私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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そんなこと、してませんよね⁉⑧
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レオナールは怒るかしらと思ったが、意外にも、打ち明けることに難色を示さない彼が、素直に答え始めた。
「エメリーは覚えていないだろうけど、昔、この湖でエメリーに助けられたんだ」
「誰が?」
「俺が」
「私なんかが、どうしてレオナールを助けたのかしら?」
「はしゃいでボートから落ちた妹を、俺がボートへ押し上げたところまではよかったんだけど、パニックを起こした妹の足で顔を思い切り蹴られてしまい、意識が飛んだんだ。その俺をエメリーが助けてくれた」
「私が水に飛び込んで?」
「うん。今考えても、令嬢が水に入って泳ぐなんてあり得ないよな」
「小さい頃は毎日、この湖へ兄と遊びに来ていたらしいもの。泳ぎが得意だったんでしょう」
「俺に呼びかける声で目が覚めたら、エメリーの顔が目の前にあって──。空を背景にする姿が天使に見えたんだ。その瞬間、俺には一生この子しかいないなって確信した」
「ふふっ、大袈裟ね。私が助けにいかなくても、誰かが助けてくれたでしょう」
「いや、それはない。一緒にいた従者がカナヅチだったから、エメリーが助けてくれなければ、死んでいたかもしれない。今でも感謝しているんだ。ありがとな」
何よ、嘘ばっかり──。
今まで一度も聞いたことがないわよ。
本当にそう思っていたのなら、どうして言ってくれなかったのしら⁉︎
そう思って、彼の横顔をじっと見つめるけど、妙に演技がうまい。やけに真剣な顔をしているんだもの。
だけど……。
こんなことを言ってくれる恋人が、本当にいたら良かったのにと、胸にちくっと何かが刺さったような気がした。
そんな風に考えていると、彼に振り回され続けているこの状況が、なんだか悔しくなってきた──。
私の心をかき乱さないでよね!
そう思った私は、湖の水面に手を伸ばし、水をすくうと、レオナールにパシャッと水をかけた。
「冷たいっ!」
驚いた彼が叫んだ。
「ふふっ、一生懸命漕いでくれているから、涼しさのお裾分けよ」
表情を失った真面目な顔のレオナールが、しばしの間、硬直する──。
それから、ゆっくりとこちらを見た。
よし! いつもの調子で罵倒してくるはずだと期待したものの、なぜかうまくいかず、くつくつと笑い始めた。
「くくっ。記憶がなくてもエメリーは、やっぱりエメリーのままだな」
「え? 以前もこんなことをしていたのかしら」
「まあな。俺にはいつも自由奔放にやりたい放題にしていたさ。だからかな……。エメリーを見ていると、いつも楽しかった」
「やりたい放題って……」
「いつも俺に遠慮の欠片もない言葉を浴びせていたんだぞ。なんだかいつもの調子が戻ってきたようで嬉しいよ」
笑顔で言った。
彼の言葉を嘘だと思う私は、お願いだから正気に戻ってくれと願い、もう一度水をかけようと、水面に手を伸ばそうとした。
すると、ゆらゆらとボートが大きく動き、その拍子に体のバランスを崩して大きくぐらついた。
あっ! 危ないッ、湖に落ちる!
そう思ったそのときだ──。
彼が私の身体を、いともたやすく片手で抱き寄せたかと思えば、そのまま、ぐいっとレオナールの体に密着させられた。
「こら、こら。楽しいのは分かるがはしゃぎすぎた。今日は風もあるんだ。こんな不安定な場所で急に動いたら危ないだろう」
散々謎な話をぶっ込んでいたレオナールが、至極真面目な正論を言い出した。
さすがに今のは自分が悪い。彼にいたずらしようとして、湖に落ちたのでは、全くもってしゃれにならないもの。
反省する私は、しゅんと小さくなり、素直に大人しくなるしかなかった。
「ごめんなさい。レオナールが押さえてくれて助かったわ。ありがとう」
「謝らなくていいさ。俺の横で楽しんでいるエメリーの顔を見るのは嬉しいからな。前回会った時よりも元気になっているし、湖に来て正解だったのかな」
否定しきれない私は、「そうね」と、答えておいた。
◇◇◇
「エメリーは覚えていないだろうけど、昔、この湖でエメリーに助けられたんだ」
「誰が?」
「俺が」
「私なんかが、どうしてレオナールを助けたのかしら?」
「はしゃいでボートから落ちた妹を、俺がボートへ押し上げたところまではよかったんだけど、パニックを起こした妹の足で顔を思い切り蹴られてしまい、意識が飛んだんだ。その俺をエメリーが助けてくれた」
「私が水に飛び込んで?」
「うん。今考えても、令嬢が水に入って泳ぐなんてあり得ないよな」
「小さい頃は毎日、この湖へ兄と遊びに来ていたらしいもの。泳ぎが得意だったんでしょう」
「俺に呼びかける声で目が覚めたら、エメリーの顔が目の前にあって──。空を背景にする姿が天使に見えたんだ。その瞬間、俺には一生この子しかいないなって確信した」
「ふふっ、大袈裟ね。私が助けにいかなくても、誰かが助けてくれたでしょう」
「いや、それはない。一緒にいた従者がカナヅチだったから、エメリーが助けてくれなければ、死んでいたかもしれない。今でも感謝しているんだ。ありがとな」
何よ、嘘ばっかり──。
今まで一度も聞いたことがないわよ。
本当にそう思っていたのなら、どうして言ってくれなかったのしら⁉︎
そう思って、彼の横顔をじっと見つめるけど、妙に演技がうまい。やけに真剣な顔をしているんだもの。
だけど……。
こんなことを言ってくれる恋人が、本当にいたら良かったのにと、胸にちくっと何かが刺さったような気がした。
そんな風に考えていると、彼に振り回され続けているこの状況が、なんだか悔しくなってきた──。
私の心をかき乱さないでよね!
そう思った私は、湖の水面に手を伸ばし、水をすくうと、レオナールにパシャッと水をかけた。
「冷たいっ!」
驚いた彼が叫んだ。
「ふふっ、一生懸命漕いでくれているから、涼しさのお裾分けよ」
表情を失った真面目な顔のレオナールが、しばしの間、硬直する──。
それから、ゆっくりとこちらを見た。
よし! いつもの調子で罵倒してくるはずだと期待したものの、なぜかうまくいかず、くつくつと笑い始めた。
「くくっ。記憶がなくてもエメリーは、やっぱりエメリーのままだな」
「え? 以前もこんなことをしていたのかしら」
「まあな。俺にはいつも自由奔放にやりたい放題にしていたさ。だからかな……。エメリーを見ていると、いつも楽しかった」
「やりたい放題って……」
「いつも俺に遠慮の欠片もない言葉を浴びせていたんだぞ。なんだかいつもの調子が戻ってきたようで嬉しいよ」
笑顔で言った。
彼の言葉を嘘だと思う私は、お願いだから正気に戻ってくれと願い、もう一度水をかけようと、水面に手を伸ばそうとした。
すると、ゆらゆらとボートが大きく動き、その拍子に体のバランスを崩して大きくぐらついた。
あっ! 危ないッ、湖に落ちる!
そう思ったそのときだ──。
彼が私の身体を、いともたやすく片手で抱き寄せたかと思えば、そのまま、ぐいっとレオナールの体に密着させられた。
「こら、こら。楽しいのは分かるがはしゃぎすぎた。今日は風もあるんだ。こんな不安定な場所で急に動いたら危ないだろう」
散々謎な話をぶっ込んでいたレオナールが、至極真面目な正論を言い出した。
さすがに今のは自分が悪い。彼にいたずらしようとして、湖に落ちたのでは、全くもってしゃれにならないもの。
反省する私は、しゅんと小さくなり、素直に大人しくなるしかなかった。
「ごめんなさい。レオナールが押さえてくれて助かったわ。ありがとう」
「謝らなくていいさ。俺の横で楽しんでいるエメリーの顔を見るのは嬉しいからな。前回会った時よりも元気になっているし、湖に来て正解だったのかな」
否定しきれない私は、「そうね」と、答えておいた。
◇◇◇
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