上 下
63 / 88
第5章 祝福されるふたり

5-3 大好き......

しおりを挟む
 何故か分からないが、ダンスの振りを弟に教える羽目になった。それも相当な期待を向けられているルイーズ。
 自分も分からないのに、出来るわけがない。
 どうすべきかと、ルイーズは頭を抱ている。
 
 そんなとき、「ルイーズ入るぞ」と言って、エドワードが突然部屋に現れた。

 考えるより先、思わぬ味方の登場に、ルイーズはうれしくなり、彼の元に駆け寄っていく。

「会いたかった。でも、急に来てどうしたの?」
「約束のリンゴを持ってきた。アランにもわけてやれよ」
 実は、それを見たときから気になって仕方ないのだ。紙袋から溢れんばかり大好きなリンゴ!
 ルイーズは、目を輝かせエドワードから袋ごと受け取ろうとした。

 けれど、自分を心配そうな顔で見るエドワードから、1個だけ「ほらっ」と受け取る。

 ルイーズには重いだろうと、エドワードはリンゴの袋を自分で机の上に、そっと置き、自分を気づかってくれる。
 そんなエドワードの優しさに、ルイーズは目を細めて笑う。

 毎日一緒にいるのが当たり前、たった2日会わないだけで、寂しかった。
 入れ替わり中、すっかりそれが当然だった2人は、互いに寄り添ってソファーに座る。
 何も言わなくても、エドワードに腕を回され、ルイーズは彼の胸に体を預けている。

「うれしいわっ。リンゴって好きなのよね~」
 それを言う前から、大好きだと、とっくに顔に書いてある。
 手に持っている、真っ赤なリンゴをルイーズは、待ち切れない気持ちで見つめてしまう。

「リンゴくらいでこんなに喜べるなんて、ルイーズって、単純だな」
「おいしいものは何でも、ありがたいじゃない。一緒に食べましょう」
 自分より、エドワードに先に食べてもらおうと、そのリンゴを彼に差し出す。

「あー、俺、リンゴは体に合わないんだ。さっき素手で持っただけで、指先が既にヒリヒリしている。他の回復魔法師ヒーラー2人もそうだから、多分俺の体質と何か関係あるんだろう。自分自身を治療出来ないのに、ほんの少しでも口にすれば、息が吸えなくなるくらいだから、食べられない。でも、ルイーズと入れ替わり中に、初めて食べたリンゴはおいしかったな」
 そう言って、エドワードは、にへへッと笑う。

「大変っ! そうだったの。リンゴを抱えていたけど、苦しくなったりしていない?」
 ルイーズは、自分の体を抱き締めていた、彼の腕を振り払う。
 こうしてはいられないと、慌てて自分が持つリンゴを机に置き、彼の顔を不安そうに覗き込んでいた。 

「それくらい大丈夫だ。なんか、ルイーズらしい反応で安心した。今、当主と話をしてきたから、舞踏会の日は俺が迎えにくる。そのまま俺のところで暮らすぞ」
「そうしたいけど、アランが……」
「明日から、アランの家庭教師が、この屋敷に来るから心配するな」
「本当にっ! うれしいわ。ありがとうエドワード。姉の威厳が保たれない極限だったのよ。あーこれで肩の荷が下りたわ」

 自分の顔を見たときより、相当にうれしそうに歯を見せて笑うルイーズ。彼女を満面の笑みにさせているのがアランの家庭教師の話。
 何だかそれはルイーズらしいと思いつつも、妬けてきたエドワードは、再びルイーズに腕を回しグッと抱き寄せる。
 ……でも少し機嫌が悪い。
「喜ぶところは、そこか? なあ、俺の所に来るのはどうでもいいのかよ!」

 少し考えてみるルイーズ。エドワードが大好き。それを伝えたいのに、どうやってもつたない言葉しか浮かばない。
 自分に向かない、格好をつけるのは諦めることにした。

「ふふっ、もちろん、うれしいに決まっているでしょう。エドワードの部屋は広すぎて独りだと寂しかったけど、今度はエドワードとずっと一緒にいられるし」

「別の部屋を用意していたけど、ルイーズは、俺の部屋で過ごすつもりなのか?」

「えー駄目なの。エドワードと一緒だったら、いつも楽しいし心細くないもの」

 ルイーズの言葉が、胸にジーンッと響いていたエドワードは、ほっこりと温かい気分になっていた。
 回復魔法師ヒーラーの特性を、嫌悪されると気にしていたエドワードにとっては、自分を受け入れてくれるルイーズのような存在が現れるとは、思いもしていなかった。

「ルイーズが良いなら一緒の部屋で構わない。むしろ、ずっと近くにいたい。……何だろうな、一緒にいると癒される。しばらくこのまま……、ルイーズと、こうしていてもいいだろうか」 
(何も考えずに、俺が誰かのそばにいられることなんて、なかったのにな……)

「ふふっ、もちろん。わたしも癒される気がするわ」
「くくっ、それは気のせいではないな。誰かに頬を叩かれたんだろう、指輪で傷ができていた」

 2人はそのまま何も話さず、互いの存在を感じ合っている。
 しばらくしてから、エドワードがおもむろに話し始める。

「そうだ、姉から何か返してもらったか?」
「いいえ、何か貸していたの?」
「まあな。ルイーズが興味のないものを貸したままだな」

 何のことやらルイーズはさっぱり分かっていない顔をする。
 なのに、それ以上エドワードは何も言わず仕舞い。
 エドワードがサラッと話していたため、大したものではないのかと、あまり気にしていなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?

もふっとしたクリームパン
恋愛
ふわっとしたなんちゃって中世っぽい世界観です。*この話に出てくる国名等は適当に雰囲気で付けてます。 『私の名はジオルド。国王の息子ではあるが次男である為、第二王子だ。どんなに努力しても所詮は兄の控えでしかなく、婚約者だって公爵令嬢だからか、可愛げのないことばかり言う。うんざりしていた所に、王立学校で偶然出会った亜麻色の美しい髪を持つ男爵令嬢。彼女の無邪気な笑顔と優しいその心に惹かれてしまうのは至極当然のことだろう。私は彼女と結婚したいと思うようになった。第二王位継承権を持つ王弟の妻となるのだから、妻の後ろ盾など関係ないだろう。…そんな考えがどこかで漏れてしまったのか、どうやら婚約者が彼女を見下し酷い扱いをしているようだ。もう我慢ならない、一刻も早く父上に婚約破棄を申し出ねば…。』(注意、小説の視点は、公爵令嬢です。別の視点の話もあります) *本編8話+オマケ二話と登場人物紹介で完結、小ネタ話を追加しました。*アルファポリス様のみ公開。 *よくある婚約破棄に関する話で、ざまぁが中心です。*随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?

ラキレスト
恋愛
 わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。  旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。  しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。  突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。 「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」  へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか? ※本編は完結済みです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約者にフラれたので、復讐しようと思います

紗夏
恋愛
御園咲良28才 同期の彼氏と結婚まであと3か月―― 幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた 婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに 同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います けれど…復讐ってどうやればいいんだろう

旦那様は転生者!

初瀬 叶
恋愛
「マイラ!お願いだ、俺を助けてくれ!」 いきなり私の部屋に現れた私の夫。フェルナンド・ジョルジュ王太子殿下。 「俺を助けてくれ!でなければ俺は殺される!」 今の今まで放っておいた名ばかりの妻に、今さら何のご用? それに殺されるって何の話? 大嫌いな夫を助ける義理などないのだけれど、話を聞けば驚く事ばかり。 へ?転生者?何それ? で、貴方、本当は誰なの? ※相変わらずのゆるふわ設定です ※中世ヨーロッパ風ではありますが作者の頭の中の異世界のお話となります ※R15は保険です

私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?

光子
恋愛
「お前なんかと結婚したことが俺様の人生の最大の汚点だ!」 ――それはこちらの台詞ですけど? グレゴリー国の第一王子であり、現王太子であるアシュレイ殿下。そんなお方が、私の夫。そして私は彼の妻で王太子妃。 アシュレイ殿下の母君……第一王妃様に頼み込まれ、この男と結婚して丁度一年目の結婚記念日。まさかこんな仕打ちを受けるとは思っていませんでした。 「クイナが俺様の子を妊娠したんだ。しかも、男の子だ!グレゴリー王家の跡継ぎを宿したんだ!これでお前は用なしだ!さっさとこの王城から出て行け!」 夫の隣には、見知らぬ若い女の姿。 舐めてんの?誰のおかげで王太子になれたか分かっていないのね。 追い出せるものなら追い出してみれば? 国の頭脳、国を支えている支柱である私を追い出せるものなら――どうぞお好きになさって下さい。 どんな手を使っても……貴方なんかを王太子のままにはいさせませんよ。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

処理中です...