするかの様に両翼を大きく広げ、その上体を大きく持ち上げて俺達の前に立ちはだかり微動だにしない。ただ……怒り狂った様な赤い瞳だけが俺のことをひたすら睨みつけている。
「も、もしかして……無傷……なのか。」
たまらずそんな弱気が漏れた。全身の力を一気に放出した一撃必殺の技に、二の太刀は無い。俺の持ちうる最大の力を込めた一撃を食らって、それでもなお無傷だと言うのなら……俺がどうが足掻いたところで、このドラゴンは俺にどうこう出来る相手では無かったと言うことだ。
悔しいが、俺の一撃ではこのドラゴンに決定的なダメージを与えることは出来なかったのだ。
俺は一言「姫すまない。後は頼んだ……」そう言った。
その言葉を聞いた毒姫は、慌てて俺の背後から俺の前へと躍り出る。
俺が駄目なら姫が出る――
これは、ついさっき俺達が決めたたった一つの作戦だ。
だが、その時だった。突然ドラゴンの悲痛な叫び声が辺り一帯の空気を震わせ、それは始まったのだ。
さっきまでは怒りの眼差しを俺に向けていたドラゴンの様子がその瞬間――明らかに変わった。
突然ドラゴンがその長い首を大きくうねらせた。まるでもがき苦しむかの様なその姿に俺達二人は固唾をのむ。
「もしや……」
絶望が一瞬にして希望に変わる。あの鋼鉄よりも硬いと言われるドラゴンの鱗に、突然亀裂が走ったのだ。まったくの無傷だと思われたドラゴンの胸から左脇腹にかけて……俺が振るった一撃の軌道をなぞるように真一文字に入った亀裂が、瞬く間にドラゴンの身体中に大きく広がり始めたのである。
「やったわね。一時はどうなるかと思ったけど上出来じゃない。」
姫が少しはしゃぐようにに言った。確かに彼女の言う通り上出来……いや、上出来どころの話では無い、想像以上だ。俺は、しまいかけた剣をもう一度構え直す。
「君のおかげだ……。」
俺は、今も俺の前に立ち続ける毒の姫様に向って手短にそう答えた。だが姫からの返事は無い。確かに俺はドラゴンに重大なダメージを与えることが出来た。だが……未だドラゴンはその膝を折ることなく俺達の前に立ちはだかっているのだ。
「次は君の番だよ。姫。」
迷わず俺は言った。「女を自分の前に立たせるなんて……。」格好をつけたいならそれでも構わないだろう。でも、相手は地上最強種のドラゴン。今は見栄など張っている場合では無い。
この時……俺には確信があったのだ。
彼女ならこのドラゴンを仕留める事が出来る――と。
さて、毒の姫君の両手に握られた奥の手とやらは、弓でもなく剣でもなく……しかしなんとも禍々しい形をしたそれを、俺は前世から知っていた。もちろんそんな物を実際に自分の目で見たことは無いけれど、俺はそれを見た瞬間「あぁ……確かにそれならドラゴンを倒す事が出来るはずだ……。」と思ってしまったのだ。
なぜ科学技術の概念すら無いこちらの世界に、そんな物が存在するのかはわからない。
でも……その形状は確かに……。
それは、赤い紙に巻かれた筒状の物体だった。それが3本一束にまとまって、それぞれの筒の先からは紐状の何かがぶら下がっている。
俺は、今までの全ての記憶を探しても、こんな特殊な形をした物を一つしか知らない。
もちろん俺が知っているそれは……。
ぶら下がった紐を導火線と呼び……。そして、赤い筒状のものをダイナマイトと言う名前で呼ぶ。
グゥギャァァァァァァ!!!
ドラゴンの雄叫びとも悲鳴ともつかぬ叫び声が、ビリビリと切り立った岩や大地を震わせながら辺り一帯に響き渡る。
両手に残る斬撃の余韻……確かに手応えはあった。しかしドラゴンに何ら変わった様子は見られ無い。それどころかドラゴンは、まるで威嚇でもするかの様に両翼を大きく広げ、その上体を大きく持ち上げて俺達の前に立ちはだかり微動だにしない。ただ……怒り狂った様な赤い瞳だけが俺のことをひたすら睨みつけている。
「も、もしかして……無傷……なのか。」
たまらずそんな弱気が漏れた。全身の力を一気に放出した一撃必殺の技に、二の太刀は無い。俺の持ちうる最大の力を込めた一撃を食らって、それでもなお無傷だと言うのなら……俺がどうが足掻いたところで、このドラゴンは俺にどうこう出来る相手では無かったと言うことだ。
悔しいが、俺の一撃ではこのドラゴンに決定的なダメージを与えることは出来なかったのだ。
俺は一言「姫すまない。後は頼んだ……」そう言った。
その言葉を聞いた毒姫は、慌てて俺の背後から俺の前へと躍り出る。
俺が駄目なら姫が出る――
これは、ついさっき俺達が決めたたった一つの作戦だ。
だが、その時だった。突然ドラゴンの悲痛な叫び声が辺り一帯の空気を震わせ、それは始まったのだ。
さっきまでは怒りの眼差しを俺に向けていたドラゴンの様子がその瞬間――明らかに変わった。
突然ドラゴンがその長い首を大きくうねらせた。まるでもがき苦しむかの様なその姿に俺達二人は固唾をのむ。
「もしや……」
絶望が一瞬にして希望に変わる。あの鋼鉄よりも硬いと言われるドラゴンの鱗に、突然亀裂が走ったのだ。まったくの無傷だと思われたドラゴンの胸から左脇腹にかけて……俺が振るった一撃の軌道をなぞるように真一文字に入った亀裂が、瞬く間にドラゴンの身体中に大きく広がり始めたのである。
「やったわね。一時はどうなるかと思ったけど上出来じゃない。」
姫が少しはしゃぐようにに言った。確かに彼女の言う通り上出来……いや、上出来どころの話では無い、想像以上だ。俺は、しまいかけた剣をもう一度構え直す。
「君のおかげだ……。」
俺は、今も俺の前に立ち続ける毒の姫様に向って手短にそう答えた。だが姫からの返事は無い。確かに俺はドラゴンに重大なダメージを与えることが出来た。だが……未だドラゴンはその膝を折ることなく俺達の前に立ちはだかっているのだ。
「次は君の番だよ。姫。」
迷わず俺は言った。「女を自分の前に立たせるなんて……。」格好をつけたいならそれでも構わないだろう。でも、相手は地上最強種のドラゴン。今は見栄など張っている場合では無い。
この時……俺には確信があったのだ。
彼女ならこのドラゴンを仕留める事が出来る――と。
さて、毒の姫君の両手に握られた奥の手とやらは、弓でもなく剣でもなく……しかしなんとも禍々しい形をしたそれを、俺は前世から知っていた。もちろんそんな物を実際に自分の目で見たことは無いけれど、俺はそれを見た瞬間「あぁ……確かにそれならドラゴンを倒す事が出来るはずだ……。」と思ってしまったのだ。
なぜ科学技術の概念すら無いこちらの世界に、そんな物が存在するのかはわからない。
でも……その形状は確かに……。
それは、赤い紙に巻かれた筒状の物体だった。それが3本一束にまとまって、それぞれの筒の先からは紐状の何かがぶら下がっている。
俺は、今までの全ての記憶を探しても、こんな特殊な形をした物を一つしか知らない。
もちろん俺が知っているそれは……。
ぶら下がった紐を導火線と呼び……。そして、赤い筒状のものをダイナマイトと言う名前で呼ぶ。
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