1 / 15
拾う
しおりを挟む
♡
ルナは10年振りに目を覚ました。ちょっと寝すぎた。竜に生まれ変わってから、時間の感覚がおかしい。1回眠りにつくとなかなか起きられない。
(前回は5年で起きたのになぁ)
大きな欠伸をしながら寝床を見回す。先代が収集した財宝の山が煌めいている。ここは竜の住まう地下大神殿。ルナが暮らし始めて100年が経つ。50年くらい前までは財宝を狙って盗人が忍び込んできたものだが、昨今は全く来ない。忘れられたらしい。
竜は唯一無二の存在だ。1000年に1度生まれ変わる。前世人間だったルナが今代の竜に選ばれたのだ。
(あと900年か。長…)
基本、竜に果たすべき務めは無い。数年起きて数年眠るのを繰り返している。龍脈を守るとか勇者と戦うとか、無い。自ら人間に化けて人里に下りないと何年も誰ともしゃべらずに終わる。ルナは退屈しのぎに外界の様子を見ようと、魔法の鏡を起動した。
(おや?)
神殿は大きな山の地下にある。その山の裾野の森にカラスが集まって騒いでいる。鏡の像を拡大すると戦の後のようだった。倒れる人と馬。20人ほどの一団か。どの人間も鎧を着けている。ルナは悲しくなった。あと数時間、自分が早く起きていたら助けられたのに。
1人くらいは生きていないかと周囲を探る。すると崖の下に生命反応があった。まだ間に合うかも。ルナは慌てて神殿の外に出た。
♡
巨大な羽を広げ…ないで魔法で転移する。もう何十年も空を飛んでいない。
(羽が弱って飛べないかも。今度確かめないと…)
ルナは巨体で人間を踏みつぶさないように、慎重に下りた。そこに血まみれの人間が倒れていた。微かに息がある。彼女は魔法で治そうとしたが、ふと奇妙な事を思いついた。
(お世話してみたい)
怪我の手当てをして、食事を与えて。そのうち懐くかもしれない。前世飼っていた小動物みたいに。そう考えたら、退屈な日常が急に彩られたように感じられた。
そこで竜は最小限度の血止めを施し、瀕死の人間を銜えて巣に戻った。
♡
先代の記憶も受け継いでいるが、ルナは自分の心は人間に近いと思っている。だから目覚めると人間の村を観察したり、実際に赴いて交流したりする。この人間を助けて感謝され、長く一緒に暮らせたらいい。1人(竜?)の暮らしはとにかく暇なのだ。
しかし地下大神殿に帰り、この巨大な体ではお世話ができないことに気づいた。
(仕方ない。人間に化けるか)
ルナは黒竜だから化けると黒い髪の女になる。本当はどんな姿にもなれるが、前世の姿に近い方が落ち着くので黒髪黒目が定番だ。いよいよお世話に入る。怪我人を宙に浮かせ、浄化の魔法で汚れを落とし、治癒の魔法で傷を塞ぎ包帯を巻く。更に着替えの魔法でゆったりとした衣服を着せると、あっと言う間に手当ては終わった。
拾ったのは人間としては大きな、黒い髪の若い男だ。血を失いすぎて蒼白な顔をしている。目が覚めたら良い食事を与えよう。綺麗な顔立ちをしているから笑ったら素敵だろう。
にやにやと男の顔を眺めていたルナは、また気づいた。竜の巣には人間に必要な物が何もない。寝かせるベッドも食事を食べるテーブルも椅子も無い。しばし考え、神殿の外にある小屋を使うことにした。
♡
数百年前、ここは竜を神と称える神殿だった。竜に仕える神官や巫女がいた。いつの間にか寂れてルナが生まれた頃には無人になっていた。1つだけ残っていた小屋には家具がある。ルナはそこへ男を運び入れた。
保存の魔法が効いているので家具も布類も真新しい。男をベッドに寝かせ、そっと上掛けを掛ける。その他に気をつける点はないだろうか。気温はまだ春だから大丈夫。湿度はよく分からないが多分問題ない。あとは水と食料か。
ルナは森の恵みで食事を作った。水は湧水を小屋に引いた。全てを魔法でするのですぐ終わる。あとは男が目覚めるのを待つだけだ。彼女はベッドの横の椅子に座り、その時を今か今かと待っていた。
ルナは10年振りに目を覚ました。ちょっと寝すぎた。竜に生まれ変わってから、時間の感覚がおかしい。1回眠りにつくとなかなか起きられない。
(前回は5年で起きたのになぁ)
大きな欠伸をしながら寝床を見回す。先代が収集した財宝の山が煌めいている。ここは竜の住まう地下大神殿。ルナが暮らし始めて100年が経つ。50年くらい前までは財宝を狙って盗人が忍び込んできたものだが、昨今は全く来ない。忘れられたらしい。
竜は唯一無二の存在だ。1000年に1度生まれ変わる。前世人間だったルナが今代の竜に選ばれたのだ。
(あと900年か。長…)
基本、竜に果たすべき務めは無い。数年起きて数年眠るのを繰り返している。龍脈を守るとか勇者と戦うとか、無い。自ら人間に化けて人里に下りないと何年も誰ともしゃべらずに終わる。ルナは退屈しのぎに外界の様子を見ようと、魔法の鏡を起動した。
(おや?)
神殿は大きな山の地下にある。その山の裾野の森にカラスが集まって騒いでいる。鏡の像を拡大すると戦の後のようだった。倒れる人と馬。20人ほどの一団か。どの人間も鎧を着けている。ルナは悲しくなった。あと数時間、自分が早く起きていたら助けられたのに。
1人くらいは生きていないかと周囲を探る。すると崖の下に生命反応があった。まだ間に合うかも。ルナは慌てて神殿の外に出た。
♡
巨大な羽を広げ…ないで魔法で転移する。もう何十年も空を飛んでいない。
(羽が弱って飛べないかも。今度確かめないと…)
ルナは巨体で人間を踏みつぶさないように、慎重に下りた。そこに血まみれの人間が倒れていた。微かに息がある。彼女は魔法で治そうとしたが、ふと奇妙な事を思いついた。
(お世話してみたい)
怪我の手当てをして、食事を与えて。そのうち懐くかもしれない。前世飼っていた小動物みたいに。そう考えたら、退屈な日常が急に彩られたように感じられた。
そこで竜は最小限度の血止めを施し、瀕死の人間を銜えて巣に戻った。
♡
先代の記憶も受け継いでいるが、ルナは自分の心は人間に近いと思っている。だから目覚めると人間の村を観察したり、実際に赴いて交流したりする。この人間を助けて感謝され、長く一緒に暮らせたらいい。1人(竜?)の暮らしはとにかく暇なのだ。
しかし地下大神殿に帰り、この巨大な体ではお世話ができないことに気づいた。
(仕方ない。人間に化けるか)
ルナは黒竜だから化けると黒い髪の女になる。本当はどんな姿にもなれるが、前世の姿に近い方が落ち着くので黒髪黒目が定番だ。いよいよお世話に入る。怪我人を宙に浮かせ、浄化の魔法で汚れを落とし、治癒の魔法で傷を塞ぎ包帯を巻く。更に着替えの魔法でゆったりとした衣服を着せると、あっと言う間に手当ては終わった。
拾ったのは人間としては大きな、黒い髪の若い男だ。血を失いすぎて蒼白な顔をしている。目が覚めたら良い食事を与えよう。綺麗な顔立ちをしているから笑ったら素敵だろう。
にやにやと男の顔を眺めていたルナは、また気づいた。竜の巣には人間に必要な物が何もない。寝かせるベッドも食事を食べるテーブルも椅子も無い。しばし考え、神殿の外にある小屋を使うことにした。
♡
数百年前、ここは竜を神と称える神殿だった。竜に仕える神官や巫女がいた。いつの間にか寂れてルナが生まれた頃には無人になっていた。1つだけ残っていた小屋には家具がある。ルナはそこへ男を運び入れた。
保存の魔法が効いているので家具も布類も真新しい。男をベッドに寝かせ、そっと上掛けを掛ける。その他に気をつける点はないだろうか。気温はまだ春だから大丈夫。湿度はよく分からないが多分問題ない。あとは水と食料か。
ルナは森の恵みで食事を作った。水は湧水を小屋に引いた。全てを魔法でするのですぐ終わる。あとは男が目覚めるのを待つだけだ。彼女はベッドの横の椅子に座り、その時を今か今かと待っていた。
10
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
あなたを解放してあげるね【本編完結・続編連載中】
青空一夏
恋愛
私はグラフトン侯爵家のデリア。13歳になったある日、スローカム伯爵家のクラーク様が、ご両親と一緒にグラフトン侯爵家を訪れた。
クラーク様は華奢で繊細な体つきをしていた。柔らかな金髪は風になびき、ふんわりとした雰囲気を醸し出していた。彼の笑顔には無邪気さと親しみやすさが感じられ、周りの人たちを引き込んでしまうような魅力があった。それに、とても優秀で古代魔法の分厚い書物を、たった二週間で読んでしまうほどだった。
私たちは婚約者になり、順調に愛を育んでいたと思っていた。私に対する態度や言葉も優しく、思いやりも籠もっていたから、私はこの婚約に満足していた。ところが・・・・・・
この世界では15歳から18歳まで、貴族の子女は王都にある王立貴族学園に通うのだけれど、クラーク様からのお手紙も来訪も入学を機にピタリと止まってしまう。寂しいけれど、きっと学業に勤しんでいて忙しいのだろうと思い我慢した。
その1年後に同じ学園に入学してみると、私は上級生の女生徒に囲まれ「クラーク様から身を引きなさいよ。あの方には思い合う女性がいるのよ!」と言われた。 なんと学園では、私が無理矢理彼に一間惚れをして婚約を迫ったという噂が流れていたのよ。私は愛し合う恋人たちを邪魔する悪役令嬢と決めつけられ、(そもそも悪役令嬢ってなに?)責められた私は婚約者を解放してあげることにしたわ。
その結果、真実の愛を見つけた私は・・・・・・
これは私が婚約者を解放してあげて、お陰で別の真実の愛を見つける物語。魔法が当然ありの世界のラブファンタジー。ざまぁあり。シリアスあり、コメディあり、甘々溺愛ありの世界です。ヒロインはメソメソやられっぱなしの女性ではありません。しっかりしたプライドを持った令嬢です。
もふもふも登場予定。イケメン多数登場予定。多分、あやかしも出るかな・・・・・・
※作者独自の世界で、『ざまぁから始まる恋物語』です。
※ゆるふわ設定ご都合主義です。
※お話がすすんでいくなかでタグの変更があるかもしれません。
※以前書いたものに新しい魔法要素を加え、展開も少し違ってくるかもしれませんので、前に読んだ方でも楽しめると思いますので、読んでいただけると嬉しいです。(以前のものは非公開にしております)
※表紙は作者作成AIイラストです。
※女性むけhotランキング一位、人気ランキング三位、ありがとうございます。(2023/12/21)
※人気ランキング1位(2023/12/23~2023/12/27)ありがとうございます!
※AIイラスト動画をインスタに投稿中。bluesky77_77。
猫耳幼女の異世界騎士団暮らし
namihoshi
ファンタジー
来年から大学生など田舎高校生みこ。
そんな中電車に跳ねられ死んだみこは目が覚めると森の中。
体は幼女、魔法はよわよわ。
何故か耳も尻尾も生えている。
住むところも食料もなく、街へ行くと捕まるかもしれない。
そんな状況の中みこは騎士団に拾われ、掃除、料理、洗濯…家事をして働くことになった。
何故自分はこの世界にいるのか、何故自分はこんな姿なのか、何もかもわからないミコはどんどん事件に巻き込まれて自分のことを知っていく…。
ストックが無くなりました。(絶望)
目標は失踪しない。
がんばります。
殺人鬼転生・鏖の令嬢
猫又
ファンタジー
警察に追われ海へ落ち込んだ殺人少女はそこで息絶えるが、蘇生した場所は異世界で伯爵令嬢だった。メイドの娘だが伯爵家で引き取られたソフィアは日常的に異母兄姉妹にいじめを受けていた。抵抗する気も力もなく、毎日泣く日々だが、ある日、従兄弟に面白半分に噴水で溺死させられた瞬間、別の人格と入れ替わる。
そしてソフィアに入った殺人鬼の魂が復讐を始める。
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
まったりいきます。5万~10万文字予定。
お付き合いいただけたら幸いです。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる