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第5章 祝福されるふたり

5-8 大波乱の舞踏会⑤

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 会場に流れる曲が終わる共に、2人の優雅なダンスを終える。彼の顔を見て、満足げに笑うルイーズ。
 ルイーズの動きを読んでいたエドワードに支えられ、彼女は、やりきった充足感で満たされている。

「これで、帰っても文句は言われないだろう。じじぃに挨拶をして、さっさと帰るぞ」
「まま待って。どどど、どうしよう。わたし、陛下と挨拶なんて……。そんなの、うまく出来ない」
「じじぃも、父も、俺には何も言ってこないから気にするな。……一番厄介なのは、むしろ……。何かを言いだす前に逃げるぞ」
 真面目な顔で会場を見渡すエドワード。遠くを見やり、少し口角を上げたエドワードは、今がチャンスと動きだす。

 早々に会場を立ち去りたいエドワード。
 焦りの色が見える彼に連れられたルイーズは、陛下へ彼の婚約者だと紹介されている。
 楽観的なルイーズも、この場の空気の重さにおののき、緊張でガチガチだ。

 それに少し離れた所から、こちらをうかがうようにレベッカ王女が2人を見ていた。
 王女から、圧倒される威圧感を向けられるルイーズは、王女の視線に気付かない振りに徹する。

 ルイーズは、これまで全く縁のなかった王族や宰相の視線が自分に集まり、居心地が悪くてしょうがない。
 挨拶なんてしたことないし、と困惑の色が見える。

「陛下、婚約者を連れてきたので、紹介します」
 至って淡々と話す彼は、陛下と握手をするために、右手をすっと前に差し出した。

 陛下は、スペンサー侯爵家の人間として挨拶に来ているエドワードが、手袋をはめていないことに驚き、彼を凝視する。
 そして、一度手を差し出しかけた後にピタりと止まり、もう一度エドワードの顔を見ている。

 陛下は「エドワード様」に向けて、アイコンタクトを送るが、彼は全く表情を変えない。

「......」

 陛下は何かを言いかける。
 だがその言葉は、エドワードの隣にいるルイーズを見て、「ここで言ってはいけない」と、のみ込んでいた。

 エドワードの手を握る陛下。
「まったく、もう……」と言いたげな顔をしたエドワードは、陛下の手を強く握り返す。少ししてから反対の手で2回手の甲に合図を送り、2人の交わした握手はとかれた。

 その様子を、エドワードの父である宰相も目の当たりにし、ひどく驚いた表情をしている。
 
「本当にルイーズ嬢と婚約したのだな」
 ルイーズの方に顔を向けた陛下へ、慌てて淑女の礼をしたルイーズ。
 
「はい。すぐにでも入籍したいところですが、3か月後の結婚式と同時に正式な夫婦になる予定です。面倒なのは嫌いだから、披露パーティーは考えていないので、陛下へ声を掛けることはないでしょう」

「そうか……。そうだエドワード、私の」

「断る。あんたたち2人から、王女と踊れと命じられるのはご免だ。この会場にいる間は、王宮の仕事中だと思って、今、陛下の手に触れたからな。だから、さっきの治療もそういうことだ。もし、レベッカ王女に何か頼まれていたとしても、今日のところは、一切聞き入れるつもりは俺にはない」

「ははっ。気付いていたのか」
「当たり前だ。レベッカ王女が俺たちと話した直後に、じじいのところに向かっているのが見えていたからな。俺はもう帰るから、この後は飲み過ぎるなよ」

 うれしそうにしているエドワードは、これで全ての用事が済んでいた。

 スペンサー侯爵家のエドワードが、婚約者と会場の中央で踊り、舞踏会への参加を会場中に印象付けると同時に、彼の婚約者が誰かを知らせていた。

 そして、国王陛下への正式な挨拶も、今しがた終えた。
 彼の頭の中は既に、ルイーズと2人きりになることでいっぱいだ。

 この会話を、第3者に妨害されるとは、ここにいる者全てが予想していなかった。
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