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第2章 いがみ合うふたり

2-11 エドワードの縁談

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 エドワードは、王宮の奥にある部屋を目指して歩いていた。
 慣れた様子で、国王陛下の私室に訪問を知らせる合図をし、応答がないにもかかわらず、ためらうことなく部屋の一番奥まで向かっている。

「呼び出して悪いな」
 そう言ったのは、豪華な寝台で、うつぶせで横になる陛下だった。

「悪いと思うなら、違う人間に頼めばいいのに」
「まあ、そう釣れないことを言うな」
 幼い頃のエドワードに窮地を救われた国王陛下は、回復魔法師ヒーラーのエドワードには頭が上がらないでいる。
 だが、それ以上に彼のことをいたく気に入っていた。

「どうせまた、ぎっくり腰だろう」

 陛下に対して、ぶっきら棒に言うエドワードは冷めた目で陛下を見下ろして手袋を脱いでいた。
 そして、陛下の肌にしばらく手を当てる。
 特に、光が発するわけでも、呪文を唱えるわけではない。ある程度のところで手を離し、そこを2回軽くたたいて終わりを告げていた。

「終わりましたよ」
「おおっ、相変わらずエドワードのヒールが一番効くな。体中のコリまで取れた」
「そうなんですかね。自分で体験したことはないから分からないけど、他の2人も同じだと思うが」
「いや違う。全然違う」
 そう言って、おもむろに起き上がり居室へ歩きだした陛下は、ソファーに腰掛けた。
 その陛下に、対面するようにエドワードは立っている。
 陛下が口を開きかけた瞬間。

「お断りします」
 力強い口調で、そう言ったのはエドワード。

「おい、まだ何も言っていないだろう」
「どうせ、また王女殿下と結婚しろって話でしょう。もれなく陛下のめんどうまで付いてくる縁談、やっていられない」
 至って真面目な顔でエドワードが言い切ると、陛下は肩を落としていた。 
 はっきりと顔色を変えた陛下だが、王女の縁談をまだ諦めてはいないのは、エドワードの目にも明らかだ。
 エドワードは、自分が結婚すると決めるまで、陛下は言い続けるだろうと見込んでいる。

 相手が第1王女か、いつまでも踏ん切りが付かず第3王女になるかの違い。

「いや、娘は3人いるんだぞ。今なら選べる」
「ものじゃないんだ。王女殿下たちに失礼な言い方をしないでください。俺は誰かと結婚する気はないんで、そういう理由です。気が変わったら、そのときは、お願いするかもしれません」

 目を輝かせて頼むのは陛下だった。
「吉報を待っているぞ」
「あまり期待しないでください。そーだ、あの舞踏会のリンゴの酒を振る舞うのは、やめてくれって毎年お願いしていたはずですけど。令嬢たちがすごい形相で持ってくるから、断る方も命がけなんだ。面倒だから次は廃止にしてくれよな」
「それは無理だ。あの舞踏会はそもそも、リンゴの収穫祭が起源だからな」

「うぁっ、信じられないな。次は欠席するか……」
「エドワード様なら欠席しても誰も文句は言えないだろうが、エドワードが貴族の義務の舞踏会に来なければ、私が直接、エドワードへ警告の書面を送る必要があるだろう」
「はぁぁーっ、じじいが飲み過ぎるから俺に会場にいて欲しいだけだろう! ったく。次は、他の回復魔法師ヒーラーに頼んでくださいよ。こんなぎっくり腰くらいで、いちいち呼び出されたら、たまったもんじゃない」

 そう言って、部屋を後にしたエドワードは、今頃婚約者と仲良くイチャイチャしているルイーズを想像していた。
 エドワードは、一向に騎士試験を辞退しないルイーズの世話をさせられている。
 だが、当人はエドワードの気も知らずに、朝から楽しそうにしており、いら立っていた。
 それなのに、さらに陛下から執拗しつように王女との結婚を迫られ不愉快極まりない。

 この状況に、ふに落ちないまま救護室へ向かっていた。
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