記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第2章 あなたは暗殺者⁉
連れ戻す(フィリベール)
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◇◇◇SIDEフィリベール
「リナは何故、王宮へ来ないんだ!」
目の前の聖なる泉へ絶叫したが、独りきりのこの場では、誰からも返答はない。
この泉へ来る途中、王宮の門番へ「リナが来たら、聖なる泉へ真っ直ぐに来るように」と言伝を命じた。
結界に祈りを捧げると言っても、一時間。
中央教会から馬車で来るとはいえ、十時には着くはずだろう。
もうすぐ太陽は頭の真上に差し掛かるが、リナは王宮へ姿を見せない。
到着次第、泉の瘴気を浄化してもらおうと思っていたのに、この場から動くこともできない。
先日まで、美しい水が湧いていた泉。
それが今では、真っ黒などろどろの液体が、ぐつぐつと煮えたぎるお湯のように、気泡が浮きあがっている。
この場に長く居れば、瘴気に当てられそうだ。気が滅入る。
筆頭聖女である母上の光魔法が枯れているというのは、痛手だった。
今動ける聖女は、リナしかいないのだから。
そのリナも、結界を張るのに手一杯となれば、この瘴気だまりを浄化する事もままならない。
「ああぁ──もう! この国には動ける聖女がいないのか! くそぅっ」
地面に大の字で転がった次の瞬間、思い出した。
「あ……。もう一人……いるな」
私は間違っていなかった。
あの女を追い出す時。殺さない判断をしたのは大正解だった。
ドゥメリー公爵がどこに捨て置いたか知らないが、まだ生きているだろう。
あの女を探し出し、瘴気を払うなり、結界を張るなり、務めを果たしてもらうか。
ジュディットの見ている景色が分かれば場所も特定できるだろう。
ならばと、自分と結んだジュディットの魔法契約の痕跡を追ってみるため、自身の魔力へ意識を集中する。
「よし! 契約自体は残っているから、あの女が生きていることは間違いない」
あの女。何かを感じ抵抗しているのか……。原因は分からないが、何かに妨害される。
奇妙だな。私の魔法契約のある先を探せば見つかるはずなのに、居場所を特定できない。
魔力もないくせに、こんな芸当ができるのか? いや、気のせいだろう。
おそらく、私自身の感情が乱れているせいだなと、一旦、冷静になる。
時間を空けて、後でもう一度試してみるか。
◇◇◇SIDEフィリベール
「ああああ~! 酷い。きりがない!」
瘴気だまりと初めて直面したが、根気勝負は、いよいよ限界だ。
濁った泉から、次から次へと魔物が生まれてくる。とはいえ雑魚魔物だ。
「私が見張る必要などない!」
出現する魔物の大半が湖から這い出る魔虫であり、たまに出てくる大きなものでも魔犬止まり。
この場に政務を運んできた事務官に押し付けようとしたが、「攻撃魔法は使えない」と、逃げられた。
侯爵家の男だ。真っ赤な嘘だと分かるが、事務官では確証もない。
この場を託すこともできなかった。
「はぁ~あ」
瘴気だまりがこれ以上拡大する前に、浄化したいところだ。
生まれたばかりの雑魚魔物とはいえ、さすがに長期戦は耐えられそうにないからな。
汚れた泉の前に座り、かれこれ何時間経ったのだろうか。
リナの到着を願ったが、昼を過ぎても来ないところをみると、今日は、王宮へ姿を見せない気がしてならない。
結界を張っただけで魔力が枯渇すると言っていたからな。大司教が意地悪く、リナへガラス玉を与えなかったのだろう。何かにつけて、あのガラス玉をもったいつける男だ。私が代わりに受け取って、リナに渡すか。
そうなれば、誰かこの場を通りかかった際に、その者へ瘴気だまりを一度任せ、中央教会へ行ってみるか。
「――誰か来い」
「――――そろそろ誰か来るだろう」
「――はぁぁぁぁ、どういうことだよ。いくら待っても誰一人通りかからない!」
人の気配もあまり感じないが、騎士団の大半が援軍に出ているのか……。
そうだ! あの女の行先を探ってみるか――と再び、魔法契約のある先を窺がう。
大量のシーツが見えたところで、プツリと接続が切れた。
あの女、魔法陣から何かを感じて抵抗しているのかもしれない。それ以降、一切追えなくなった。
「一体何をしたというのだ」
だが、少しだけ見えた映像。大量のシーツということは――。やはり辿り着いた先は、売春宿なのか?
「またしても男か……」
そうなんだ。リナから聞いた話。全部が全部嘘ではなかった。
それもあったからこそ、陛下からとんでもない事実を伝えられるまで、リナを信用していた。
そう……。黒魔術の話はまんまと騙されたが、好きな男の話は真実だったのだ。
ジュディットの男の影を調べれば、一人の人物が浮上した。
王宮騎士団の第二部隊長のシモンと常日頃親密で、禊の儀の日は、二人でこそこそ隠れて何かをしていたようだからな。
王太子の婚約者でありながら、堂々と不貞を働きやがって。
不愉快な出来事の連続だな。全くもって腹立たしい。
そんな風にイライラしていれば、一人の衛兵が、私の元へ報告に来た。
門番がわざわざどうしたというのだと思いながら、近づいてくる姿に視線を向ける。
「ドゥメリー公爵から伝言を承っております故、報告に来た次第です」
「おい! どうしてこの泉に来るように告げなかった」
「我々はドゥメリー公爵へ直接王太子殿下の元へ向かうようにお伝えしたのですが、お時間がないとのことで、即刻、帰られました」
「チッ。何なんだあの男は。それで用件は何だ」
「ご息女のリナ様は、しばらく殿下の元を訪ねることはできませんと。以上、それだけです」
「あ~ッ、話にならん。頭にきた! お前は、この泉を見張っていろ! 魔虫が生まれたら、見逃さず退治しておけよッ!」
公爵もリナも、ふざけたことを言いやがって。
リナの魔力が結界を張って枯渇していようが、ガラス玉で魔力を補ってでも、この泉を何とかせねばマズい事態になるだろう。
何はともあれガラス玉を受け取るために、中央教会へ向かうことにした。
「リナは何故、王宮へ来ないんだ!」
目の前の聖なる泉へ絶叫したが、独りきりのこの場では、誰からも返答はない。
この泉へ来る途中、王宮の門番へ「リナが来たら、聖なる泉へ真っ直ぐに来るように」と言伝を命じた。
結界に祈りを捧げると言っても、一時間。
中央教会から馬車で来るとはいえ、十時には着くはずだろう。
もうすぐ太陽は頭の真上に差し掛かるが、リナは王宮へ姿を見せない。
到着次第、泉の瘴気を浄化してもらおうと思っていたのに、この場から動くこともできない。
先日まで、美しい水が湧いていた泉。
それが今では、真っ黒などろどろの液体が、ぐつぐつと煮えたぎるお湯のように、気泡が浮きあがっている。
この場に長く居れば、瘴気に当てられそうだ。気が滅入る。
筆頭聖女である母上の光魔法が枯れているというのは、痛手だった。
今動ける聖女は、リナしかいないのだから。
そのリナも、結界を張るのに手一杯となれば、この瘴気だまりを浄化する事もままならない。
「ああぁ──もう! この国には動ける聖女がいないのか! くそぅっ」
地面に大の字で転がった次の瞬間、思い出した。
「あ……。もう一人……いるな」
私は間違っていなかった。
あの女を追い出す時。殺さない判断をしたのは大正解だった。
ドゥメリー公爵がどこに捨て置いたか知らないが、まだ生きているだろう。
あの女を探し出し、瘴気を払うなり、結界を張るなり、務めを果たしてもらうか。
ジュディットの見ている景色が分かれば場所も特定できるだろう。
ならばと、自分と結んだジュディットの魔法契約の痕跡を追ってみるため、自身の魔力へ意識を集中する。
「よし! 契約自体は残っているから、あの女が生きていることは間違いない」
あの女。何かを感じ抵抗しているのか……。原因は分からないが、何かに妨害される。
奇妙だな。私の魔法契約のある先を探せば見つかるはずなのに、居場所を特定できない。
魔力もないくせに、こんな芸当ができるのか? いや、気のせいだろう。
おそらく、私自身の感情が乱れているせいだなと、一旦、冷静になる。
時間を空けて、後でもう一度試してみるか。
◇◇◇SIDEフィリベール
「ああああ~! 酷い。きりがない!」
瘴気だまりと初めて直面したが、根気勝負は、いよいよ限界だ。
濁った泉から、次から次へと魔物が生まれてくる。とはいえ雑魚魔物だ。
「私が見張る必要などない!」
出現する魔物の大半が湖から這い出る魔虫であり、たまに出てくる大きなものでも魔犬止まり。
この場に政務を運んできた事務官に押し付けようとしたが、「攻撃魔法は使えない」と、逃げられた。
侯爵家の男だ。真っ赤な嘘だと分かるが、事務官では確証もない。
この場を託すこともできなかった。
「はぁ~あ」
瘴気だまりがこれ以上拡大する前に、浄化したいところだ。
生まれたばかりの雑魚魔物とはいえ、さすがに長期戦は耐えられそうにないからな。
汚れた泉の前に座り、かれこれ何時間経ったのだろうか。
リナの到着を願ったが、昼を過ぎても来ないところをみると、今日は、王宮へ姿を見せない気がしてならない。
結界を張っただけで魔力が枯渇すると言っていたからな。大司教が意地悪く、リナへガラス玉を与えなかったのだろう。何かにつけて、あのガラス玉をもったいつける男だ。私が代わりに受け取って、リナに渡すか。
そうなれば、誰かこの場を通りかかった際に、その者へ瘴気だまりを一度任せ、中央教会へ行ってみるか。
「――誰か来い」
「――――そろそろ誰か来るだろう」
「――はぁぁぁぁ、どういうことだよ。いくら待っても誰一人通りかからない!」
人の気配もあまり感じないが、騎士団の大半が援軍に出ているのか……。
そうだ! あの女の行先を探ってみるか――と再び、魔法契約のある先を窺がう。
大量のシーツが見えたところで、プツリと接続が切れた。
あの女、魔法陣から何かを感じて抵抗しているのかもしれない。それ以降、一切追えなくなった。
「一体何をしたというのだ」
だが、少しだけ見えた映像。大量のシーツということは――。やはり辿り着いた先は、売春宿なのか?
「またしても男か……」
そうなんだ。リナから聞いた話。全部が全部嘘ではなかった。
それもあったからこそ、陛下からとんでもない事実を伝えられるまで、リナを信用していた。
そう……。黒魔術の話はまんまと騙されたが、好きな男の話は真実だったのだ。
ジュディットの男の影を調べれば、一人の人物が浮上した。
王宮騎士団の第二部隊長のシモンと常日頃親密で、禊の儀の日は、二人でこそこそ隠れて何かをしていたようだからな。
王太子の婚約者でありながら、堂々と不貞を働きやがって。
不愉快な出来事の連続だな。全くもって腹立たしい。
そんな風にイライラしていれば、一人の衛兵が、私の元へ報告に来た。
門番がわざわざどうしたというのだと思いながら、近づいてくる姿に視線を向ける。
「ドゥメリー公爵から伝言を承っております故、報告に来た次第です」
「おい! どうしてこの泉に来るように告げなかった」
「我々はドゥメリー公爵へ直接王太子殿下の元へ向かうようにお伝えしたのですが、お時間がないとのことで、即刻、帰られました」
「チッ。何なんだあの男は。それで用件は何だ」
「ご息女のリナ様は、しばらく殿下の元を訪ねることはできませんと。以上、それだけです」
「あ~ッ、話にならん。頭にきた! お前は、この泉を見張っていろ! 魔虫が生まれたら、見逃さず退治しておけよッ!」
公爵もリナも、ふざけたことを言いやがって。
リナの魔力が結界を張って枯渇していようが、ガラス玉で魔力を補ってでも、この泉を何とかせねばマズい事態になるだろう。
何はともあれガラス玉を受け取るために、中央教会へ向かうことにした。
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