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第二部 魔王と少年トントン(更新中)
第26話 毒の姫 その8
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つまりは、ここで出しゃばりな毒の姫君の出番はもうおしまい。これでようやく俺のターンが訪れたと言うわけだ。
しかし……。俺自身もまさかこんなに早く本物のドラゴンに出会ってしまうとはまったくの想定外だった。ついさっき妹と「こんど一緒にもっとデカいドラゴンを倒しに行こうな……」なんていう会話をしていたのが、もしかしたらフラグか何かだったのだろうか。こんなゴツい相手……本来ならば、冒険ギルドなどで依頼を受け取り入念な準備をした後に出会いたかったボスキャラである。
俺は視線の端に、今も一人で数体のワイバーンを同時に相手しているレイラの姿を確認した。そして、その危なげの無い洗練された動きを見て俺は安堵する。おそらく妹は、この場が自分一人でもなんとか切り抜けられると踏んでいたのだろう。だからこそ俺にこちら側を任せたに違いない。
上空では憎らしい顔でこちらの様子を伺っているドラゴン。次々に滑空してくる飛竜の対処に追われる妹は、まだそれに気がついてはいない。
だが、それで良い……俺は妹に任されているのだ。
そして俺は、速やかに妹から視線を外すと、先程まで背にしていた岩の上へと飛び乗った。ボスの周りを飛び交う子分達のことなど今はどうでも良い。俺の視線の正面にとらえるのはこの群れの親玉『本物のドラゴン』のみだ。
真っすぐ前方に突き出した右手。拳を立てて軽く握った手のひら。そしてその矢じりを弾く為に固く曲げた親指。そこに、さきほど姫様から渡された特別製の矢じりを一つ。
俺は、その手をゆっくりと上へと持ち上げる。
そして……
それがドラゴンの翼に重なった瞬間――
俺は指先に持てる限りの気の力を込めて、矢じりを一気に弾き出した。
「すまんなレイラ……。今は、こいつとお前を戦わせるわけにはいかないんだ。頼むからそこで雑魚たちと戦っていてくれよ……。」
バシンッ!
ひときわ大きな衝撃音とともに弾き出された一閃の光。その光が一直線にドラゴンの右翼を貫いた。
いくら頑丈な鱗に守られたドラゴンといえども、その翼は柔らかい皮膚で出来た膜である。ヤツを地上に下ろすのなら、あえて鱗に守られた硬い本体を狙う必要は無い。その翼に風穴を開けるだけで十分なのだ。
立て続けに2発。俺はドラゴンの右翼と左翼に指弾を放ち、狙い通りその両翼に風穴を開ける事に成功した。
「やった!」
その瞬間、俺の背中に隠れていた姫様が喜びの声を上げた。
「まぁ、ざっとこんなもんだ。でもここからが本当の勝負だからな。」
「ええ、そうね。あいつには私のとっておきをお見舞いしてやるわ。」
さて、彼女のとっておきが何かは俺にもまだわからないが、ドラゴンは残った翼が未だわずかな風を捉えてすぐには堕てはこない。だが、いくら羽ばたけどもその巨体はゆっくりと降下を始めていた。
俺は、両手に剣を握りしめ、ありったけの気力をその剣と両腕に流し込んだ。振り下ろした剣が衝撃波と共に虚空を刻むその射程はおよそ10メートル。
あの巨体に間違っても空振りと言うことは無いだろうが、この技は二の太刀の無い一撃必殺の技である。言わば一か八かの賭けだ。
だからこそ、初手は俺が打ち込まなくてはならない。俺の一撃が不発に終わった時こそが彼女の出番だ。
もちろん、姫様にも俺が前に出て剣を振りかぶった時点でその意図は伝わっている。その証拠に姫様は俺の剣の邪魔にならない位置で、いつの間にか荷物の中から取り出した彼女なりの奥の手をその両手に握りしめていた。
しかし……。俺自身もまさかこんなに早く本物のドラゴンに出会ってしまうとはまったくの想定外だった。ついさっき妹と「こんど一緒にもっとデカいドラゴンを倒しに行こうな……」なんていう会話をしていたのが、もしかしたらフラグか何かだったのだろうか。こんなゴツい相手……本来ならば、冒険ギルドなどで依頼を受け取り入念な準備をした後に出会いたかったボスキャラである。
俺は視線の端に、今も一人で数体のワイバーンを同時に相手しているレイラの姿を確認した。そして、その危なげの無い洗練された動きを見て俺は安堵する。おそらく妹は、この場が自分一人でもなんとか切り抜けられると踏んでいたのだろう。だからこそ俺にこちら側を任せたに違いない。
上空では憎らしい顔でこちらの様子を伺っているドラゴン。次々に滑空してくる飛竜の対処に追われる妹は、まだそれに気がついてはいない。
だが、それで良い……俺は妹に任されているのだ。
そして俺は、速やかに妹から視線を外すと、先程まで背にしていた岩の上へと飛び乗った。ボスの周りを飛び交う子分達のことなど今はどうでも良い。俺の視線の正面にとらえるのはこの群れの親玉『本物のドラゴン』のみだ。
真っすぐ前方に突き出した右手。拳を立てて軽く握った手のひら。そしてその矢じりを弾く為に固く曲げた親指。そこに、さきほど姫様から渡された特別製の矢じりを一つ。
俺は、その手をゆっくりと上へと持ち上げる。
そして……
それがドラゴンの翼に重なった瞬間――
俺は指先に持てる限りの気の力を込めて、矢じりを一気に弾き出した。
「すまんなレイラ……。今は、こいつとお前を戦わせるわけにはいかないんだ。頼むからそこで雑魚たちと戦っていてくれよ……。」
バシンッ!
ひときわ大きな衝撃音とともに弾き出された一閃の光。その光が一直線にドラゴンの右翼を貫いた。
いくら頑丈な鱗に守られたドラゴンといえども、その翼は柔らかい皮膚で出来た膜である。ヤツを地上に下ろすのなら、あえて鱗に守られた硬い本体を狙う必要は無い。その翼に風穴を開けるだけで十分なのだ。
立て続けに2発。俺はドラゴンの右翼と左翼に指弾を放ち、狙い通りその両翼に風穴を開ける事に成功した。
「やった!」
その瞬間、俺の背中に隠れていた姫様が喜びの声を上げた。
「まぁ、ざっとこんなもんだ。でもここからが本当の勝負だからな。」
「ええ、そうね。あいつには私のとっておきをお見舞いしてやるわ。」
さて、彼女のとっておきが何かは俺にもまだわからないが、ドラゴンは残った翼が未だわずかな風を捉えてすぐには堕てはこない。だが、いくら羽ばたけどもその巨体はゆっくりと降下を始めていた。
俺は、両手に剣を握りしめ、ありったけの気力をその剣と両腕に流し込んだ。振り下ろした剣が衝撃波と共に虚空を刻むその射程はおよそ10メートル。
あの巨体に間違っても空振りと言うことは無いだろうが、この技は二の太刀の無い一撃必殺の技である。言わば一か八かの賭けだ。
だからこそ、初手は俺が打ち込まなくてはならない。俺の一撃が不発に終わった時こそが彼女の出番だ。
もちろん、姫様にも俺が前に出て剣を振りかぶった時点でその意図は伝わっている。その証拠に姫様は俺の剣の邪魔にならない位置で、いつの間にか荷物の中から取り出した彼女なりの奥の手をその両手に握りしめていた。
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