上 下
36 / 88
第3章 入れ替わりのふたり

3-10 予期せぬライバルの登場

しおりを挟む
 訓練の終了を知らせる笛の音が響いた。それを聞きエドワードとルイーズは、顔を見合わせうなずくと、すぐさま控室へ戻っていった。

 ルイーズのロッカーから荷物を持ったエドワードルイーズの体は、ルイーズエドワードの体の元へ向かおうとした。
 だが、エドワードルイーズの体は、突然目の前に立つカーティスに道を塞がれてしまう。危なくぶつかるところだ。何事だと、エドワードはカーティス公爵家3男に嫌な顔を向けそうになるが、グッとこらえた。

「ルイーズ嬢、訓練中ずっとエドワードと何を話していたの? エドワードが随分とルイーズ嬢のことをにらんでいたし、押さえつけているようだったけど、何か脅されているの?」
「えっ。お、エドワードが脅すって。それはない」
 またしても、エドワードの名前が出てきて、うろたえるエドワードルイーズの体。それも、自分が令嬢を脅しているとは、全く持って聞き捨てならない。思わぬ誤解に激しく動揺し、あたふたする。 

「さっきは舞踏会のパートナーに誘うだけで話を終えたけど、僕はルイーズ嬢と婚約を考えている。正式にブラウン公爵家から、フォスター伯爵家に申し込もうと思う」

 少し前まで戸惑っていたエドワードルイーズの体は、その言葉を聞いて、ふぅ~っと、息を整える。そして、数拍置いてから冷静に話し出す。

「いや。エドワードから申し込みを受けたので断る」
「朝までは、エドワードのことを否定していたのに、どうして急に……」
「さっきの訓練中に、そうなった。申し訳ない、急いでいるから」
 そう言って、カーティスの横をすり抜け、急いでルイーズエドワードの体の元へ向かう。
 ルイーズエドワードの体の横に並ぶと同時に、ルイーズへ頼み事をする。その声は冷静だが、作り笑いを浮かべている。

「後ろにいるカーティスを見てから、すぐに前を向け。絶対に笑うなよ」
 思わず聞き返そうとしたルイーズは、意味が分からなかった。
 ……けれど、エドワードの張り詰めた声に何かある、と、何も言わず大人しく従った。

 ルイーズエドワードの体が振り返れば、ルイーズ中はエドワードの姿を目で追っていた、カーティスと自然に目が合う。振り向いたところで、やはり何のことやら分からず頭の中に疑問符が浮かぶだけ。

 だが、エドワードの狙いは達成だ。視線に気付いたエドワードが、自分を牽制けんせいした。そう捉えたカーティス。

 訳の分からないルイーズは、前を向いてから、エドワードに問いかける。

「どっ、どういうこと?」
「後で説明する。いいから俺の屋敷へ急いで帰るぞ」
 そう言って、エドワードルイーズの体は、ルイーズエドワードの体の腕を組んだ。

 訓練場から2人で寄り添って出てきた2人。まるで恋人同士にしか見えない。女豹めひょうの群れから悲鳴が上がっていた。

 その2人の関係を、気にもせず声を掛けてきたのはパトリシア侯爵令嬢だった。

「やっぱり2人は仲良しなのね。良かったらこのまま3人で出掛けませんか?」
 エドワードの姿を見ながら、話し掛けるパトリシア。

 ルイーズエドワードは、自分より爵位が上の人間に言われて、断れる気がしない。どうすべきかと固まる。
 それに気付いた、エドワードルイーズの体に肘で小突かれ、慌てて口を開く。

「あっ、今日は2人で出掛ける予定なので申し訳ありません、それでは」
「そうなのですね……。では、舞踏会でお願いします」


 満足そうな顔をしているルイーズは、危機を脱したと安心している。
 そして今。エドワードと2人きりのスペンサー侯爵家の馬車に乗り込んだ。彼と2人なら何の気兼ねも要らないと、完全に気を抜いていた。

 馬車の中で、何かに落ちていないエドワードルイーズの顔は、難しい顔をしている。

「なあ、さっきパトリシア嬢が言っていた、舞踏会って、次の王家主催の舞踏会だよな。俺、何を頼まれていたか全く思い出せないが、お前が何か言ったのか?」
「そうよ、『一緒に踊って』だって。だから、その当日に声を掛けてと伝えたわ」
「はぁぁーっ。お前っ、断れよ!」
「そのときまでに自分の体に戻っていなかったら、男性パートなんて踊れないから、欠席するわよ」
 額に手をやるエドワードルイーズの体は、心底あきれている。

「……馬鹿だな、その舞踏会は休めない。考えたら分からんか? 王家主催の舞踏会や夜会は貴族籍の人間は全員参加、それくらい常識だ。だからお前も参加する予定なんだろう」
 ひゅっと息を吸うルイーズエドワード。正直なところ、自分は父の命令に従っているだけで、そんな事情は知らなかったのだ。

「えー、どうしよう。わたし……、もしかして自分で自分の首を絞めているの?」
 泣きそうな顔で、エドワードにすがりつくルイーズ。実際に、ギュウギュウつかんでいる腕は、ルイーズ自身の体だが。

「やっと気付いたか。俺の体で適当なことを言うな。ほら屋敷に着いたから降りろ!」


 ルイーズにエスコートされて、馬車から降りてくるエドワード。
 ……それを間近で侯爵家の御者は見ていた。
 この家のお坊ちゃんが、令嬢にエスコートされている……。

 不思議な2人が、スペンサー侯爵家の屋敷へ帰ってきていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は転生者!

初瀬 叶
恋愛
「マイラ!お願いだ、俺を助けてくれ!」 いきなり私の部屋に現れた私の夫。フェルナンド・ジョルジュ王太子殿下。 「俺を助けてくれ!でなければ俺は殺される!」 今の今まで放っておいた名ばかりの妻に、今さら何のご用? それに殺されるって何の話? 大嫌いな夫を助ける義理などないのだけれど、話を聞けば驚く事ばかり。 へ?転生者?何それ? で、貴方、本当は誰なの? ※相変わらずのゆるふわ設定です ※中世ヨーロッパ風ではありますが作者の頭の中の異世界のお話となります ※R15は保険です

王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?

もふっとしたクリームパン
恋愛
ふわっとしたなんちゃって中世っぽい世界観です。*この話に出てくる国名等は適当に雰囲気で付けてます。 『私の名はジオルド。国王の息子ではあるが次男である為、第二王子だ。どんなに努力しても所詮は兄の控えでしかなく、婚約者だって公爵令嬢だからか、可愛げのないことばかり言う。うんざりしていた所に、王立学校で偶然出会った亜麻色の美しい髪を持つ男爵令嬢。彼女の無邪気な笑顔と優しいその心に惹かれてしまうのは至極当然のことだろう。私は彼女と結婚したいと思うようになった。第二王位継承権を持つ王弟の妻となるのだから、妻の後ろ盾など関係ないだろう。…そんな考えがどこかで漏れてしまったのか、どうやら婚約者が彼女を見下し酷い扱いをしているようだ。もう我慢ならない、一刻も早く父上に婚約破棄を申し出ねば…。』(注意、小説の視点は、公爵令嬢です。別の視点の話もあります) *本編8話+オマケ二話と登場人物紹介で完結、小ネタ話を追加しました。*アルファポリス様のみ公開。 *よくある婚約破棄に関する話で、ざまぁが中心です。*随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

【完結】ベニアミーナ・チェーヴァの悲劇

恋愛
チェーヴァ家の当主であるフィデンツィオ・チェーヴァは暴君だった。 家族や使用人に、罵声を浴びせ暴力を振るう日々…… チェーヴァ家のベニアミーナは、実母エルミーニアが亡くなってからしばらく、僧院に預けられていたが、数年が経った時にフィデンツィオに連れ戻される。 そして地獄の日々がはじまるのだった。 ※復讐物語 ※ハッピーエンドではありません。 ※ベアトリーチェ・チェンチの、チェンチ家の悲劇を元に物語を書いています。 ※史実と異なるところもありますので、完全な歴史小説ではありません。 ※ハッピーなことはありません。 ※残虐、近親での行為表現もあります。 コメントをいただけるのは嬉しいですが、コメントを読む人のことをよく考えてからご記入いただきますようお願いします。 この一文をご理解いただけない方のコメントは削除させていただきます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです

忘れられない恋になる。

豆狸
恋愛
黄金の髪に黄金の瞳の王子様は嘘つきだったのです。

処理中です...