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第五章 しあわせな休日
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「日上-! こっちこっち」
「あ、梨菜! 楠原くん!」
人口の多くないこの街でも、さすがに駅前は待ち合わせの人が並んでいる。
手を振った梨菜に振り返すと、その横に楠原くんももう待っていた。
二人とも学校とは全然違う服を着ているから、私の頭がすぐに見付けられなかったらしい。
梨菜の着ているスリムなジーンズと身体にぴったりした短めのTシャツ、大きな帽子は、確かにこの頃の流行りだったなぁと懐かしい。
隣に立つ楠原くんも、ダメージ加工のジーンズと黒っぽいTシャツ、白い薄手のシャツを羽織って革靴を履いている。背が高いので、こういうラフな格好はすごく映える。
私はと言えば、流行りもなければ廃りもない、紺色のワンピースと白いボレロだ。
家のたんすを引っ掻き回した挙句、未来の私と現在の私の両方が納得できるものをと選抜した結果、これしか残らなかったから。
「あー、ふーん。やっぱ日上はそういう優等生っぽいの着る訳ね」
今となっては、梨菜のそんな皮肉は笑って言い返せるようになった。
「梨菜だって、そのジーンズ、ローライズ過ぎない? 後ろからお尻見えちゃうよ」
「見えないよ、バカ!」
お互いの服装について言い合う私たちを、楠原くんはにこにこしながら見守っている。
こほん、と空咳で場を仕切り直した梨菜が、私たちに、交互に視線を向けた。
「それでは。第一回、映画館での映画鑑賞会を始めます。二人とも映画館の経験はゼロらしいから、今回は大ゴケしないように、封切りしたばっかのアメリカン・コメディにしました」
思わず、拍手で迎える楠原くんと私。
「と、いう訳で、今日の映画はこれよ!」
ばん、という効果音がしそうな勢いで、梨菜が出して来たのは映画雑誌の一ページ。
開かれているのは、新作情報。
タイトルは『セブンティーン・アゲイン』。
十七歳をもう一度――まさにその立場にいる私は、少しだけどきりとしてしまう。
「映画館の面白さはやっぱり派手なアクションが一番感じやすいと思うんだけど、今、良い感じのアクション映画がなくて。わたしもまだ見てないヤツの方が嬉しいし」
「ど、どんなお話なの?」
「よくぞ聞いてくれたわね!」
そこから梨菜の説明してくれた筋書きに、私は大いに緊張の汗を垂らすのだった。
『何もかもうまくいかなくなった三十七歳の主人公が、十七歳に戻って学校に通う話』だなんて。それ……それって、あの。
もしかしてなんだけど、梨菜、私の状況分かってたり、しない……よね?
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
映画の余韻を胸に、喫茶店にに入る。
注文が片付いた途端、向かいの席に座った梨菜が笑いながら問いかけてきた。
「さあ、人生初の映画館はどうだった?」
私が悩んでいる間に、隣の楠原くんが小さく頷きながら答える。
「思ってたよりも良かった。派手な見せ場がなくても、ああいう環境だと集中して物語に入り込みやすくなる気がする」
「でしょでしょ」
「私、映画に一生懸命になっちゃって、映画館の感想、全然気にしてなかったんだけど……すごく面白かったね」
入るまでは、梨菜に何か気付かれているんじゃないかとハラハラした。
だけど、始まってしまえば、一気に引き込まれてしまった。
「大人の目線で、高校生を見るって面白いよな」
「ありがちだけど、結局は一人の人への愛に気付くっていうのもいいよね」
「あ、あの……高校生の主人公、外見があれだから分かんないけど、三十七歳にしてはちょっと子どもっぽいかなって思ったりしたかな」
「へえ、日上さんがマイナス感想なんて珍しいね」
盛り上がってる二人に対して、批判めいたことを口にすると、楠原くんが意外そうに目を丸くした。
うん……その、主人公に、なんとなく自分を重ねてしまうのだ。
そのせいで、ちょっと点が辛めになっているような気はする。
梨菜が、運ばれてきたクリームソーダにスプーンを差す。
「いやいや、だからさ、これは、そういう子どもっぽいところを直すための逆行なのよ。それに、周りが十七歳だって思って対応してくると、段々それに合ってくものじゃない?」
「そういうもの、かな……?」
「そうだね。それに俺なんかは、きっと十七歳も三十七歳も、なんなら九十七歳になってもそんなに違いがないんじゃないかなって、周りの大人なんか見てるとそう思うよ」
「そ、そうなのかな」
自分自身は確かにそうなんだけど。
できれば、他のみんなもそうであって欲しい、ような……。
それから、映画の内容について、誰の演技が良かっただとか、どのシーンが感動しただとか、もしこうなってたらアウトだったなんて、ああでもないこうでもないと語り合った。
こういう、その場でみんなで感想を楽しめるのも、映画館で映画を見ることの良いところだと思うんだ。
「あ、梨菜! 楠原くん!」
人口の多くないこの街でも、さすがに駅前は待ち合わせの人が並んでいる。
手を振った梨菜に振り返すと、その横に楠原くんももう待っていた。
二人とも学校とは全然違う服を着ているから、私の頭がすぐに見付けられなかったらしい。
梨菜の着ているスリムなジーンズと身体にぴったりした短めのTシャツ、大きな帽子は、確かにこの頃の流行りだったなぁと懐かしい。
隣に立つ楠原くんも、ダメージ加工のジーンズと黒っぽいTシャツ、白い薄手のシャツを羽織って革靴を履いている。背が高いので、こういうラフな格好はすごく映える。
私はと言えば、流行りもなければ廃りもない、紺色のワンピースと白いボレロだ。
家のたんすを引っ掻き回した挙句、未来の私と現在の私の両方が納得できるものをと選抜した結果、これしか残らなかったから。
「あー、ふーん。やっぱ日上はそういう優等生っぽいの着る訳ね」
今となっては、梨菜のそんな皮肉は笑って言い返せるようになった。
「梨菜だって、そのジーンズ、ローライズ過ぎない? 後ろからお尻見えちゃうよ」
「見えないよ、バカ!」
お互いの服装について言い合う私たちを、楠原くんはにこにこしながら見守っている。
こほん、と空咳で場を仕切り直した梨菜が、私たちに、交互に視線を向けた。
「それでは。第一回、映画館での映画鑑賞会を始めます。二人とも映画館の経験はゼロらしいから、今回は大ゴケしないように、封切りしたばっかのアメリカン・コメディにしました」
思わず、拍手で迎える楠原くんと私。
「と、いう訳で、今日の映画はこれよ!」
ばん、という効果音がしそうな勢いで、梨菜が出して来たのは映画雑誌の一ページ。
開かれているのは、新作情報。
タイトルは『セブンティーン・アゲイン』。
十七歳をもう一度――まさにその立場にいる私は、少しだけどきりとしてしまう。
「映画館の面白さはやっぱり派手なアクションが一番感じやすいと思うんだけど、今、良い感じのアクション映画がなくて。わたしもまだ見てないヤツの方が嬉しいし」
「ど、どんなお話なの?」
「よくぞ聞いてくれたわね!」
そこから梨菜の説明してくれた筋書きに、私は大いに緊張の汗を垂らすのだった。
『何もかもうまくいかなくなった三十七歳の主人公が、十七歳に戻って学校に通う話』だなんて。それ……それって、あの。
もしかしてなんだけど、梨菜、私の状況分かってたり、しない……よね?
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
映画の余韻を胸に、喫茶店にに入る。
注文が片付いた途端、向かいの席に座った梨菜が笑いながら問いかけてきた。
「さあ、人生初の映画館はどうだった?」
私が悩んでいる間に、隣の楠原くんが小さく頷きながら答える。
「思ってたよりも良かった。派手な見せ場がなくても、ああいう環境だと集中して物語に入り込みやすくなる気がする」
「でしょでしょ」
「私、映画に一生懸命になっちゃって、映画館の感想、全然気にしてなかったんだけど……すごく面白かったね」
入るまでは、梨菜に何か気付かれているんじゃないかとハラハラした。
だけど、始まってしまえば、一気に引き込まれてしまった。
「大人の目線で、高校生を見るって面白いよな」
「ありがちだけど、結局は一人の人への愛に気付くっていうのもいいよね」
「あ、あの……高校生の主人公、外見があれだから分かんないけど、三十七歳にしてはちょっと子どもっぽいかなって思ったりしたかな」
「へえ、日上さんがマイナス感想なんて珍しいね」
盛り上がってる二人に対して、批判めいたことを口にすると、楠原くんが意外そうに目を丸くした。
うん……その、主人公に、なんとなく自分を重ねてしまうのだ。
そのせいで、ちょっと点が辛めになっているような気はする。
梨菜が、運ばれてきたクリームソーダにスプーンを差す。
「いやいや、だからさ、これは、そういう子どもっぽいところを直すための逆行なのよ。それに、周りが十七歳だって思って対応してくると、段々それに合ってくものじゃない?」
「そういうもの、かな……?」
「そうだね。それに俺なんかは、きっと十七歳も三十七歳も、なんなら九十七歳になってもそんなに違いがないんじゃないかなって、周りの大人なんか見てるとそう思うよ」
「そ、そうなのかな」
自分自身は確かにそうなんだけど。
できれば、他のみんなもそうであって欲しい、ような……。
それから、映画の内容について、誰の演技が良かっただとか、どのシーンが感動しただとか、もしこうなってたらアウトだったなんて、ああでもないこうでもないと語り合った。
こういう、その場でみんなで感想を楽しめるのも、映画館で映画を見ることの良いところだと思うんだ。
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