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彼の惚気話は、名前を言えない素敵な女性
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アベリアは、車窓から見えるコバルトブルーの海を堪能しながら、彼とのお出かけ気分を楽んでいた。
デルフィーは彼女の嬉しそうな顔を見て、ここ最近は、足を運ぶのが気鬱だったブドウ畑へ行くのも「悪くないな」と、2人の時間を満喫していた。
景色を見ていたアベリアが、彼の事で日頃から気になっている事を聞いた。
「ねぇ、デルフィーのご実家は、どの地域にあるの? いつも邸に泊っているようだけど、たまには帰らなくていいの?」
デルフィーは、実家の話題は、伝えても面白いことが無いと思っていたから、あまり話したくないことだった。
だけど、それ以上に、アベリアが自分に抱いた興味は包み隠さず伝えたかった。
アベリアへ「愛してる」と、想いを明かせないデルフィーには、それ以外の話題は、一つも隠したくなかった。
「そういえば、お伝えしていませんでしたね、私の生まれはこの土地ではありません。この領地からは遠いので、なかなか帰ることはできませんからね。まぁ、近かったとしても、父は既に亡くなっておりますし、最近、母には新しいお相手が見つかったようで、少し疎遠なものですから」
「お父様を失くしていたのね、ごめんなさい知らなくて……。もしよかったら教えて欲しいんだけど、デルフィーのお父様はどんな方だったの? 私の父は自分の子どもでさえ、商売道具にするような人なんだけど」
「そうですね、父は貴族の次男でしたが、家を継げない事を憂うことより、縛られない自由な生き方を謳歌していましたね。平民でしたが、教養のある父から色々教えていただきましたので、こうして侯爵家で仕事が出来ています。とても尊敬できる父でした」
デルフィーは、父親のそんな生き方を誇らしく思っていたし、縛られない自由な生き方をしたかった。
「そうだったのね……」
カタカタ――……
馬車の車輪が立てる音が、アベリアが聞きたいことを口に出すべきか、躊躇ったことで生じた、沈黙の時間をつないでくれていた。
「デ、デルフィーには、恋人や結婚を約束した方はいないの?」
恥ずかしそうに下を向いて話すアベリアを、愛おしそうに見つめるデルフィー。
「私にそのような女性がいる様に見えますか?」
「もーうっ! 質問を質問で返すなんて、ずるい」
「くくっ、そうですね。私にはそのような女性はいませんが、好意を抱いている女性はいます」
「その女性は……」
「あっ、お相手の事は、いくらアベリア様でもお伝えできませんよ。でも……そうですね。彼女は何でも1人でやってしまうし、ちょっと危なっかしいので、もっと私に甘えてくれたらいいのにって思っています。……だけど、とても素敵な女性ですよ。まあ、その方のことをこれ以上言い過ぎると、誰の事か分かるかもしれないので、ここまでにしておきます」
そう彼が言うと、揺れていた馬車が、馬の嘶く声と同時に停止する。
「どうやら私の惚気話で時間を使ってしまい、農民達への戦略を立てる前に着いたようです。申し訳ありませんが、アベリア様は、これを羽織って、私の後ろに隠れていてくれませんか? 美しい女性を見慣れていないので、彼らにはその服では、少々刺激が強すぎますので」
そう言って、デルフィーは自分の上着を、アベリアに羽織らせた。
デルフィーが愛おしいと感じたのも、他の男の好奇な視線から護りたいと思ったのもアベリアが初めてだった。
もちろん、この後にやって来る彼女の夫からも、護りたかった。
デルフィーは彼女の嬉しそうな顔を見て、ここ最近は、足を運ぶのが気鬱だったブドウ畑へ行くのも「悪くないな」と、2人の時間を満喫していた。
景色を見ていたアベリアが、彼の事で日頃から気になっている事を聞いた。
「ねぇ、デルフィーのご実家は、どの地域にあるの? いつも邸に泊っているようだけど、たまには帰らなくていいの?」
デルフィーは、実家の話題は、伝えても面白いことが無いと思っていたから、あまり話したくないことだった。
だけど、それ以上に、アベリアが自分に抱いた興味は包み隠さず伝えたかった。
アベリアへ「愛してる」と、想いを明かせないデルフィーには、それ以外の話題は、一つも隠したくなかった。
「そういえば、お伝えしていませんでしたね、私の生まれはこの土地ではありません。この領地からは遠いので、なかなか帰ることはできませんからね。まぁ、近かったとしても、父は既に亡くなっておりますし、最近、母には新しいお相手が見つかったようで、少し疎遠なものですから」
「お父様を失くしていたのね、ごめんなさい知らなくて……。もしよかったら教えて欲しいんだけど、デルフィーのお父様はどんな方だったの? 私の父は自分の子どもでさえ、商売道具にするような人なんだけど」
「そうですね、父は貴族の次男でしたが、家を継げない事を憂うことより、縛られない自由な生き方を謳歌していましたね。平民でしたが、教養のある父から色々教えていただきましたので、こうして侯爵家で仕事が出来ています。とても尊敬できる父でした」
デルフィーは、父親のそんな生き方を誇らしく思っていたし、縛られない自由な生き方をしたかった。
「そうだったのね……」
カタカタ――……
馬車の車輪が立てる音が、アベリアが聞きたいことを口に出すべきか、躊躇ったことで生じた、沈黙の時間をつないでくれていた。
「デ、デルフィーには、恋人や結婚を約束した方はいないの?」
恥ずかしそうに下を向いて話すアベリアを、愛おしそうに見つめるデルフィー。
「私にそのような女性がいる様に見えますか?」
「もーうっ! 質問を質問で返すなんて、ずるい」
「くくっ、そうですね。私にはそのような女性はいませんが、好意を抱いている女性はいます」
「その女性は……」
「あっ、お相手の事は、いくらアベリア様でもお伝えできませんよ。でも……そうですね。彼女は何でも1人でやってしまうし、ちょっと危なっかしいので、もっと私に甘えてくれたらいいのにって思っています。……だけど、とても素敵な女性ですよ。まあ、その方のことをこれ以上言い過ぎると、誰の事か分かるかもしれないので、ここまでにしておきます」
そう彼が言うと、揺れていた馬車が、馬の嘶く声と同時に停止する。
「どうやら私の惚気話で時間を使ってしまい、農民達への戦略を立てる前に着いたようです。申し訳ありませんが、アベリア様は、これを羽織って、私の後ろに隠れていてくれませんか? 美しい女性を見慣れていないので、彼らにはその服では、少々刺激が強すぎますので」
そう言って、デルフィーは自分の上着を、アベリアに羽織らせた。
デルフィーが愛おしいと感じたのも、他の男の好奇な視線から護りたいと思ったのもアベリアが初めてだった。
もちろん、この後にやって来る彼女の夫からも、護りたかった。
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