上 下
98 / 111
第二部 魔王と少年トントン(更新中)

第16話 飛竜 その7

しおりを挟む
 だったら仕方がないよな。可愛い妹がどうしてもって言うんならやってやらない事もない。っていうかやってやろうじゃないのよ。

 え?何だかさっきまでと態度が違うんじゃ無いのって?

 バレてしまいましたか?

 突然、手のひら返してごめんなさい。

 いやね。この妹が連れてきちゃったドラゴン……いや正確にはワイバーンか。こいつが、よく見ると見た目ほど強そうじゃないなって……。何だか、俺達二人でやったら勝てそうだなって……。そう思ってしまったわけです。


 だって、俺がイメージしていたドラゴンっていうのはね。ティラノサウルスみたいな恐竜に羽が生えた感じで、取り敢えず見上げるぐらいにでっかいのを想像してたから。

「ねぇ。ドーマさん。このワイバーンってやつちょっとイメージより小さくないですか?」

 俺は思わず振り返ってドーマに聞いた。「ワイバーンって、こいつなの?」みたいな感じで。

「ええ。ワイバーンはドラゴン種の中では比較的小さい部類ですね。それにブレスもありませんし。でも侮らないほうが良いですよ。身体が小さい分だけ小回りも効きますし、スピードもあります。それに群れで現れれば国を滅ぼすことだってあるのです。」

 確かに、このワイバーンってドラゴンは大きな生き物ではあるけれど巨大な……って感じでは無い。正直ドーマには侮るなと言われたけれど、あの黒き獅子の邪神テトカポリカのほうがよっぽど強そうだった。それにたった一匹だ。

 だから、俺は俄然やれると思ったわけです。


「なるほど……。じゃぁ妹が楽しみにして待ってるみたいだから、いっちょ戦って来るわ。」

 つまるところ勝てると分れば躊躇する理由は無いわけで……。俺は、レイラが連れてきたドラゴンモドキに向って全速力で駆け出したのである。

 もちろん、既に剣を構えてワイバーンと対峙しているレイラの顔が今まで以上にほころんだのは言うまでもない。

 空中を舞うワイバーンは、確かに手強い。上空に舞い上がっては爪を立てて急降下してくる、言わば3次元の攻撃は、地上を駆け回ることしか出来ない俺達人間にとっては非常にやっかいだ。

 でも、流石は俺の一番弟子のレイラ。その攻撃のことごとくを巧みに躱して、完全に弄んでいるようにも見える。

 俺は、少し拍子抜けした。おそらく強くなりすぎてしまった俺達にはドラゴンはこの程度なのだ。

「なぁ。お前一人でも倒せるんじゃないのか?」

 俺は少しバカらしくなってしまった。だって……あの竜の鱗を拾った日から、必死になって突き通してきた嘘八百の竜退治が、俺にとっても妹にとっても、こんなにもチョロくなってしまったのである。

 俺は抜いていた剣を鞘に収めなが言う。

「もう俺いらないだろ。」

 まぁ、正直言うと……張り切って出ていったわりには、いまいち見せ場のないこの状態に、俺はちょっといじけてしまっていたのだ。

 しかし、そんな俺の態度が妹は気に入らなかったようだ。

「嫌よ。絶対に嫌。だって、初めてのドラゴン退治はお兄ちゃんと一緒って決めてたんだもん。」

 あゝ……。この妹は、なんて真っすぐで、かつ勘違いしてしまいそうな小っ恥ずかしい台詞を言ってしまうのだろうか。思わず奮い立ってしまうではないか。

 だけど、やれやれだ。

 今更こんな余裕で倒せるようなドラゴンモドキを一緒に倒したところで何になる。そんな取って付けたような思い出作りなんて記念にもなにもなりはしないだろう。

 まぁでも、初めてはお兄ちゃんになんて嬉しいこと言われちゃったら、ここは兄としてレイラの希望は叶えてやるのが人情てもんだ。いや、是非とも叶えさせて下さい。

 だけどね。一方で剣術の師匠としての俺は……こんな茶番で満足するようじゃ困るなぁって思うわけ。

 だからって言う訳でもないのだけれど……

 でも、その時。なんで俺はそんな事を言ってしまったのだろうか……。ドラゴン退治だけでやめておけば良かったのに。俺はレイラに思わずこう言ってしまったのだ。

「仕方ない。夢にドラゴン退治とやらを手伝ってやるよ。でもドーマが言うにはこのワイバーンってやつは竜種の中でも最弱らしいぜ。だから今度は一緒にもっとデカいドラゴンを倒しに行こう。そして最後には『魔王』だ。あの『千年救敗せんねんきゅうはい先生』の様にさ。」

 思わず『魔王』なんて言っちゃったけど……

 まぁ、気にするな俺。その代わり最高の妹の笑顔が見れたのだから。それでいいじゃねえかよ。

 まずは、目の前のドラゴンモドキをどうやって地面に叩き落としてやるか、どうやって弟子たちに俺の格好いい所を見せるか……

 どうでもいい魔王の事など忘れて、今はそれだけを考えれば良いのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

いや、自由に生きろって言われても。

SHO
ファンタジー
☆★☆この作品はアルファポリス様より書籍化されます☆★☆ 書籍化にあたってのタイトル、著者名の変更はありません。 異世界召喚に巻き込まれた青年と召喚された張本人の少女。彼等の通った後に残るのは悪人の骸…だけではないかも知れない。巻き込まれた異世界召喚先では自由に生きるつもりだった主人公。だが捨て犬捨て猫を無視出来ない優しさが災い?してホントは関わりたくない厄介事に自ら巻き込まれに行く。敵には一切容赦せず、売られたケンカは全部買う。大事な仲間は必ず守る。無自覚鈍感最強ヤローの冒険譚を見よ! ◎本作のスピンオフ的作品『職業:冒険者。能力:サイキック。前世:日本人。』を並行連載中です。気になった方はこちらも是非!*2017.2.26完結済です。 拙作をお読み頂いた方、お気に入り登録して頂いた皆様、有難う御座います! 2017/3/26本編完結致しました。 2017/6/13より新展開!不定期更新にて連載再開! 2017/12/8第三部完結しました。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

【朗報】体型に自信のなかったこの俺が、筋トレしたらチート級の筋肉になった! ちょっと魔王倒してくる!【ラノベ】

ネコ飼いたい丸
ファンタジー
【完結済】「そなたの職業は『ボディビルダー』、スキルは『無限プロテイン』じゃ!!」 神官にそう宣言され、少年オリバの冒険者人生はあっけなく幕を閉じた……ハズだった。だが、オリバは筋トレに励み、ついに『向こう側の筋肉』を手に入れる! その圧倒的な筋肉を武器に、『氷の女王』や『エルフの娘』に出会いながら魔王討伐の旅を続ける。 *ファンタジー&筋肉コメディです。 *他サイト(小説家になろう、カクヨム、ノベルアッププラス)にも投稿しています。

幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。 それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。 唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。 なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。 理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!

処理中です...