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第4章 離れたふたり
4-15 隠しているエドワードの素性
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2人が見つめ合っている、そのときだった。
エドワードの部屋に、入室を知らせる音が響く。
ルイーズは自分の気持ちをエドワードに言おうとしていたが、その音を聞き諦めた。
入室を許可したエドワード。入ってきた人物へ、来るのが分かっていたという顔で、至って冷静に招き入れる。
だが、入ってきた宰相は、ルイーズの姿を見るなり血相を変え、駆け寄ってきた。
「どうやって入ってきたっ! エドワード様、申し訳ありません。すぐに侵入者を警備へ突き出しますので」
「やめろ、ルイーズは俺がここへ連れてきた。彼女に1度振られたのを口説き落としたばかりなんだ。そういうわけだから、俺、ルイーズと結婚するから」
呆然としている宰相は、返す言葉がなかった。けれど、父親としてどうしても言いたかった。
「いや、だが、どうして。他にもっと……」
それ以上言うなよと、エドワードは宰相をぎろっとにらむ。
あっ、まずいと思った宰相は、それ以上話を続けることはない。
「俺にとってはルイーズが特別で、彼女しか受け入れられないからだ。宰相は今、何か余計なことを言いかけてなかったか?」
「気のせいです……」
「スペンサー侯爵家の当主がルイーズを気に入らないと言うなら、俺はあの家を出て、好きに暮らすから、適任の後継者を探しておいた方がいいぞ。あ、それとルイーズと2人で食事にする。ビリング侯爵にそう伝えてくれ」
その親子の会話を、目を白黒させながら見ていたルイーズは、何が何だか分かっていない。
入れ替わりから戻った日の朝。
訓練に向かう直前に、エドワードの父から向けられた視線。それは、何か文句を言いた気な顔だった。
それなのに今は、当主に向かって啖呵を切っているエドワードの姿。
なのに何故か、それを言い返すことのない宰相の様子に、ルイーズは呆気に取られている。
放心状態のルイーズの動揺は置き去りにして、宰相は、ぺこぺことルイーズに礼をしながら立ち去っていた。
「何がどうなっているの……」
「最近俺が仕事をしていなかったから、いちいち確認に来ているだけだ」
「いやいや、違うわよ。お父様にあんな偉そうに話をするなんて、あり得ないでしょう」
「この部屋にいるときは、俺はこの国の回復魔法師だからな。いつものことだ。当主として俺に何か言いたいことがあれば、屋敷に帰ってから言ってくるだろうさ」
それから少しして、パトリシアの父であるビリング侯爵が、2人の食事を運んできた。
この救護室を管理しているビリング侯爵は、毎日エドワードと対面している。けれど、パトリシアに関する頼みごとを彼に直接言ってくることはない。
はっとするエドワードは、思い出したようにビリング侯爵へ伝えた。
「そうだっ。娘のことを俺の父に頼むなよ。俺にはルイーズがいるから話にならないからなっ!」
それを聞き、ビリング侯爵はゴクリと唾を飲み込む。
「ははっ、そのようですね。スペンサー侯爵夫人でさえエドワード様のことを知らないのに、まさか、ここに女性を連れてくるとは、全くの予想外でした。そのように言われなくても意味は理解しております」
エドワードに深々と礼をして部屋を後にして行ったビリング侯爵。
硬直していたルイーズは、王宮の料理を見た途端、飛び跳ねて喜んでいる。
まさか、誕生日の祝い膳が、誕生日でないのに食べられるのだから。
その姿を見て、内心くすくすと笑っているエドワード。
「俺はこの後に仕事があるが、終わったらルイーズを伯爵家まで送る。1人で帰すわけにはいかないから、勝手にいなくなるなよ」
はむはむと食事に夢中のルイーズは、うなずいて返事をしていた。
が、それを飲み込んだ彼女は、部屋に掛けてある外套に目が留まり、気になって問い掛けてみた。
「どうして回復魔法師様様って、素性を隠しているの?」
「そんなのがバレたら、まともに暮らせなくなるからだ。高額な治療費を理由に門前払いをしているこの王宮でさえ、毎日、大勢の一般人が情を訴えて治療を求めてくるからな。ヒーラーの素性が分かれば、屋敷まで来るのが現れるだろう。まあ俺の場合は、侯爵家の肩書もあるから、庶民は押し寄せないだろうし、父を脅して俺を従わせるやつはいないだろうけど」
「そっかぁ~。エドワードも色々大変なのね」
軽くウンウンとうなずいて、あっけらかんと話すルイーズ。
その姿を見たエドワードは、まずい、何も分かっていないと焦りを募らす。
「……他人事のように言っているが、俺と一緒になればルイーズも巻き込まれる話だからな。いいか、あの扉からは絶対に入ってくるなよ」
入ってきた扉と反対側にある扉を指さして話すエドワード。
実際は扉を開けても、さらにもう1部屋、繋ぎの空間がある。
……けれど、先日その場所にモーガンが入り込んでいたのだ。
「大丈夫、わたし部屋にこもるのは得意だから大人しくしているわね」
「くくっ、そこ、自慢するところか? まあ、いいや」
そう言ってフードを被ったエドワード。行ってくるからと、ルイーズの額に軽いキスを落とす。
ほんわかと幸せな気持ちのルイーズは、ひとり残された、豪華過ぎるその部屋を見回す。
もしかして、自分は相当な場違いにいるのではないか……と、もやもやした感情がわいてくる。
エドワードの部屋に、入室を知らせる音が響く。
ルイーズは自分の気持ちをエドワードに言おうとしていたが、その音を聞き諦めた。
入室を許可したエドワード。入ってきた人物へ、来るのが分かっていたという顔で、至って冷静に招き入れる。
だが、入ってきた宰相は、ルイーズの姿を見るなり血相を変え、駆け寄ってきた。
「どうやって入ってきたっ! エドワード様、申し訳ありません。すぐに侵入者を警備へ突き出しますので」
「やめろ、ルイーズは俺がここへ連れてきた。彼女に1度振られたのを口説き落としたばかりなんだ。そういうわけだから、俺、ルイーズと結婚するから」
呆然としている宰相は、返す言葉がなかった。けれど、父親としてどうしても言いたかった。
「いや、だが、どうして。他にもっと……」
それ以上言うなよと、エドワードは宰相をぎろっとにらむ。
あっ、まずいと思った宰相は、それ以上話を続けることはない。
「俺にとってはルイーズが特別で、彼女しか受け入れられないからだ。宰相は今、何か余計なことを言いかけてなかったか?」
「気のせいです……」
「スペンサー侯爵家の当主がルイーズを気に入らないと言うなら、俺はあの家を出て、好きに暮らすから、適任の後継者を探しておいた方がいいぞ。あ、それとルイーズと2人で食事にする。ビリング侯爵にそう伝えてくれ」
その親子の会話を、目を白黒させながら見ていたルイーズは、何が何だか分かっていない。
入れ替わりから戻った日の朝。
訓練に向かう直前に、エドワードの父から向けられた視線。それは、何か文句を言いた気な顔だった。
それなのに今は、当主に向かって啖呵を切っているエドワードの姿。
なのに何故か、それを言い返すことのない宰相の様子に、ルイーズは呆気に取られている。
放心状態のルイーズの動揺は置き去りにして、宰相は、ぺこぺことルイーズに礼をしながら立ち去っていた。
「何がどうなっているの……」
「最近俺が仕事をしていなかったから、いちいち確認に来ているだけだ」
「いやいや、違うわよ。お父様にあんな偉そうに話をするなんて、あり得ないでしょう」
「この部屋にいるときは、俺はこの国の回復魔法師だからな。いつものことだ。当主として俺に何か言いたいことがあれば、屋敷に帰ってから言ってくるだろうさ」
それから少しして、パトリシアの父であるビリング侯爵が、2人の食事を運んできた。
この救護室を管理しているビリング侯爵は、毎日エドワードと対面している。けれど、パトリシアに関する頼みごとを彼に直接言ってくることはない。
はっとするエドワードは、思い出したようにビリング侯爵へ伝えた。
「そうだっ。娘のことを俺の父に頼むなよ。俺にはルイーズがいるから話にならないからなっ!」
それを聞き、ビリング侯爵はゴクリと唾を飲み込む。
「ははっ、そのようですね。スペンサー侯爵夫人でさえエドワード様のことを知らないのに、まさか、ここに女性を連れてくるとは、全くの予想外でした。そのように言われなくても意味は理解しております」
エドワードに深々と礼をして部屋を後にして行ったビリング侯爵。
硬直していたルイーズは、王宮の料理を見た途端、飛び跳ねて喜んでいる。
まさか、誕生日の祝い膳が、誕生日でないのに食べられるのだから。
その姿を見て、内心くすくすと笑っているエドワード。
「俺はこの後に仕事があるが、終わったらルイーズを伯爵家まで送る。1人で帰すわけにはいかないから、勝手にいなくなるなよ」
はむはむと食事に夢中のルイーズは、うなずいて返事をしていた。
が、それを飲み込んだ彼女は、部屋に掛けてある外套に目が留まり、気になって問い掛けてみた。
「どうして回復魔法師様様って、素性を隠しているの?」
「そんなのがバレたら、まともに暮らせなくなるからだ。高額な治療費を理由に門前払いをしているこの王宮でさえ、毎日、大勢の一般人が情を訴えて治療を求めてくるからな。ヒーラーの素性が分かれば、屋敷まで来るのが現れるだろう。まあ俺の場合は、侯爵家の肩書もあるから、庶民は押し寄せないだろうし、父を脅して俺を従わせるやつはいないだろうけど」
「そっかぁ~。エドワードも色々大変なのね」
軽くウンウンとうなずいて、あっけらかんと話すルイーズ。
その姿を見たエドワードは、まずい、何も分かっていないと焦りを募らす。
「……他人事のように言っているが、俺と一緒になればルイーズも巻き込まれる話だからな。いいか、あの扉からは絶対に入ってくるなよ」
入ってきた扉と反対側にある扉を指さして話すエドワード。
実際は扉を開けても、さらにもう1部屋、繋ぎの空間がある。
……けれど、先日その場所にモーガンが入り込んでいたのだ。
「大丈夫、わたし部屋にこもるのは得意だから大人しくしているわね」
「くくっ、そこ、自慢するところか? まあ、いいや」
そう言ってフードを被ったエドワード。行ってくるからと、ルイーズの額に軽いキスを落とす。
ほんわかと幸せな気持ちのルイーズは、ひとり残された、豪華過ぎるその部屋を見回す。
もしかして、自分は相当な場違いにいるのではないか……と、もやもやした感情がわいてくる。
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