9 / 57
全てを欲しがる愛人が、妻に仕向けた罠
しおりを挟む
その頃、王都の侯爵家の別邸で、愛人エリカが一人で絶叫していた。
「あ~っ悔しいぃ~。あの女、ドレスも宝石も自分の物は全部持って出て行っちゃったじゃない。昨日の晩餐で、邪魔なあの女には消えてもらおうと思ったのに、どうなってるの? 料理長に渡した赤い花の球根は、ちゃんと使わなかったのかしら。キィー、なんなのよ~、あの使えない男!」
叫んでも、気が済まないエリカ。自分の枕を壁に投げつけては、戻ってきたそれをまた抱えていた。
そして、枕を抱え込んで、自分の声が屋敷の外に漏れないように、口元に当てていた。
「も~うっ、思い出しても腹立たしい! 何の為にあたしが声をかけてあげたか分かんないでしょう! 1時間以上もただ舐め回してた、あのねちっこい男に、ずっとあたしの可愛い声を聞かせてやってたのに。あの日は、そこまでする気も無かったのに、あまりにしつこくて止めてくれないから仕方なく、あたしからおねだりまでさせて。そのくせ挿れた瞬間に直ぐに中で出して、自分だけ満足した顔しやがって、本当に信じられない! 今、思い出しても腹が立つわ。それなのに、あの女はもう邸に居ないじゃない!」
首をかしげて、何やら考えているエリカ。
「まぁ、脂ぎったあの男との子どもが出来たとしても、ケビン様に伝えれば侯爵家の跡継ぎだって喜ばれるはずだから、どうでもいっかぁ」
エリカの視線の先には、最近買ったばかりのドレスがあった。
「ここ最近のケビン様って、あたしのことは可愛がってくれているけど、新しいドレスをおねだりをしても、買い渋ってばっかりなんだよねぇー。だから、ケビン様に内緒で新しいドレスと宝石を買っちゃった~。でもぉ~、あれ位の金額なら、こんな大きなお邸に住んでるケビン様なら、ケチる訳ないから大丈夫よね、うふふ、やっぱり可愛いわ、あのドレス。あの女のドレスは、フリルもコサージュも少ない、地味なのが多いのよね。もしかして、安物なのかしら。ふんっ、自分の物を全部持ち去った、がめつい女には、お似合いだわ」
掛布の上に無造作に置かれた、小さな姿絵を見ている。それには、ケビン・ヘイワードが描かれていた。
「あの女と結婚したばかりの時は、何でも買ってくれたんだけどなぁ~。きっと結婚から1年で、ケビン様はあの女の口車に乗せられ始めたんだ。絶対にそう。何せ、あの女は愛想は無いのに、頭だけは良いみたいだから。ふんっ、でもね、頭が良いのは男に愛されないの」
勝ち誇ったように、笑っている。
ひとしきり、アベリアのことを馬鹿にして満足したのか、気がつけば悔しそうな表情に変わっていた。
「それにしてもあの女……いったい、どこでケビン様を誘惑したのかしら? あの綺麗な見た目で、ケビン様の気を惹かないように、化粧担当の従者へ『アベリアさんは、目じりが上がってた方が綺麗に見えるわよ』って言い続けて、ケビン様が嫌いな釣り目に見える様にしていたのに! 何が足りなかったの?」
自分の頭をぐしゃぐしゃとかき始め、ピタリと止まった。
「も~う、あの女が死んだら、あのドレスも宝石も全部あたしの物だったんだから。あれ、でも……、あの女がこの邸から出て行った。ということは、きっとこの後はケビン様も目を覚まして、また新しいドレスも宝石も買ってくれるはず。あの女は、もう戻って来ないんだから、この豪邸は全部あたしのものなんだ、あははっ」
何かを吹っ切ったエリカは、枕を投げ捨て、声高々に宣言した。
「あのプライドばかり高い女に直接聞かせてあげたかった。愛されるのは、愛想があって、守りたくなるようなかわいい、あたし! 侯爵家の跡取りは、あたしがちゃんと産んであげるから、あの女は正妻の座にしがみついて、男に相手にされないまま干からびてしまえばいいのよ」
この直ぐ後に、この部屋へ、料理長が訪ねてくることになる。
「あ~っ悔しいぃ~。あの女、ドレスも宝石も自分の物は全部持って出て行っちゃったじゃない。昨日の晩餐で、邪魔なあの女には消えてもらおうと思ったのに、どうなってるの? 料理長に渡した赤い花の球根は、ちゃんと使わなかったのかしら。キィー、なんなのよ~、あの使えない男!」
叫んでも、気が済まないエリカ。自分の枕を壁に投げつけては、戻ってきたそれをまた抱えていた。
そして、枕を抱え込んで、自分の声が屋敷の外に漏れないように、口元に当てていた。
「も~うっ、思い出しても腹立たしい! 何の為にあたしが声をかけてあげたか分かんないでしょう! 1時間以上もただ舐め回してた、あのねちっこい男に、ずっとあたしの可愛い声を聞かせてやってたのに。あの日は、そこまでする気も無かったのに、あまりにしつこくて止めてくれないから仕方なく、あたしからおねだりまでさせて。そのくせ挿れた瞬間に直ぐに中で出して、自分だけ満足した顔しやがって、本当に信じられない! 今、思い出しても腹が立つわ。それなのに、あの女はもう邸に居ないじゃない!」
首をかしげて、何やら考えているエリカ。
「まぁ、脂ぎったあの男との子どもが出来たとしても、ケビン様に伝えれば侯爵家の跡継ぎだって喜ばれるはずだから、どうでもいっかぁ」
エリカの視線の先には、最近買ったばかりのドレスがあった。
「ここ最近のケビン様って、あたしのことは可愛がってくれているけど、新しいドレスをおねだりをしても、買い渋ってばっかりなんだよねぇー。だから、ケビン様に内緒で新しいドレスと宝石を買っちゃった~。でもぉ~、あれ位の金額なら、こんな大きなお邸に住んでるケビン様なら、ケチる訳ないから大丈夫よね、うふふ、やっぱり可愛いわ、あのドレス。あの女のドレスは、フリルもコサージュも少ない、地味なのが多いのよね。もしかして、安物なのかしら。ふんっ、自分の物を全部持ち去った、がめつい女には、お似合いだわ」
掛布の上に無造作に置かれた、小さな姿絵を見ている。それには、ケビン・ヘイワードが描かれていた。
「あの女と結婚したばかりの時は、何でも買ってくれたんだけどなぁ~。きっと結婚から1年で、ケビン様はあの女の口車に乗せられ始めたんだ。絶対にそう。何せ、あの女は愛想は無いのに、頭だけは良いみたいだから。ふんっ、でもね、頭が良いのは男に愛されないの」
勝ち誇ったように、笑っている。
ひとしきり、アベリアのことを馬鹿にして満足したのか、気がつけば悔しそうな表情に変わっていた。
「それにしてもあの女……いったい、どこでケビン様を誘惑したのかしら? あの綺麗な見た目で、ケビン様の気を惹かないように、化粧担当の従者へ『アベリアさんは、目じりが上がってた方が綺麗に見えるわよ』って言い続けて、ケビン様が嫌いな釣り目に見える様にしていたのに! 何が足りなかったの?」
自分の頭をぐしゃぐしゃとかき始め、ピタリと止まった。
「も~う、あの女が死んだら、あのドレスも宝石も全部あたしの物だったんだから。あれ、でも……、あの女がこの邸から出て行った。ということは、きっとこの後はケビン様も目を覚まして、また新しいドレスも宝石も買ってくれるはず。あの女は、もう戻って来ないんだから、この豪邸は全部あたしのものなんだ、あははっ」
何かを吹っ切ったエリカは、枕を投げ捨て、声高々に宣言した。
「あのプライドばかり高い女に直接聞かせてあげたかった。愛されるのは、愛想があって、守りたくなるようなかわいい、あたし! 侯爵家の跡取りは、あたしがちゃんと産んであげるから、あの女は正妻の座にしがみついて、男に相手にされないまま干からびてしまえばいいのよ」
この直ぐ後に、この部屋へ、料理長が訪ねてくることになる。
0
お気に入りに追加
1,821
あなたにおすすめの小説
完結 裏切りは復讐劇の始まり
音爽(ネソウ)
恋愛
良くある政略結婚、不本意なのはお互い様。
しかし、夫はそうではなく妻に対して憎悪の気持ちを抱いていた。
「お前さえいなければ!俺はもっと幸せになれるのだ」
あなたに恋した私はもういない
梅雨の人
恋愛
僕はある日、一目で君に恋に落ちてしまった。
ずっと僕は君に恋をする。
なのに、君はもう、僕に振り向いてはくれないのだろうか――。
婚約してからあなたに恋をするようになりました。
でも、私は、あなたのことをもう振り返らない――。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結済】愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします
tea
恋愛
【第一章 あらすじ】
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。
その結果、『愛が重い』『思い込みが激しい』と王子様に鬱陶しがられ、婚約破棄され濡れ衣を着せられ修道院に贈られる道すがら暗殺されかけましたが、一人の騎士が助けてくれました。
私を助けたが為に騎士の任を解かれた彼は、私が送られた修道院がある子爵領の領主様の息子でもありました。
一見冴えないくたびれたオッサン風(でも実はイケメン)の彼に恋して楽しく勝手に尽くしているうちに相思相愛になり、再度プロポーズしてきた王子様なんて興味なく、子爵領のみんなと幸せになるお話。
完結済みです。
【第二章 あらすじ】
ざまぁされたお馬鹿王子のその後のお話。
ざまぁされ国を追われた王子が、隣国の美しくも『生き急ぐように去っていく美少年の背中を切なく見送りたい』というのが性癖の女王様に、そのジャックナイフのようにとがった所も世間知らずぶりも、愛でたいように愛でられた結果、彼女に相応しい男になりたいと懸命に努力し、その努力が報われたり報われなかったりしながら優しい大人になっていくお話。
*他サイトでは何気に第二章の方が好評でした
第一章・第二章ともに完結しました。
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。
音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。
アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる