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第三章 静かな図書室で

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 帰って自室に戻り、すぐにページをめくり始めた。
 前半、母親から抑圧され、クラスメイトから嫌われ、いじめられ続ける描写が、報告書の形で書かれている。その悲惨さに胸が痛むんだ。
 私も、そして多分梨菜りなも、ここまでひどいことはされてない。はず。

 この子が救われるなら、と思って、どんどんページを読み進めていった後半。
 ついに、彼女は舞台上で目覚める――超能力に。

「……へ?」

 目覚めた超能力を使って、復讐を果たしていくキャリーの姿――いや、前半で何かおかしいなっとは思ってたんだけど!
 予想というか、期待というか、勝手に求めていたものとは、全然違う内容だった。
 にもかかわらず、結局最後まで読んでしまったのは……やっぱり、面白かったからだろう。
 一晩で読み終わって、はあ、と深く息をつくことになった。満足とも、感動とも違うこの気持ち。
 でも、確かに面白かった。うん。

楠原くすはらくん……の、せいじゃないよね」

 ちゃんと説明しなかったのは私だ。
 いじめられてる子が主人公なのは間違いない。
 楠原くんは、間違いなく初心者読者にも面白いものをすすめてくれたのだろう。
 だけど……キャリーのラストを思うと、胸が痛い。

「明日、楠原くんにまた相談してみよう……」

 今度は、もっとちゃんと、事前に説明しとかなきゃ。
 現実に即したもので、最後にちゃんと幸せになれるものをって。

「でも、面白かったなぁ……」


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


 教室では、私と楠原くんは席が離れている。
 普段一緒にいる友達も全然違うし、言葉を交わすことはなかった。

 放課後になって、図書室に向かう。
 今日は、扉を開けた途端、書棚の奥から、楠原くんが顔をのぞかせた。

日上ひかみさん」

 なんだかほっとしたように、頬を緩めて手を振っている。
 その顔を見ると、少し緊張していた気持ちが緩んだ。
 楠原くんには、人をリラックスさせる雰囲気があると思う。

「昨日はありがとう。これ、すごく面白かった」

 お礼を言いながら、借りていた『キャリー』を差し出すと、楠原くんは軽く目を見開いた。

「もう読んだの?」
「うん、止まらなくて」
「そう、楽しんで貰えたなら良かった……けど」

 私の分の返却処理をしながら、なんだか困った顔をしている。

「ごめん、何か変なことしたかな?」
「いや、日上さんが悪いんじゃないんだ……その、俺、帰ってからちょっと考えたことがあってさ」

 『キャリー』を元の棚に戻すと、楠原くんはくるりと私に向き直った。

「日上さん、今日も何か借りていく?」
「うん。あの……『キャリー』はすごく面白かったんだけど、その、次はもうちょっと現実っぽいいじめの話で……あ、できれば日本の女子高生が主役だともっと良くて、それで最後がハッピーエンドの」
「ああ……うん、やっぱりそうか」

 わしゃわしゃ、と自分の髪を掻き混ぜている。
 その指がぴたりと止まって、そして前髪を掻き上げた後、真剣な瞳が私を見た。

「もしかして、だけど。日上さんが知りたいのって、新関にいぜき 梨菜りなさんのいじめを止める方法、なんじゃない?」
「えっ……」

 そうでなくても静かな図書室が、しんと静まり返った。
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