私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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そんなこと、してませんよね⁉②
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レオナールのワイングラスに私が口をつけることも、「汚い」と言って許してくれなかったのだ。
それなのにどうして私の口についたクッキーを食べて、幸せそうに目を細めているのよ! おかしいだろう。
彼ったら、パーティーの日に披露していた猿芝居が、やたらと板についているし、私の意識がなかった期間に、一体、何があったというのだ⁉
分からない、分からない、分からないわよ、と動揺していれば、レオナールが言った。
「どうしたの? そんなに顔を真っ赤にさせて?」
「いや、だって、今のって……間接キス」
「くくっ、そんなことくらいで照れているの? ふふっ、可愛い」
彼が手の甲を口元に当て、照れ笑いをしているのだ。
彼は本当に照れているのか? それとも楽しんでいるのだろうか? 全く真意を掴めそうにないくらい、穏やかな笑顔を見せてくる。
ちょっとどうしてそんな顔をするのよ、と思う私の頭がオーバーヒートしそうだ。
「私の唇についていたクッキーなのに、そんなことくらいって……」
「俺たちはキスだってしていたんだし、これくらい照れることじゃないんだけど」
……は⁉ またしても謎な発言が飛び出した。
彼は何を寝ぼけたことを言っているのだ?
私たち二人の関係にキスなど存在しない。断じてない!
会えば罵倒してくる彼の口を塞ぎたいと思ったことはあったけど、私の口で塞いだことは決してない!
「冗談ですよね」
「いいや」
「そうですか……。私ってば、そんな大事なことも覚えてなくてごめんなさい」
「ふふっ、それなら、今からしてみる?」
そう言うと、机の上に置く私の手に、彼がそっと手を重ね、熱く見つめてくる。
ええ⁉︎ これはもしや本気か⁉
焦る私が、彼から顔を背ける。
「ちょっと待ってください。レオナールにとっては慣れっこかもしれないけど、私にとっては出会って二日目の男性なので、今はまだ……。もう少しあなたを知ってからでないと、恥ずかしいわ」
「俺としてはいつものことなんだけど……。記憶のないエメリーは、そういう訳にもいかないのかな。もどかしいね」
そんなことを言っているレオナールが、今度は箱からクッキーを摘まみ、「あーん」と音を発しながら私の口元に近づけてくる。
こ、これって彼から食べさせてもらえ、ということなのかしら。
恥ずかしくて口なんて開けられないわよと考え、ぎゅっと口を閉じているのだが、キラキラしい顔の彼は笑顔のまま、そのクッキーを微動だにしない。
「ふふ、エメリーが遠慮するから、俺が食べさせてあげたいんだけど」
「なんだか恥ずかしいですわ」
大人しく従えば、後から私を馬鹿にするのかもしれない。
そう考えてしまうくらい、私たち二人にとっては、あるまじき絵面だ。
「口を開けてくれるまで、ずっとこのままだよ」
「でも……」
「エメリーあ~ん」
甘えた声で彼が言った。
それに耐えられなくなった私が、羞恥心にさえなまれながら、ぷるぷる震えて口を開くと、猫の舌のようなクッキーが、口の中に運ばれてきた。
嬉しそうなレオナールにじっと見つめられながら、もぐもぐと咀嚼するクッキーは、もはや味など感じない。
何かの拷問かしらと思いながら、ゴクリと胃に流し込む。
緊張でパッサパサになった口のせいで、喉が詰まりそうになり、慌ててお茶に手を伸ばす。
少し冷めた紅茶をごくごくと飲んでいると彼が言った。
「照れているエメリーなんて、あまり見ることがなかったけど、誰にも見せたくないくらい可愛いな」
「左様ですか……」
「だから、そんなにかしこまらないでよ。俺とエメリーは心の距離が凄く近かったんだから」
会えば喧嘩の私たちの関係を言っているのよねと、まじまじとレオナールを見つめる。
だが、彼の輝く瞳は曇ることはない。
私の心はむしろ陰る一方である。かつて、彼と心の距離を縮めた記憶がないのだが……。理解できない。
「いつもと雰囲気の違うエメリーを見ていると、俺まで照れてしまうな」
はぁ⁉ 何を言うか!
私は正常運転で過ごしているのに、お宅が異常な言動を繰り返すせいで、頭が混乱させられているだけだろう!
それなのにどうして私の口についたクッキーを食べて、幸せそうに目を細めているのよ! おかしいだろう。
彼ったら、パーティーの日に披露していた猿芝居が、やたらと板についているし、私の意識がなかった期間に、一体、何があったというのだ⁉
分からない、分からない、分からないわよ、と動揺していれば、レオナールが言った。
「どうしたの? そんなに顔を真っ赤にさせて?」
「いや、だって、今のって……間接キス」
「くくっ、そんなことくらいで照れているの? ふふっ、可愛い」
彼が手の甲を口元に当て、照れ笑いをしているのだ。
彼は本当に照れているのか? それとも楽しんでいるのだろうか? 全く真意を掴めそうにないくらい、穏やかな笑顔を見せてくる。
ちょっとどうしてそんな顔をするのよ、と思う私の頭がオーバーヒートしそうだ。
「私の唇についていたクッキーなのに、そんなことくらいって……」
「俺たちはキスだってしていたんだし、これくらい照れることじゃないんだけど」
……は⁉ またしても謎な発言が飛び出した。
彼は何を寝ぼけたことを言っているのだ?
私たち二人の関係にキスなど存在しない。断じてない!
会えば罵倒してくる彼の口を塞ぎたいと思ったことはあったけど、私の口で塞いだことは決してない!
「冗談ですよね」
「いいや」
「そうですか……。私ってば、そんな大事なことも覚えてなくてごめんなさい」
「ふふっ、それなら、今からしてみる?」
そう言うと、机の上に置く私の手に、彼がそっと手を重ね、熱く見つめてくる。
ええ⁉︎ これはもしや本気か⁉
焦る私が、彼から顔を背ける。
「ちょっと待ってください。レオナールにとっては慣れっこかもしれないけど、私にとっては出会って二日目の男性なので、今はまだ……。もう少しあなたを知ってからでないと、恥ずかしいわ」
「俺としてはいつものことなんだけど……。記憶のないエメリーは、そういう訳にもいかないのかな。もどかしいね」
そんなことを言っているレオナールが、今度は箱からクッキーを摘まみ、「あーん」と音を発しながら私の口元に近づけてくる。
こ、これって彼から食べさせてもらえ、ということなのかしら。
恥ずかしくて口なんて開けられないわよと考え、ぎゅっと口を閉じているのだが、キラキラしい顔の彼は笑顔のまま、そのクッキーを微動だにしない。
「ふふ、エメリーが遠慮するから、俺が食べさせてあげたいんだけど」
「なんだか恥ずかしいですわ」
大人しく従えば、後から私を馬鹿にするのかもしれない。
そう考えてしまうくらい、私たち二人にとっては、あるまじき絵面だ。
「口を開けてくれるまで、ずっとこのままだよ」
「でも……」
「エメリーあ~ん」
甘えた声で彼が言った。
それに耐えられなくなった私が、羞恥心にさえなまれながら、ぷるぷる震えて口を開くと、猫の舌のようなクッキーが、口の中に運ばれてきた。
嬉しそうなレオナールにじっと見つめられながら、もぐもぐと咀嚼するクッキーは、もはや味など感じない。
何かの拷問かしらと思いながら、ゴクリと胃に流し込む。
緊張でパッサパサになった口のせいで、喉が詰まりそうになり、慌ててお茶に手を伸ばす。
少し冷めた紅茶をごくごくと飲んでいると彼が言った。
「照れているエメリーなんて、あまり見ることがなかったけど、誰にも見せたくないくらい可愛いな」
「左様ですか……」
「だから、そんなにかしこまらないでよ。俺とエメリーは心の距離が凄く近かったんだから」
会えば喧嘩の私たちの関係を言っているのよねと、まじまじとレオナールを見つめる。
だが、彼の輝く瞳は曇ることはない。
私の心はむしろ陰る一方である。かつて、彼と心の距離を縮めた記憶がないのだが……。理解できない。
「いつもと雰囲気の違うエメリーを見ていると、俺まで照れてしまうな」
はぁ⁉ 何を言うか!
私は正常運転で過ごしているのに、お宅が異常な言動を繰り返すせいで、頭が混乱させられているだけだろう!
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