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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。
第46話 エイドリアン その3『ただのメイドの私が……以下略』
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ロゼット家のメイドたるもの。その身なりは、常に乱れなく清潔に保たなければならない。
ロゼット家のメイドたるもの。その行いは、主となる者に対して常に忠実で、決してその身を煩わせる事があってはならない。
ロゼット家のメイドたるもの。常に品格を保つべし。メイドの品格は主の品格を映し出す鏡と心得よ。
ロゼット家のメイドたるもの……。
この王都でもトップクラスの格式と豪華さを誇るモンテローホテル。その豪奢かつ威厳に満ちた石造りの建物は、日が暮れると同時に灯る眩いばかりの明かりに照らされて、夜になっていっそうその存在感を誇示していた。
そんな、名門ロゼット家の子息に相応しいホテルの一室の前で、いつものメイド服に着替えたエイドリアンは、その身だしなみを神経質なまでに整える。それはロゼットの御屋敷の中でも、旅先のホテルの一室であろうと何一つ変わらない彼女のルーティン。
そしてエイドリアンは、今もまた意を決したかのように一人頷くと、眼の前に立ちはだかる大きな木製の扉を、軽く4回ノックした。
「遅かったね。昨日延期になってた残りの試合は、もうとっくに終わっちゃったよ」
屈託のない笑顔に思わずうっかりと忘れてしまいそうになるが、この10歳というまだ幼い少年がエイドリアンの主ショーン=ロゼットである。
「申し訳ございませんでした。今日は朝からどうしても外せない用事が出来てしまって……。それと……遅くなりましたが、昨夜はお見苦しい姿を見せてしまい、大変失礼を致しました」
本来ならば決して許されるはずのない失態であった。だがエイドリアンはもちろんこの幼い主がその失態をまったく気にも止めていない事を知っている。だが、それだからこそ粗相を詫びなければならない。でなければ、エイドリアンはこの少年の専属メイドであるという立場の意味を失ってしまう様な気がした。
エイドリアンはショーンの専属メイドとしての今の立場を、この上なく気に入っているのである。
「別にいいよ気にしないで。本当の事を言うと、あの時は僕も魔法を馬鹿にされて少し腹が立ってたんだ。エイリンが怒ってくれて逆に気持ちがスッとしたぐらいなんだから」
「いえ、ぜひとも謝らせて下さい。それがお坊ちゃま専属のメイドとしてのケジメでございますから」
「わかったよ~。じゃぁどうぞ」
謝罪だケジメだと、くどくどと話すエイドリアンにショーンは半ば呆れ気味にそう言った。実は、ショーンにとってエイドリアンのこのような失敗は初めての経験ではないのだ。
「この度は本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるエイドリアン。ジョーンはそんな姿を、もう見飽きてしまっていた。
「はい。これでこの話は終わりね。そんなことより早く聞かせてよ。エイリンは今日、あのエルドラ人のお姉さんの所に行ってたんでしょ」
明らかに仕切り直すようなショーンの言葉に、先程までのかしこまったエイドリアンの姿はもう無い。それどころか彼女は自分の昼間の行動をショーンに見事言い当てられたことが嬉しくてたまらない。その顔には、ドーマの前では決して見せることの無かった人懐っこい笑顔をたたえていた。
「もしかしてバレていましたか?」
「そりゃ分かるよ。だって昨日はあのお姉さんのことをずっと気にかけていたじゃないか。それにあのお姉さん……。あんな魔法の使い方をしたら身体がボロボロになっちゃう」
「さすがお坊ちゃま。良くお分かりになりましたね」
「そりゃあそうさ。だって僕はエイリンの一番弟子なんだよ」
「あら、嬉しい事を言ってくれますね。でも魔法の腕前なら私はとうの昔に坊ちゃまに抜かれています。ほんと私のほうが弟子入りしたぐらい」
「それは駄目。だって僕は魔法の書物を読むのが大の苦手なんだもの。やっぱりエイリンが師匠じゃないと」
そんな他愛もない言葉のやり取り。この二人の間には悲壮感などまったく無い……。その様に傍から見れば思えてしまう不思議な温かさがそこにはあった。
だが、この不釣り合いな彼らが、たった二人で旅を続けるようになってからもう三年以上の歳月が過ぎ去っていた。
金は唸るほどあるが、あてのない旅の途中。この二人は今回たまたま王都ナンバーク開催される武術大会を見学するためだけに、この都市を訪れていたのである。
つまり。彼らにとってはこの武術大会も、悠々自適な旅の単なる通過点の一つにすぎなかった。
「ところで明日の準決勝。もちろんあのエルドラのお姉さんと、砂漠の民のお兄ちゃんが勝つでしょ。そしたらエイリンはさ、決勝でどちらが勝つと思う?」
「それは、やはりドーマが勝利するかと。私に武芸の優劣は分かりかねますが、昨日の第一試合を見るに、私が与えた『身体強化魔法』に関しては、ここ数年の間にかなり研鑽を積んでいるように見受けられました。それに……今朝私が……」
「あっ。やっぱりあのお姉さんに新しい魔法を教えに行ってたんだ。どうせならそのまま弟子にしてあげれば良かったのに」
「坊ちゃまはそれがお望みですか?」
「うん。それで同じ弟子になったら、エイリンが僕に絶対に教えてくれない身体強化の魔法をこっそりと教えてもらうの」
「結局そうなるでしょう?だから私はあのエルドラ人を弟子にはしたくないのです。あんな危険な魔法を坊っちゃまが使うなんて私は考えただけでも恐ろしい」
「大丈夫だって。僕はエイリン大賢者の一番弟子なんだよ」
「あの魔法だけはいけません。刃物を振り回す為のあんな低俗で野蛮な魔法なんて……。もし坊ちゃまが怪我でもされたら私は一生後悔致します」
つまり、エイドリアンがドーマを弟子にしたくない理由はたかがそれだけの身勝手な理由なのである。
ロゼット家のメイドたるもの。その行いは、主となる者に対して常に忠実で、決してその身を煩わせる事があってはならない。
ロゼット家のメイドたるもの。常に品格を保つべし。メイドの品格は主の品格を映し出す鏡と心得よ。
ロゼット家のメイドたるもの……。
この王都でもトップクラスの格式と豪華さを誇るモンテローホテル。その豪奢かつ威厳に満ちた石造りの建物は、日が暮れると同時に灯る眩いばかりの明かりに照らされて、夜になっていっそうその存在感を誇示していた。
そんな、名門ロゼット家の子息に相応しいホテルの一室の前で、いつものメイド服に着替えたエイドリアンは、その身だしなみを神経質なまでに整える。それはロゼットの御屋敷の中でも、旅先のホテルの一室であろうと何一つ変わらない彼女のルーティン。
そしてエイドリアンは、今もまた意を決したかのように一人頷くと、眼の前に立ちはだかる大きな木製の扉を、軽く4回ノックした。
「遅かったね。昨日延期になってた残りの試合は、もうとっくに終わっちゃったよ」
屈託のない笑顔に思わずうっかりと忘れてしまいそうになるが、この10歳というまだ幼い少年がエイドリアンの主ショーン=ロゼットである。
「申し訳ございませんでした。今日は朝からどうしても外せない用事が出来てしまって……。それと……遅くなりましたが、昨夜はお見苦しい姿を見せてしまい、大変失礼を致しました」
本来ならば決して許されるはずのない失態であった。だがエイドリアンはもちろんこの幼い主がその失態をまったく気にも止めていない事を知っている。だが、それだからこそ粗相を詫びなければならない。でなければ、エイドリアンはこの少年の専属メイドであるという立場の意味を失ってしまう様な気がした。
エイドリアンはショーンの専属メイドとしての今の立場を、この上なく気に入っているのである。
「別にいいよ気にしないで。本当の事を言うと、あの時は僕も魔法を馬鹿にされて少し腹が立ってたんだ。エイリンが怒ってくれて逆に気持ちがスッとしたぐらいなんだから」
「いえ、ぜひとも謝らせて下さい。それがお坊ちゃま専属のメイドとしてのケジメでございますから」
「わかったよ~。じゃぁどうぞ」
謝罪だケジメだと、くどくどと話すエイドリアンにショーンは半ば呆れ気味にそう言った。実は、ショーンにとってエイドリアンのこのような失敗は初めての経験ではないのだ。
「この度は本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるエイドリアン。ジョーンはそんな姿を、もう見飽きてしまっていた。
「はい。これでこの話は終わりね。そんなことより早く聞かせてよ。エイリンは今日、あのエルドラ人のお姉さんの所に行ってたんでしょ」
明らかに仕切り直すようなショーンの言葉に、先程までのかしこまったエイドリアンの姿はもう無い。それどころか彼女は自分の昼間の行動をショーンに見事言い当てられたことが嬉しくてたまらない。その顔には、ドーマの前では決して見せることの無かった人懐っこい笑顔をたたえていた。
「もしかしてバレていましたか?」
「そりゃ分かるよ。だって昨日はあのお姉さんのことをずっと気にかけていたじゃないか。それにあのお姉さん……。あんな魔法の使い方をしたら身体がボロボロになっちゃう」
「さすがお坊ちゃま。良くお分かりになりましたね」
「そりゃあそうさ。だって僕はエイリンの一番弟子なんだよ」
「あら、嬉しい事を言ってくれますね。でも魔法の腕前なら私はとうの昔に坊ちゃまに抜かれています。ほんと私のほうが弟子入りしたぐらい」
「それは駄目。だって僕は魔法の書物を読むのが大の苦手なんだもの。やっぱりエイリンが師匠じゃないと」
そんな他愛もない言葉のやり取り。この二人の間には悲壮感などまったく無い……。その様に傍から見れば思えてしまう不思議な温かさがそこにはあった。
だが、この不釣り合いな彼らが、たった二人で旅を続けるようになってからもう三年以上の歳月が過ぎ去っていた。
金は唸るほどあるが、あてのない旅の途中。この二人は今回たまたま王都ナンバーク開催される武術大会を見学するためだけに、この都市を訪れていたのである。
つまり。彼らにとってはこの武術大会も、悠々自適な旅の単なる通過点の一つにすぎなかった。
「ところで明日の準決勝。もちろんあのエルドラのお姉さんと、砂漠の民のお兄ちゃんが勝つでしょ。そしたらエイリンはさ、決勝でどちらが勝つと思う?」
「それは、やはりドーマが勝利するかと。私に武芸の優劣は分かりかねますが、昨日の第一試合を見るに、私が与えた『身体強化魔法』に関しては、ここ数年の間にかなり研鑽を積んでいるように見受けられました。それに……今朝私が……」
「あっ。やっぱりあのお姉さんに新しい魔法を教えに行ってたんだ。どうせならそのまま弟子にしてあげれば良かったのに」
「坊ちゃまはそれがお望みですか?」
「うん。それで同じ弟子になったら、エイリンが僕に絶対に教えてくれない身体強化の魔法をこっそりと教えてもらうの」
「結局そうなるでしょう?だから私はあのエルドラ人を弟子にはしたくないのです。あんな危険な魔法を坊っちゃまが使うなんて私は考えただけでも恐ろしい」
「大丈夫だって。僕はエイリン大賢者の一番弟子なんだよ」
「あの魔法だけはいけません。刃物を振り回す為のあんな低俗で野蛮な魔法なんて……。もし坊ちゃまが怪我でもされたら私は一生後悔致します」
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