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第二部 魔王と少年トントン(更新中)
第23話 毒の姫 その5
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だから俺は、もう……こう言うしか無かった。
「ちぇっ。わかったよ……。取りに行けばいいんでしょ、お姫様……。」
ってね。
なんで俺が出会って直ぐの女に顎で使われにゃぁならんのか……とか、男のプライドはどうした……だとか、そんなつまらない葛藤はもちろんあったけど。俺はそんな葛藤なんか二秒で捨て去ってやった。
だって、ワイバーンの大群に襲われてる状況で、四の五の言てられんでしょう。今はこの身勝手な女を適当におだててこのピンチを乗り切る為に一役買ってもらうのが最善なのだ。
しかし、ただ矢を引っこ抜くだけと言っても、横で好き勝手に言うお姫様が考えているほど簡単な作業では無いのである。もし、ただ闇雲にこの場を飛び出してゆけば、徐々に毒の矢を警戒し始めているワイバーン達に、『俺』と言う格好の的を提供することうけあいなのだ。
ならば、先ず優先すべき事は……現状把握だ。
俺は撃ち落とされた竜達の位置を確認する為に第一層の視線を飛ばす。
だがまず確認しておかなくてはならないのは、対空攻撃を持たないレイラだ。しかし、彼女は巨岩を背にしながら前方の敵に対して、まるで曲芸の様な立ち回りを見せている。こいつはまだ大丈夫。
次に確認すべきは、回収すべき矢の状態。取り敢えず今地面に横たわっているワイバーンは十五体。そのどれもがものの見事に事切れている。つまり矢を抜く寸前に突然動き出して一発を食らうなんてことも無い。
これならおそらく行ける。
俺は、その中から矢が抜けそうな十体の正確な位置と、その最短ルートを割り出し、そう判断した。
「なぁ、矢を引っこ抜いてくるだけで良いんだよな。」
「それで良いわ。だからさっさと行って。」
「クソッ、わかったよ。でも全部は無理だからな!」
俺はそう言うと、まず手近な場所に転がっている一体目に向って全力で飛び出した。小型のトラック程も有ろうかというワイバーンの巨体に、たった一本の矢が刺さっているだけ。
たったそれだけのことでこのワイバーンは命を落したのである。
「これは、やべぇな……。」
俺はその死体を目の前にして、時に卑怯だと言われなねない毒と言う戦闘方法の恐ろしさをまじまじと思い知らされた。
戦闘が開始されてから、ものの10分と経ってはないというのに、同じ様に毒の矢で撃ち落とされたワイバーンは十数体。確かに俺とレイラでもそれくらいの事は出来るだろうが、彼女の戦闘方法は明らかに俺達剣士の様な武術家とは異質である。その時。心中に恐怖と言う感情が少なからず湧いてきた事を、俺は否定出来なかった。
いくら、魔術や剣技の修行をおさめ研鑽を積んだとしても、人は一服の毒を盛られただけで、このワイバーンの様に死に至ってしまうのだ。
俺は、今。その事実を目の当たりにしながら、うなだれた長い竜の首の根元にしっかりと刺さった矢を見つけてその手に力を込めた。
意外に矢はすんなりと抜けた。硬い鱗はその矢じりをしっかりと食い込ませているように見えたが、矢の先端には返しが入っていない。まるで競技用の矢のようにただ尖っているだけの単純な形状で抜く事にさしたる力はいらなかった。
これ程強力な毒が先端に塗られているなら、おそらく矢じりに殺傷力を求める必要は無いのだろう。それはまさに毒に特化した形状と言えるのだ。
俺は、その矢を左手に握りしめて、もう一方の右手では剣を構えて上空のワイバーン達を牽制する。やはり姫様の対空攻撃の傘から飛び出した俺は奴らの格好の的となっているようである。
どうやら今の俺は、この空間で一番危険な役を……いや、一番損な役回りを任されているのでは無いか……。そんな気がしてならない。
そんな時。例の姫様が次の矢をつがえたまま大きな声で俺に向って叫んでいるのが聞こえてきた。
「言い忘れてたわ。」
「なに?」
俺は二本目の矢に手をかけながら答えた。そしてその視線はもう3本目の矢を捉えている。今更何を言われようが俺にはこれ以上何かをする余裕など無いのだが……。
それでも、仕方なく彼女の言葉に耳を傾けた俺は正解だった。
「矢じりの先端と、飛竜の血には絶対に触らないでね。ちょっとでも触ったら五秒で死ぬわよ」
そう言った姫様の声があと少しでも遅れていたら……。俺は二本目の矢を抜いた瞬間に傷口から吹き出した鮮血を、確実に浴びていた事だろう。
そして俺の命は、彼女の言葉通り五秒で事切れていたかもしれない。
「ちぇっ。わかったよ……。取りに行けばいいんでしょ、お姫様……。」
ってね。
なんで俺が出会って直ぐの女に顎で使われにゃぁならんのか……とか、男のプライドはどうした……だとか、そんなつまらない葛藤はもちろんあったけど。俺はそんな葛藤なんか二秒で捨て去ってやった。
だって、ワイバーンの大群に襲われてる状況で、四の五の言てられんでしょう。今はこの身勝手な女を適当におだててこのピンチを乗り切る為に一役買ってもらうのが最善なのだ。
しかし、ただ矢を引っこ抜くだけと言っても、横で好き勝手に言うお姫様が考えているほど簡単な作業では無いのである。もし、ただ闇雲にこの場を飛び出してゆけば、徐々に毒の矢を警戒し始めているワイバーン達に、『俺』と言う格好の的を提供することうけあいなのだ。
ならば、先ず優先すべき事は……現状把握だ。
俺は撃ち落とされた竜達の位置を確認する為に第一層の視線を飛ばす。
だがまず確認しておかなくてはならないのは、対空攻撃を持たないレイラだ。しかし、彼女は巨岩を背にしながら前方の敵に対して、まるで曲芸の様な立ち回りを見せている。こいつはまだ大丈夫。
次に確認すべきは、回収すべき矢の状態。取り敢えず今地面に横たわっているワイバーンは十五体。そのどれもがものの見事に事切れている。つまり矢を抜く寸前に突然動き出して一発を食らうなんてことも無い。
これならおそらく行ける。
俺は、その中から矢が抜けそうな十体の正確な位置と、その最短ルートを割り出し、そう判断した。
「なぁ、矢を引っこ抜いてくるだけで良いんだよな。」
「それで良いわ。だからさっさと行って。」
「クソッ、わかったよ。でも全部は無理だからな!」
俺はそう言うと、まず手近な場所に転がっている一体目に向って全力で飛び出した。小型のトラック程も有ろうかというワイバーンの巨体に、たった一本の矢が刺さっているだけ。
たったそれだけのことでこのワイバーンは命を落したのである。
「これは、やべぇな……。」
俺はその死体を目の前にして、時に卑怯だと言われなねない毒と言う戦闘方法の恐ろしさをまじまじと思い知らされた。
戦闘が開始されてから、ものの10分と経ってはないというのに、同じ様に毒の矢で撃ち落とされたワイバーンは十数体。確かに俺とレイラでもそれくらいの事は出来るだろうが、彼女の戦闘方法は明らかに俺達剣士の様な武術家とは異質である。その時。心中に恐怖と言う感情が少なからず湧いてきた事を、俺は否定出来なかった。
いくら、魔術や剣技の修行をおさめ研鑽を積んだとしても、人は一服の毒を盛られただけで、このワイバーンの様に死に至ってしまうのだ。
俺は、今。その事実を目の当たりにしながら、うなだれた長い竜の首の根元にしっかりと刺さった矢を見つけてその手に力を込めた。
意外に矢はすんなりと抜けた。硬い鱗はその矢じりをしっかりと食い込ませているように見えたが、矢の先端には返しが入っていない。まるで競技用の矢のようにただ尖っているだけの単純な形状で抜く事にさしたる力はいらなかった。
これ程強力な毒が先端に塗られているなら、おそらく矢じりに殺傷力を求める必要は無いのだろう。それはまさに毒に特化した形状と言えるのだ。
俺は、その矢を左手に握りしめて、もう一方の右手では剣を構えて上空のワイバーン達を牽制する。やはり姫様の対空攻撃の傘から飛び出した俺は奴らの格好の的となっているようである。
どうやら今の俺は、この空間で一番危険な役を……いや、一番損な役回りを任されているのでは無いか……。そんな気がしてならない。
そんな時。例の姫様が次の矢をつがえたまま大きな声で俺に向って叫んでいるのが聞こえてきた。
「言い忘れてたわ。」
「なに?」
俺は二本目の矢に手をかけながら答えた。そしてその視線はもう3本目の矢を捉えている。今更何を言われようが俺にはこれ以上何かをする余裕など無いのだが……。
それでも、仕方なく彼女の言葉に耳を傾けた俺は正解だった。
「矢じりの先端と、飛竜の血には絶対に触らないでね。ちょっとでも触ったら五秒で死ぬわよ」
そう言った姫様の声があと少しでも遅れていたら……。俺は二本目の矢を抜いた瞬間に傷口から吹き出した鮮血を、確実に浴びていた事だろう。
そして俺の命は、彼女の言葉通り五秒で事切れていたかもしれない。
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