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第二部 魔王と少年トントン(更新中)
第21話 毒の姫 その3
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ただ……いくら矢が届いたとしても……。
ワイバーンの脇腹にたった一本の矢が突き刺さったとしても……。それだけで何が変わると言うのだろうか……。
確かにこの娘の弓の腕は確かだ。上空のワイバーンまで矢を届けたことですら普通では考えにくいのに、彼女はそれに見事命中させて、その上で硬い鱗まで貫いたのである。それはまさに絶技と言ってもいいだろう。
だが悲しいかな、それだけなのだ。
いくら彼女の矢が届いたとしても、硬い鱗を貫けたとしても、たった一本の矢でワイバーンは落とせない。それどころか……。腹に矢を受けたワイバーンを確実に俺達の方へと引き寄せてしまったようだ。
敵だと見定められてしまったからには、すぐに奴らの急降下攻撃が襲ってくる。もう、こうなっては二人を逃がすだの何だの言ってられない状況なのだ。
「おい!頭を引っ込めろ!」
俺は苛立ちながらそう言った。どこぞのお嬢様だか知らないが、この娘のせいで俺とレイラの作戦はまるっきりパーになってしまったのだ。
こうなれば、俺が剣を抜くしか無い。
もちろん一匹や二匹なら自信がある。しかしそれも五匹六匹となれば別だ。二人を守りながらはたしてどこまでやる事が出来るだろうか。
矢を受けた個体がその頭をさげた。それは、これから急降下を始める合図である。俺はすかさず剣を抜き娘の前に躍り出た。
「俺がやる。お前は早く岩陰に引っ込んでろ!」
俺は再び娘に声をかけた。しかし彼女に引き下がる様子はまったく見られない。それどころかその手に持った弓には次の矢がつがえられて、もう一体のワイバーンに向かって第二矢を放とうとさえしているのだ。
「いくらお前の腕前が凄かろうが、あいつ等に矢は効かん。俺の後ろでおとなしくしてろって!」
これで言う事を聞かなければ、もう面倒を見きれない。俺はこれが最後のつもりで娘にそう声をかけた。
しかし……
まさにその時であった。
腹に矢を受けたワイバーンが、突如としてその羽ばたきを止め、そのまま落ちるように地上へと降下し始めたのである。
当然、俺の前にワイバーンは襲って来ない。それどころかあらぬ体勢で地上へ落下したまま、それからピクリとも動かなくなってしまったのだ。
俺があっけにとられている間にも、娘は既に二の矢三の矢を放ってそれら全てを命中させている。そして矢を受けたワイバーンもまた最初の一体のように、力無く地上へと落下したまま動かなくなってしまった。
気がつけば、そこに剣を抜いたまま何もすることが無くぼーっと立っている俺がいた。
それをなんとも嬉しそうに見つめる娘は、おそらく『してやったり』とでも思っているのだろう。なんせ俺は、最初この娘を単なるお荷物扱いしていたのだからな。そう思っても仕方がない。
しかし、よくよく考えればこれは嬉しい誤算だ。いくら俺のバツが悪かろうが、面子が潰れようがこの窮地を切り抜ける戦力が一つ増えたのである。しかも、たかだか矢の一発でワイバーンを撃ち落とすと言う、まさかの俺達超えの実力者の予感まであるのだ。
おそらくここからこのワイバーンの群れの一斉攻撃が始まる。この窮地に彼女の存在は、はっきり言って頼もしい。
そして、そんな俺達超えの戦力が、ワイバーンの一斉攻撃を前にしてようやく口を開いた。
「ねぇ、あなた。今、私がどうして矢だけであの飛竜を落したか不思議に思ってるでしょう。」
それは、これから始まる激しい戦闘など一切気に留めていないような、なんとも無邪気な茶目っ気のある言葉と表情。俺はこの顔を何処かで見たような気がした。
しかし俺は頭を振る。
多分、他人の空似と言うやつに違いない。
「魔力か何かを使ったのかい?」
俺は、単純にそう聞き返した。それは、俺達が使う明らかに気とも違う……と言うか何の力も感じられない普通の射撃に見えたからだ。ならば、理屈が良くわからないものは全て魔法か何か。そう考えるように俺は決めているのだ。
しかし、次の瞬間、彼女の顔が曇る。
「まさか。私はね魔法みたいな呪文やら陣やらまどろっこしいのは嫌いなの。」
それは誰かさんが聞けば怒り出しそうな言葉だった。しかめた顔から察するに彼女は魔法を相当毛嫌いしている様子。でもそれならどうやって………。
その答えは至って単純であった。
「あれは毒よ。」
さも得意げにそう彼女は言った。
ワイバーンの脇腹にたった一本の矢が突き刺さったとしても……。それだけで何が変わると言うのだろうか……。
確かにこの娘の弓の腕は確かだ。上空のワイバーンまで矢を届けたことですら普通では考えにくいのに、彼女はそれに見事命中させて、その上で硬い鱗まで貫いたのである。それはまさに絶技と言ってもいいだろう。
だが悲しいかな、それだけなのだ。
いくら彼女の矢が届いたとしても、硬い鱗を貫けたとしても、たった一本の矢でワイバーンは落とせない。それどころか……。腹に矢を受けたワイバーンを確実に俺達の方へと引き寄せてしまったようだ。
敵だと見定められてしまったからには、すぐに奴らの急降下攻撃が襲ってくる。もう、こうなっては二人を逃がすだの何だの言ってられない状況なのだ。
「おい!頭を引っ込めろ!」
俺は苛立ちながらそう言った。どこぞのお嬢様だか知らないが、この娘のせいで俺とレイラの作戦はまるっきりパーになってしまったのだ。
こうなれば、俺が剣を抜くしか無い。
もちろん一匹や二匹なら自信がある。しかしそれも五匹六匹となれば別だ。二人を守りながらはたしてどこまでやる事が出来るだろうか。
矢を受けた個体がその頭をさげた。それは、これから急降下を始める合図である。俺はすかさず剣を抜き娘の前に躍り出た。
「俺がやる。お前は早く岩陰に引っ込んでろ!」
俺は再び娘に声をかけた。しかし彼女に引き下がる様子はまったく見られない。それどころかその手に持った弓には次の矢がつがえられて、もう一体のワイバーンに向かって第二矢を放とうとさえしているのだ。
「いくらお前の腕前が凄かろうが、あいつ等に矢は効かん。俺の後ろでおとなしくしてろって!」
これで言う事を聞かなければ、もう面倒を見きれない。俺はこれが最後のつもりで娘にそう声をかけた。
しかし……
まさにその時であった。
腹に矢を受けたワイバーンが、突如としてその羽ばたきを止め、そのまま落ちるように地上へと降下し始めたのである。
当然、俺の前にワイバーンは襲って来ない。それどころかあらぬ体勢で地上へ落下したまま、それからピクリとも動かなくなってしまったのだ。
俺があっけにとられている間にも、娘は既に二の矢三の矢を放ってそれら全てを命中させている。そして矢を受けたワイバーンもまた最初の一体のように、力無く地上へと落下したまま動かなくなってしまった。
気がつけば、そこに剣を抜いたまま何もすることが無くぼーっと立っている俺がいた。
それをなんとも嬉しそうに見つめる娘は、おそらく『してやったり』とでも思っているのだろう。なんせ俺は、最初この娘を単なるお荷物扱いしていたのだからな。そう思っても仕方がない。
しかし、よくよく考えればこれは嬉しい誤算だ。いくら俺のバツが悪かろうが、面子が潰れようがこの窮地を切り抜ける戦力が一つ増えたのである。しかも、たかだか矢の一発でワイバーンを撃ち落とすと言う、まさかの俺達超えの実力者の予感まであるのだ。
おそらくここからこのワイバーンの群れの一斉攻撃が始まる。この窮地に彼女の存在は、はっきり言って頼もしい。
そして、そんな俺達超えの戦力が、ワイバーンの一斉攻撃を前にしてようやく口を開いた。
「ねぇ、あなた。今、私がどうして矢だけであの飛竜を落したか不思議に思ってるでしょう。」
それは、これから始まる激しい戦闘など一切気に留めていないような、なんとも無邪気な茶目っ気のある言葉と表情。俺はこの顔を何処かで見たような気がした。
しかし俺は頭を振る。
多分、他人の空似と言うやつに違いない。
「魔力か何かを使ったのかい?」
俺は、単純にそう聞き返した。それは、俺達が使う明らかに気とも違う……と言うか何の力も感じられない普通の射撃に見えたからだ。ならば、理屈が良くわからないものは全て魔法か何か。そう考えるように俺は決めているのだ。
しかし、次の瞬間、彼女の顔が曇る。
「まさか。私はね魔法みたいな呪文やら陣やらまどろっこしいのは嫌いなの。」
それは誰かさんが聞けば怒り出しそうな言葉だった。しかめた顔から察するに彼女は魔法を相当毛嫌いしている様子。でもそれならどうやって………。
その答えは至って単純であった。
「あれは毒よ。」
さも得意げにそう彼女は言った。
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