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第七章 今度は、私が

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 しばらく笑ってから、ふと自分を取り戻した私は、電話に向かう。

「あの、ごめんね、梨菜。私ったら、自分のことばかり考えてた。梨菜には私なんて邪魔かもしれないし、おばあちゃんが倒れたのもこんな私のせいかも――だけど、梨菜と一緒にいたいの」
日上ひかみ……うん、そうね――』
「私ね、もう絶対負けないから。梨菜が私のこと無視するなら、私が勝手についていく。楠原くすはらくんなんて、人の住所勝手に調べたんだもの。私だってそれくらいできるよ!」
『日上、いや、ちょ……落ち着いて』
「ストーキングだって、盗聴だって、侵入だって……や、それは犯罪だけど!」
『あ、意外に冷静だね』
「犯罪はだめだよ……ちょっとしか」
『ちょっとはいいと思ってんの!?』

 ツッコミを入れた梨菜はしばし沈黙し、それから唐突にふふっと笑った。

『あんた、そんな物分かり悪いヤツだっけ。もっといい子ちゃんじゃなかった?』
「梨菜と付き合うなら、これくらいの根性が必要なの」
『人のせいにするつもり?』
「そんなこというなら、梨菜こそ……私と会わなかったのは、私をいじめに巻き込まないためでしょう?」
『バレてたか』
「私のこと巻き込みたくないなんて、あなたも、そんないい子ちゃんじゃなかったよね?」
『あは、あんたのが感染うつってたのかも』

 冗談っぽい口調を咳払いで消して、先に口を開いたのは梨菜だった。

『……今まで悪かった、ごめん』
「許す。だから、私のことも許して」
『あんたの何を許すの』
「今までずっと、梨菜のことちゃんと知らなかったことを。それに、怖くなって一度は見捨てようとしたことを」
『……いいよ、許す』
「ありがと」

 謝り合う自分たちのやり取りを見て、頭の中に『Speak Softly, Love』の甘い歌が流れた。

「ねえ、今の私たち、『ゴッドファーザー』みたいね?」
『どこがよ』
「愛のテーマ――『Speak Softly, Love』のね、原詩じゃなくて、日本語の曲聞いたことある? 『お互いを許し合う』っていうくだりがあって……」

 その繋がりの中で、ふと、映画のマフィアが口にした名台詞を思い出した。

 ――彼が断われない提案を、しようじゃないか。

 はっと思いついた。
 携帯電話を握る手に、思わず力が入る。

「ねえ、梨菜。私たち、彼女が――坂詰さかつめさんが、断れない提案をするべきだよね」
『……はあ? また唐突なことを』
「唐突じゃないよ。ずっと考えてたの。このまま、あの人たちに隠れて、こそこそ仲良くするなんて嫌だもの」

 梨菜と友達でいることは、隠すべきことなんかじゃない。
 教室でも他の場所でも、堂々としていたい。悪いことしてる訳でもないのに、どうして彼女たちに怯えなきゃいけないの。

 燃え上がる私に、多少呆れつつも、梨菜は結局夜更けまで電話に付き合ってくれた。
 だけど最後にノリノリになってたのは梨菜の方だったので、私たちやっぱりお互いさまだと思う。
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