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第十章 王都にて

5.イェレミアスの狙い

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 イェレミアスは王様との会談なんてもともと期待してなかったのだろう。
 当初から王道の魔王パターンを行くつもりで来てたらしい。

「あ、待って待って。ジュリオさんがどこにいるかなんて分かんないじゃない」
「バカめ。なぜ勇者がここにいないのか分からんのか」

 イェレミアスの目はカトリーナ姫を見てるままなんだけど……何故か私の問いかけに答えてくれてるので、この「バカめ」はたぶん、私に言ってるんだろうなぁ。

「アウレリオさんがどうかしたの?」
「うむ。あれとジュリオは親友同士だと言う話を、お前は聞いておらんのか?」
「親友!?」
「いえ、それは……わたくしも聞き及んでおりませんでしたが、確かにジュリオは軍師として戦場にも出ていたそうですから、アウレリオと親交があってもおかしくはありませんね」

 じゃあ、もしかして、カトリーナ姫を守って欲しいってアウレリオさんにお願いしてた親友って言うのも……? これは、何だかカトリーナ姫勝利の目が見えてきた気がする!

「ふん、勇者は鼻持ちならないヤツではあるが、アレにかかればこんな国の牢破りなどさしたる負担でもあるまい。今頃はもう、うまいこと言って表に連れ出している頃だろう」

 カトリーナ姫が頷くと、今度こそ視線だけじゃなく言葉も態度も姫に向けて、イェレミアスは肩を竦めて見せた。

「とりあえず、俺がここに来た目的は達した。ジュリオとやらがこの後どうするつもりかは、お前が自分で確認するが良い。ちなみに、魔王領は優れた軍師はいつでも歓迎だ。先の戦ではその力、発揮しきれておらなんだようだが、俺ならば十全に使って見せるとそれも口説き文句に付け加えておけ」
「それは、つまり」
「お前と共に魔王領に来るなら良し、いかにしても王国に残ると言うならそれもまた良し。先はお前とジュリオで決めろ」

 カトリーナ姫が深々とお辞儀をしたところで……私はイェレミアスのマントを引っ張った。

「あのイェレミアス、水を差すようだけど、カトリーナ姫を第一妃にするってさっき言ったよね。ジュリオさんは恋敵なのに……良いの?」

 いや、今更ダメってなってもどうしようもないけど、何だか話がごちゃごちゃしたまま進んじゃうと、後で困るから。
 一瞬動きを止めたイェレミアスが、ふかーいため息をついた。

「聞いてなかったのか、お前。俺はと言ったのだ」

 呆れた顔で、引っ張られたマントを引っ張り返された。ようやくイェレミアスの目が私の方に……と思った直後、すぐにまたカトリーナ姫の方に視線を戻してしまう。

「良いか、カトリーナ。つい今、王の前で宣言した通り。お前を第二妃に、という話はもうなしだ。破談だ。ジュリオを連れた上で魔王領へ移住すると言うなら歓迎しよう。失敗した時は俺がこのまま娶ってやろうと思っていたが……ふん、どうやらその隙はないんじゃないか、というのが俺の推論だな」
「承知しました……ええ、必ず」

 イェレミアスに頷き返した後、カトリーナ姫は私の方を向いて微笑みを浮かべた。

「見ていてくださいね、ナリアさま。わたくし、必ず約束を守りますから。あなたが勇気を出したのと同じように、わたくしも」

 それは、いつか侍女さんと三人でお茶会をした時の約束だ。私がイェレミアスと仲直りできたら、カトリーナ姫も勇気を出すって。

「あっあっ、で、でもそれは……!」
「いいえ、それ以上はおっしゃらないで。良いのです。あなたが頑張ってくださったことが嬉しかったの。……だから」
「うん、分かった」

 手を繋いで、しばらく黙っていた。ふと、カトリーナ姫が眉を寄せて苦笑する。

「ああ、でも……恋しているのはわたくしだけで、ジュリオに振られてしまったら、と思うとやっぱり今も少し怖いわ」
「大丈夫。その時は、例のお花の料理方法を教えてあげるからね。私がいれば、とりあえず食べ物は見分けられるよ。女の子ばっかりで楽しく暮らそう。貧乏生活の先輩がここにいるよ!」
「ふふ……ええ、その時はお願いしますね、先輩」
「任せて!」

 頬を上気させた姫は一足先にジュリオさんと話をすると言って、スカートの裾をお転婆につまみ上げ、私たちを置いて駆けていった。
 その踊るような背中を見送って――ふと横を見ると、同じような顔で廊下の先を見ているイェレミアスがいる。

 どうやら、私たちは廊下に二人で残されてしまったのだった。
 頑として私と目を合わせないイェレミアスと、何を話せば良いのか戸惑う私は。
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