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第4章 離れたふたり
4-6 エドワードとルイーズの元婚約者①
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救護室に直結している空間に、侵入者がいた。
救護室とヒーラーの個室の間には、その2つの部屋を繋ぐための空間がある。
いわゆる、居室と浴室の間にある、脱衣所。そういった部屋。
その繋ぎの間に、何としても治療して欲しい人物が、入り口とは違う扉を見つけて入ってきたのだ。
その人物を追い払おうと、救護室を管理しているパトリシアの父であるビリング侯爵が応対している。
興奮している侵入者は、ビリング侯爵に面識はない。
まさか、侯爵位の高位貴族が騒ぎを聞きつけ、自分を制止しているとは思ってもいない。
「治療して欲しければ、決められた報酬を払え、でなければ話にならない」
冷静にビリング侯爵は話しているが、内心気が気ではない。彼の額に汗が光っている。
ビリング侯爵の後ろには、騒ぎに気付いた回復魔法師2人はいる。しかし、エドワードはこの場にいないのだ。
よりによってエドワード。貴族だと名乗るモーガンは、エドワードの顔を知っているだろう。
そろそろ彼が仕事を始める時間。エドワードがひょっこり、ここに入ってくるのを気にしている。
「金なんてあるか! 無料で治せって言っているだろう! 俺は貴族だっ! 正体の分からないやつより、俺の方が偉いに決まっているだろう」
回復魔法師2人は、目深にかぶったフードで見えていない顔を見合わせてから、暴言を喚き散らすモーガンのことを、困り果てて見ていた。
……それに。の国で3人しか存在しない回復魔法師は、国王に並ぶ職位として認められており、回復魔法師として名乗っているときには、命令できる者はいない。
これは、この国の常識で、もちろんモーガンも承知の事実。けれど、窮地に陥った彼は、脅して従わせようとしていた。
エドワードの父でさえ、回復魔法師のエドワードに頼みごとをしたいときは、エドワードに「様」を付け、使い分けるほど。
それほどに尊ばれている存在がヒーラーであり、国民はヒーラー様と呼んで敬っているのだから。
治療希望者の中には、勘違いする者は多い。
だが、それは当主であったり、上位貴族だったり、それなりの身分の高い人間がほとんど。
そのため、ビリング侯爵がその場に顔を出せば大半が引いていくのだ。
救護室の取次係が貴族の対応で困れば、救護室の管理責任者のビリング侯爵を呼ぶことで、常に丸く収まっていた。
何度も頼みに来る金のない平民。思わず同情してしまう治療希望者は、「午後に来い」と伝え追い返す。
……すると、午後にいる回復魔法師は、何の文句も言わず、治療してくれる。救護室の取次係は、これまで1度だって言い掛かりを付けられたことはない。
薄々何か気付いているエドワードも、陛下に当たり散らす程度で、深く気にしていないようだ。
希少なヒーラーの存在価値を守るために、あえて高く定められた治療費。
そして、王族と並ぶ給金が3人には支給されている。場合によっては、それ以上だ。
エドワードが、時間外だと陛下に文句を言っているときには、陛下のポケットマネーから報酬が払われているのだから。
エドワードは、友人や知人、そういった伝手で治療を個人的に希望され、次第に際限がなくなるのを危惧し、安易に職位を周囲に話していない。
他のヒーラー2人も同様だし、元々貴族ではない2人はことさらだ。迂闊に知られれば、親兄弟に危険がおよぶと考えて、その身を明かしていない。
そんなこととは知らず、自分と王女の結婚話をどうすべきか思い悩むエドワードが、外套を羽織っただけの姿で入ってきた。
ビリング侯爵の応戦もむなしく、ぼんやりとしている彼は、その直前まで他のヒーラー2人の背中しか見えていなかったのだ。
「何かあったのか? ん? お前、見たことがあるな……」
冷静ではない彼は、思ったままのことを口に出してから、しまったと言わんばかりに青ざめている。
「エドワード様! エドワード様が回復魔法師様とは知りませんでした」
よりによって、他の回復魔法師と同じ外套を羽織っているエドワードは、はっきりと、それを証明していた。
(ちっ、こんな所に治療希望者がいるとは思わず油断した。俺の部屋で顔を隠してからここに入るべきだったな。
こいつ、やっぱり俺のことを知っているのか……。顔は、はっきり分からないが、大した面識もないよな、面倒だな。
どこかで会ったやつだったか……)
救護室とヒーラーの個室の間には、その2つの部屋を繋ぐための空間がある。
いわゆる、居室と浴室の間にある、脱衣所。そういった部屋。
その繋ぎの間に、何としても治療して欲しい人物が、入り口とは違う扉を見つけて入ってきたのだ。
その人物を追い払おうと、救護室を管理しているパトリシアの父であるビリング侯爵が応対している。
興奮している侵入者は、ビリング侯爵に面識はない。
まさか、侯爵位の高位貴族が騒ぎを聞きつけ、自分を制止しているとは思ってもいない。
「治療して欲しければ、決められた報酬を払え、でなければ話にならない」
冷静にビリング侯爵は話しているが、内心気が気ではない。彼の額に汗が光っている。
ビリング侯爵の後ろには、騒ぎに気付いた回復魔法師2人はいる。しかし、エドワードはこの場にいないのだ。
よりによってエドワード。貴族だと名乗るモーガンは、エドワードの顔を知っているだろう。
そろそろ彼が仕事を始める時間。エドワードがひょっこり、ここに入ってくるのを気にしている。
「金なんてあるか! 無料で治せって言っているだろう! 俺は貴族だっ! 正体の分からないやつより、俺の方が偉いに決まっているだろう」
回復魔法師2人は、目深にかぶったフードで見えていない顔を見合わせてから、暴言を喚き散らすモーガンのことを、困り果てて見ていた。
……それに。の国で3人しか存在しない回復魔法師は、国王に並ぶ職位として認められており、回復魔法師として名乗っているときには、命令できる者はいない。
これは、この国の常識で、もちろんモーガンも承知の事実。けれど、窮地に陥った彼は、脅して従わせようとしていた。
エドワードの父でさえ、回復魔法師のエドワードに頼みごとをしたいときは、エドワードに「様」を付け、使い分けるほど。
それほどに尊ばれている存在がヒーラーであり、国民はヒーラー様と呼んで敬っているのだから。
治療希望者の中には、勘違いする者は多い。
だが、それは当主であったり、上位貴族だったり、それなりの身分の高い人間がほとんど。
そのため、ビリング侯爵がその場に顔を出せば大半が引いていくのだ。
救護室の取次係が貴族の対応で困れば、救護室の管理責任者のビリング侯爵を呼ぶことで、常に丸く収まっていた。
何度も頼みに来る金のない平民。思わず同情してしまう治療希望者は、「午後に来い」と伝え追い返す。
……すると、午後にいる回復魔法師は、何の文句も言わず、治療してくれる。救護室の取次係は、これまで1度だって言い掛かりを付けられたことはない。
薄々何か気付いているエドワードも、陛下に当たり散らす程度で、深く気にしていないようだ。
希少なヒーラーの存在価値を守るために、あえて高く定められた治療費。
そして、王族と並ぶ給金が3人には支給されている。場合によっては、それ以上だ。
エドワードが、時間外だと陛下に文句を言っているときには、陛下のポケットマネーから報酬が払われているのだから。
エドワードは、友人や知人、そういった伝手で治療を個人的に希望され、次第に際限がなくなるのを危惧し、安易に職位を周囲に話していない。
他のヒーラー2人も同様だし、元々貴族ではない2人はことさらだ。迂闊に知られれば、親兄弟に危険がおよぶと考えて、その身を明かしていない。
そんなこととは知らず、自分と王女の結婚話をどうすべきか思い悩むエドワードが、外套を羽織っただけの姿で入ってきた。
ビリング侯爵の応戦もむなしく、ぼんやりとしている彼は、その直前まで他のヒーラー2人の背中しか見えていなかったのだ。
「何かあったのか? ん? お前、見たことがあるな……」
冷静ではない彼は、思ったままのことを口に出してから、しまったと言わんばかりに青ざめている。
「エドワード様! エドワード様が回復魔法師様とは知りませんでした」
よりによって、他の回復魔法師と同じ外套を羽織っているエドワードは、はっきりと、それを証明していた。
(ちっ、こんな所に治療希望者がいるとは思わず油断した。俺の部屋で顔を隠してからここに入るべきだったな。
こいつ、やっぱり俺のことを知っているのか……。顔は、はっきり分からないが、大した面識もないよな、面倒だな。
どこかで会ったやつだったか……)
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