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全てを欲しがる愛人が、妻に仕向けた罠

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 その頃、王都の侯爵家の別邸で、愛人エリカが一人で絶叫していた。
「あ~っ悔しいぃ~。あの女、ドレスも宝石も自分の物は全部持って出て行っちゃったじゃない。昨日の晩餐で、邪魔なあの女には消えてもらおうと思ったのに、どうなってるの? 料理長に渡した赤い花の球根は、ちゃんと使わなかったのかしら。キィー、なんなのよ~、あの使えない男!」

 叫んでも、気が済まないエリカ。自分の枕を壁に投げつけては、戻ってきたそれをまた抱えていた。
 そして、枕を抱え込んで、自分の声が屋敷の外に漏れないように、口元に当てていた。

「も~うっ、思い出しても腹立たしい! 何の為にあたしが声をかけてあげたか分かんないでしょう! 1時間以上もただ舐め回してた、あのねちっこい男に、ずっとあたしの可愛い声を聞かせてやってたのに。あの日は、そこまでする気も無かったのに、あまりにしつこくて止めてくれないから仕方なく、あたしからおねだりまでさせて。そのくせ挿れた瞬間に直ぐに中で出して、自分だけ満足した顔しやがって、本当に信じられない! 今、思い出しても腹が立つわ。それなのに、あの女はもう邸に居ないじゃない!」

 首をかしげて、何やら考えているエリカ。

「まぁ、脂ぎったあの男との子どもが出来たとしても、ケビン様に伝えれば侯爵家の跡継ぎだって喜ばれるはずだから、どうでもいっかぁ」
 
 エリカの視線の先には、最近買ったばかりのドレスがあった。
「ここ最近のケビン様って、あたしのことは可愛がってくれているけど、新しいドレスをおねだりをしても、買い渋ってばっかりなんだよねぇー。だから、ケビン様に内緒で新しいドレスと宝石を買っちゃった~。でもぉ~、あれ位の金額なら、こんな大きなお邸に住んでるケビン様なら、ケチる訳ないから大丈夫よね、うふふ、やっぱり可愛いわ、あのドレス。あの女のドレスは、フリルもコサージュも少ない、地味なのが多いのよね。もしかして、安物なのかしら。ふんっ、自分の物を全部持ち去った、がめつい女には、お似合いだわ」

 掛布の上に無造作に置かれた、小さな姿絵を見ている。それには、ケビン・ヘイワードが描かれていた。
「あの女と結婚したばかりの時は、何でも買ってくれたんだけどなぁ~。きっと結婚から1年で、ケビン様はあの女の口車に乗せられ始めたんだ。絶対にそう。何せ、あの女は愛想は無いのに、頭だけは良いみたいだから。ふんっ、でもね、頭が良いのは男に愛されないの」

 勝ち誇ったように、笑っている。
 ひとしきり、アベリアのことを馬鹿にして満足したのか、気がつけば悔しそうな表情に変わっていた。

「それにしてもあの女……いったい、どこでケビン様を誘惑したのかしら? あの綺麗な見た目で、ケビン様の気を惹かないように、化粧担当の従者へ『アベリアさんは、目じりが上がってた方が綺麗に見えるわよ』って言い続けて、ケビン様が嫌いな釣り目に見える様にしていたのに! 何が足りなかったの?」

 自分の頭をぐしゃぐしゃとかき始め、ピタリと止まった。

「も~う、あの女が死んだら、あのドレスも宝石も全部あたしの物だったんだから。あれ、でも……、あの女がこの邸から出て行った。ということは、きっとこの後はケビン様も目を覚まして、また新しいドレスも宝石も買ってくれるはず。あの女は、もう戻って来ないんだから、この豪邸は全部あたしのものなんだ、あははっ」

 何かを吹っ切ったエリカは、枕を投げ捨て、声高々に宣言した。

「あのプライドばかり高い女に直接聞かせてあげたかった。愛されるのは、愛想があって、守りたくなるようなかわいい、あたし! 侯爵家の跡取りは、あたしがちゃんと産んであげるから、あの女は正妻の座にしがみついて、男に相手にされないまま干からびてしまえばいいのよ」


 この直ぐ後に、この部屋へ、料理長が訪ねてくることになる。

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