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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。
第62話 カイル THE LAST MASTER その2
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俺は今。やはり走馬灯を見ているのだろうか……。
今、結界の外でこちらを見ている剣聖の姿が、なんだかあの時のレイラにとても似ているのだ。
そう言えば、雨上がりのあの日……。俺は理由もわからぬままにレイラの後ろを、ただ黙って付いて歩いた。
幼いレイラは、今の剣聖みたいに古びた剣を一本だらりとぶら下げて……。俺はただ横で見ているだけだったけれど。レイラはあの小さな身体で、確かにあの巨石を粉々に砕いたのだ。
今。そのレイラは、剣聖と呼ばれるようになり、もうその見た目は他の大人と変わらない。でもその眼差しはあの時と全く変わること無く、一心に前方へと突き出した剣の先を見つめている。
「無駄だ……レイラ。いくらお前でも実体の無い魔力結界を砕く事は出来ない……」
俺は心の中でレイラにそう言った。
しかし、レイラはまるで俺の声が聞こえてでもいるかの様に頭を振る。
そして、小さく動いたレイラの口が……
――だいじょうぶ。いま、たすけてあげる。
そう言っている様に見えた。
「まさか……」
俺は、レイラがこの魔力結界を破ってくれるだなんて、これっぽちも期待はしていない。世の中にはいくら手をつくしても、どうにもならない事があるのだ。
しかし、兄の俺には分かる。ゆっくりと結界に剣を突きつけたレイラの目は、あの時と全く同じだ。
それは確信に満ち溢れた目……。この妹は本気でこの結界を破壊するつもりなのだ。
無謀なのはわかっている。でも、アイツが本気でやると言うのなら、今の俺に出来ることは……レイラの確信を信じてやるしか無いじゃないか。
思い出したよ。そう言えばお前は、いつもその真っすぐな眼差しで、いくつもの不可能を可能にしてきたんだ。
池の辺《ほと》りで、数え切れないほどのトンボを数えた時も……
車よりも大きな岩を、剣一本で砕いた時も……
そして、数万の帝国軍に一人で立ち向かい……この国を救ってしまった時も……
だからレイラ……。
「俺は、お前を信じる!その剣で……この結界を斬ってくれ」
そして……俺の気持ちを悟ったかのようにニコリと笑った妹レイラは、結界に突き立てていた剣をおもむろに頭上に掲げると……。
一閃
頭上から真下へ、力任せの渾身の一撃を放つ。
…………
振り下ろされた剣の余韻を残したまま、レイラは微動だにしない。そして、その止まった時間は、結界には何の変化も見られない……そう思うには充分過ぎる時間だった。
しかし、肌を掠める空気が突然変わった。さっきまで止まったままだった結界内の空気が微かに動いているのだ。そして次の瞬間……。
突然の突風と共に、魔法で作られた透明のドーム全体に亀裂が一気に広がって行く。
そして……俺達と邪神を覆っていた結界はその魔力的バランスを失い、忽然と俺達の頭上からその姿を消した……。
だが俺は、九死に一生を得た感慨に浸る間もなく、必死に胸を大きく動かして酸素を肺へと取り込む。張り裂けんばかりの心臓は体内へと急ピッチで酸素を送り込み、失っていた身体中の感覚をひとつひとつ取り戻していく。
先ほどまで、あんなに活発だった俺の脳が、今は一向に働かない。身体が、そして脳が、必死に体内へ酸素を取り入れることだけを優先しているのだ。
そして、ようやく俺の脳が働き始めた時、まず目に飛び込んで来たのは……。
黒黒とした毛並みをした巨大な獅子と、真っ白な衣装に身を包んだ少女……。
それはおそらく完全体になってしまったであろう邪神テスカポリカと、たった一人その邪神に立ち向かい苦戦を強いられている妹レイラの姿だった。
今、結界の外でこちらを見ている剣聖の姿が、なんだかあの時のレイラにとても似ているのだ。
そう言えば、雨上がりのあの日……。俺は理由もわからぬままにレイラの後ろを、ただ黙って付いて歩いた。
幼いレイラは、今の剣聖みたいに古びた剣を一本だらりとぶら下げて……。俺はただ横で見ているだけだったけれど。レイラはあの小さな身体で、確かにあの巨石を粉々に砕いたのだ。
今。そのレイラは、剣聖と呼ばれるようになり、もうその見た目は他の大人と変わらない。でもその眼差しはあの時と全く変わること無く、一心に前方へと突き出した剣の先を見つめている。
「無駄だ……レイラ。いくらお前でも実体の無い魔力結界を砕く事は出来ない……」
俺は心の中でレイラにそう言った。
しかし、レイラはまるで俺の声が聞こえてでもいるかの様に頭を振る。
そして、小さく動いたレイラの口が……
――だいじょうぶ。いま、たすけてあげる。
そう言っている様に見えた。
「まさか……」
俺は、レイラがこの魔力結界を破ってくれるだなんて、これっぽちも期待はしていない。世の中にはいくら手をつくしても、どうにもならない事があるのだ。
しかし、兄の俺には分かる。ゆっくりと結界に剣を突きつけたレイラの目は、あの時と全く同じだ。
それは確信に満ち溢れた目……。この妹は本気でこの結界を破壊するつもりなのだ。
無謀なのはわかっている。でも、アイツが本気でやると言うのなら、今の俺に出来ることは……レイラの確信を信じてやるしか無いじゃないか。
思い出したよ。そう言えばお前は、いつもその真っすぐな眼差しで、いくつもの不可能を可能にしてきたんだ。
池の辺《ほと》りで、数え切れないほどのトンボを数えた時も……
車よりも大きな岩を、剣一本で砕いた時も……
そして、数万の帝国軍に一人で立ち向かい……この国を救ってしまった時も……
だからレイラ……。
「俺は、お前を信じる!その剣で……この結界を斬ってくれ」
そして……俺の気持ちを悟ったかのようにニコリと笑った妹レイラは、結界に突き立てていた剣をおもむろに頭上に掲げると……。
一閃
頭上から真下へ、力任せの渾身の一撃を放つ。
…………
振り下ろされた剣の余韻を残したまま、レイラは微動だにしない。そして、その止まった時間は、結界には何の変化も見られない……そう思うには充分過ぎる時間だった。
しかし、肌を掠める空気が突然変わった。さっきまで止まったままだった結界内の空気が微かに動いているのだ。そして次の瞬間……。
突然の突風と共に、魔法で作られた透明のドーム全体に亀裂が一気に広がって行く。
そして……俺達と邪神を覆っていた結界はその魔力的バランスを失い、忽然と俺達の頭上からその姿を消した……。
だが俺は、九死に一生を得た感慨に浸る間もなく、必死に胸を大きく動かして酸素を肺へと取り込む。張り裂けんばかりの心臓は体内へと急ピッチで酸素を送り込み、失っていた身体中の感覚をひとつひとつ取り戻していく。
先ほどまで、あんなに活発だった俺の脳が、今は一向に働かない。身体が、そして脳が、必死に体内へ酸素を取り入れることだけを優先しているのだ。
そして、ようやく俺の脳が働き始めた時、まず目に飛び込んで来たのは……。
黒黒とした毛並みをした巨大な獅子と、真っ白な衣装に身を包んだ少女……。
それはおそらく完全体になってしまったであろう邪神テスカポリカと、たった一人その邪神に立ち向かい苦戦を強いられている妹レイラの姿だった。
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