上 下
10 / 39
第三章 静かな図書室で

しおりを挟む
 帰って自室に戻り、すぐにページをめくり始めた。
 前半、母親から抑圧され、クラスメイトから嫌われ、いじめられ続ける描写が、報告書の形で書かれている。その悲惨さに胸が痛むんだ。
 私も、そして多分梨菜りなも、ここまでひどいことはされてない。はず。

 この子が救われるなら、と思って、どんどんページを読み進めていった後半。
 ついに、彼女は舞台上で目覚める――超能力に。

「……へ?」

 目覚めた超能力を使って、復讐を果たしていくキャリーの姿――いや、前半で何かおかしいなっとは思ってたんだけど!
 予想というか、期待というか、勝手に求めていたものとは、全然違う内容だった。
 にもかかわらず、結局最後まで読んでしまったのは……やっぱり、面白かったからだろう。
 一晩で読み終わって、はあ、と深く息をつくことになった。満足とも、感動とも違うこの気持ち。
 でも、確かに面白かった。うん。

楠原くすはらくん……の、せいじゃないよね」

 ちゃんと説明しなかったのは私だ。
 いじめられてる子が主人公なのは間違いない。
 楠原くんは、間違いなく初心者読者にも面白いものをすすめてくれたのだろう。
 だけど……キャリーのラストを思うと、胸が痛い。

「明日、楠原くんにまた相談してみよう……」

 今度は、もっとちゃんと、事前に説明しとかなきゃ。
 現実に即したもので、最後にちゃんと幸せになれるものをって。

「でも、面白かったなぁ……」


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


 教室では、私と楠原くんは席が離れている。
 普段一緒にいる友達も全然違うし、言葉を交わすことはなかった。

 放課後になって、図書室に向かう。
 今日は、扉を開けた途端、書棚の奥から、楠原くんが顔をのぞかせた。

日上ひかみさん」

 なんだかほっとしたように、頬を緩めて手を振っている。
 その顔を見ると、少し緊張していた気持ちが緩んだ。
 楠原くんには、人をリラックスさせる雰囲気があると思う。

「昨日はありがとう。これ、すごく面白かった」

 お礼を言いながら、借りていた『キャリー』を差し出すと、楠原くんは軽く目を見開いた。

「もう読んだの?」
「うん、止まらなくて」
「そう、楽しんで貰えたなら良かった……けど」

 私の分の返却処理をしながら、なんだか困った顔をしている。

「ごめん、何か変なことしたかな?」
「いや、日上さんが悪いんじゃないんだ……その、俺、帰ってからちょっと考えたことがあってさ」

 『キャリー』を元の棚に戻すと、楠原くんはくるりと私に向き直った。

「日上さん、今日も何か借りていく?」
「うん。あの……『キャリー』はすごく面白かったんだけど、その、次はもうちょっと現実っぽいいじめの話で……あ、できれば日本の女子高生が主役だともっと良くて、それで最後がハッピーエンドの」
「ああ……うん、やっぱりそうか」

 わしゃわしゃ、と自分の髪を掻き混ぜている。
 その指がぴたりと止まって、そして前髪を掻き上げた後、真剣な瞳が私を見た。

「もしかして、だけど。日上さんが知りたいのって、新関にいぜき 梨菜りなさんのいじめを止める方法、なんじゃない?」
「えっ……」

 そうでなくても静かな図書室が、しんと静まり返った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。 男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕! オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。 学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。 ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ? 頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、 なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。 周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません) ハッピーエンドです。R15は保険です。 表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。 会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。 (霊など、ファンタジー要素を含みます) 安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き 相沢 悠斗 心春の幼馴染 上宮 伊織 神社の息子  テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。 最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*) 

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

玉響に希う たまゆらにこいねがう

春紫苑
ライト文芸
奇跡の双子。 ありえないことではないらしい。一卵性で、男女の双子。彼女は自らがそうであったと言い、兄の体調不良は体に伝わってきたと言った。 生まれた時に体を分けた片割れであるから、きっとまだどこかで繋がっていたのだと。 幼い頃から喘息に苦しめられた兄は我慢をするたちで、それに気付き、周りに知らせるのが自分の役割だったのだと。 だけどもう、それは彼女の役割ではなくなった……。 今彼女に求められているものは、無い。 あの家で必要であるものは。 ただ、兄。だけだ。

処理中です...