記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
文字の大きさ
大中小
51 / 112
第2章 あなたは暗殺者⁉
気づかない二人⑤(SIDEアンドレ)
しおりを挟む
◇◇◇SIDEアンドレ
ジュディ――。
いや、ジュディと名乗る怪しい人物が、僕の予想外の行動ばかり見せるため、突き放したいのに調子が狂う。
今朝は、にこにこと笑い、僕へ手作りのゼリーを勧めてきた。イヴァン卿から念を押された直後にそれだ。見た瞬間にヒヤッとした。
何かを思い出した彼女が、いよいよ毒を盛ったと真っ先に浮かんだ。
余計なことをするなと断ったところで、驚いた顔をしていたが、暗殺者ならば当然だろう。深く気に留めなかった。
僕の刺客……。世間に受け継がれたくない属性を持つ僕は、そのときが来るのは幼い頃から分かっていた話だ。とうとうその日が訪れただけ。
人生割り切りも必要であろう。
もう、生きることを諦め。なるように身を任せた方が、楽かもしれないと思ったが……まだ死にたくない。
イヴァン卿の言ったとおり。確かに、初めて彼女の顔を見られる。長年、一目でいいから会いたいと願っていた彼女に。
ーー幻の彼女を目に焼きつけたい。
自分が生まれてくるのが先であったなら、僕の伴侶となっていたかもしれないその方を見るまで、この生にしがみつきたい。
ジュディの手で、まだ殺されるわけにはいかない。
ならば彼女の力量を確認するのも一興。ものは試しと披露してもらった。
まあ、刺客といっても僕の隙を突いた戦法であるはずだからと、甘く見ていた。
彼女の魔法の実力を完全に見くびっていた。
少々訓練した魔法を見せられる程度だと考えていたのに、全く違った。
ジュディに攻撃魔法を発動させて分かったが、魔法の発動から攻撃が、異常なまでに速い。
攻撃力も狙いも一切のブレはなく、発動されたら無傷では済まない。
彼女は一体、どこで何をしていたのだろうと、疑念が深まる。
まだ気づいていない彼女の所持品はないかと部屋へ向かってみれば、使用済みのガラス玉が新たに増えていた。
ガラス玉の数を昨日の日中に確認したのだ。たった一日で、上級魔法一つ分以上の魔力を使い切ったのか?
昨夜、どこで魔法を発動していたというのだ? ますます頭が混乱する。
「はは……」
知れば知るほど要警戒人物だと分かっているのに、彼女に心惹かれる自分が情けなくて笑えてきた。
僕はジュディに、幻の聖女の姿を重ねてしまうのだ。焦がれるあの方とは違うと分かっているのに。
ジュディが突拍子もないことを言うから悪い。
かつて、あの方から届いた手紙にも、瘴気から生まれた魔物を土地の所有者に譲り、周囲の人物から怒られた話が書いてあった。
さっきのジュディの言葉が、ジュディット様と妙にシンクロした。
そんなことを言って僕を惑わせるジュディが、愛おしく思えた。
いっそのこと、ジュディが王太子から捨てられたジュディット様ではないかと、淡い期待をした。
だが違う。ありもしない想像にすぎない。
魔力を封印されていようが、魔力計測器がぴくりとも動かないジュディが、聖女のはずがない。
そもそも筆頭聖女候補が行方不明となれば、中央教会に行ったイヴァン卿の耳に届いただろうが、それもない。
冷静になれと己に言い聞かせた。
ジュディに惑わされてはいけないと分かっている。
僕の気も知らず、一方のジュディは隊長と勝手なことを平然と始めて。それを考えただけで胸がジリジリする。
得体の知れないジュディの部屋から戻ってきたところで、僕の部屋へ入る彼女の後ろ姿が見えた。
開けっ放しの扉から、僕は静かに気配を押し殺し、中の様子を見ていた……。
躊躇う様子もなく、彼女は守護の魔法が付与された栞に気づいた。
その姿を見て、彼女は、どこまで魔力に敏感なんだと目を疑った。
今まで誰にも触れさせず、大切にしていたものを彼女が勝手に触れていたのだ。
腹が立つかと思ったが、不思議と怒りは込み上げてこない。
あの方からもらった魔道具を持つ彼女を、何故だか、もう少し眺めていたい気持ちになった。
妙な感情が僕を支配したのは、彼女がその守護魔法に、必死に助けを求めているように見えたからだろうか。
そうだとしても、それは僕の宝物である。一つたりとも失いたくない。
人には譲れないと返却を求めれば、「たくさんあるから貸せ」と言い出した。
その言葉に驚愕して、言葉を失いかけた。
あれを僕が持っているのは、ジュディにとっては不都合なのか?
記憶喪失も偽装? もはや何が真実で何が嘘なのか分からない。
だが、魔力計測器は嘘をつかない。真実、彼女は魔力なしだ。
彼女は間違いなくワケありで、何かある。
そう考えていた時だ。あの方からの贈り物が、ボンッと消えた。
効果を発現すれば、魔道具は当然、形を失う。それもそもはず。
直前、ジュディは頭が痛いと訴えていたんだ。だから、早く手を離せと願ったのに……。
ショックで頭が真っ白になり、そのせいで彼女を冷たく突き放した。
まさか、その贈り主が何も言わずに僕の横を通り過ぎたとは、気づかなかった……。
◇◇◇
ジュディ――。
いや、ジュディと名乗る怪しい人物が、僕の予想外の行動ばかり見せるため、突き放したいのに調子が狂う。
今朝は、にこにこと笑い、僕へ手作りのゼリーを勧めてきた。イヴァン卿から念を押された直後にそれだ。見た瞬間にヒヤッとした。
何かを思い出した彼女が、いよいよ毒を盛ったと真っ先に浮かんだ。
余計なことをするなと断ったところで、驚いた顔をしていたが、暗殺者ならば当然だろう。深く気に留めなかった。
僕の刺客……。世間に受け継がれたくない属性を持つ僕は、そのときが来るのは幼い頃から分かっていた話だ。とうとうその日が訪れただけ。
人生割り切りも必要であろう。
もう、生きることを諦め。なるように身を任せた方が、楽かもしれないと思ったが……まだ死にたくない。
イヴァン卿の言ったとおり。確かに、初めて彼女の顔を見られる。長年、一目でいいから会いたいと願っていた彼女に。
ーー幻の彼女を目に焼きつけたい。
自分が生まれてくるのが先であったなら、僕の伴侶となっていたかもしれないその方を見るまで、この生にしがみつきたい。
ジュディの手で、まだ殺されるわけにはいかない。
ならば彼女の力量を確認するのも一興。ものは試しと披露してもらった。
まあ、刺客といっても僕の隙を突いた戦法であるはずだからと、甘く見ていた。
彼女の魔法の実力を完全に見くびっていた。
少々訓練した魔法を見せられる程度だと考えていたのに、全く違った。
ジュディに攻撃魔法を発動させて分かったが、魔法の発動から攻撃が、異常なまでに速い。
攻撃力も狙いも一切のブレはなく、発動されたら無傷では済まない。
彼女は一体、どこで何をしていたのだろうと、疑念が深まる。
まだ気づいていない彼女の所持品はないかと部屋へ向かってみれば、使用済みのガラス玉が新たに増えていた。
ガラス玉の数を昨日の日中に確認したのだ。たった一日で、上級魔法一つ分以上の魔力を使い切ったのか?
昨夜、どこで魔法を発動していたというのだ? ますます頭が混乱する。
「はは……」
知れば知るほど要警戒人物だと分かっているのに、彼女に心惹かれる自分が情けなくて笑えてきた。
僕はジュディに、幻の聖女の姿を重ねてしまうのだ。焦がれるあの方とは違うと分かっているのに。
ジュディが突拍子もないことを言うから悪い。
かつて、あの方から届いた手紙にも、瘴気から生まれた魔物を土地の所有者に譲り、周囲の人物から怒られた話が書いてあった。
さっきのジュディの言葉が、ジュディット様と妙にシンクロした。
そんなことを言って僕を惑わせるジュディが、愛おしく思えた。
いっそのこと、ジュディが王太子から捨てられたジュディット様ではないかと、淡い期待をした。
だが違う。ありもしない想像にすぎない。
魔力を封印されていようが、魔力計測器がぴくりとも動かないジュディが、聖女のはずがない。
そもそも筆頭聖女候補が行方不明となれば、中央教会に行ったイヴァン卿の耳に届いただろうが、それもない。
冷静になれと己に言い聞かせた。
ジュディに惑わされてはいけないと分かっている。
僕の気も知らず、一方のジュディは隊長と勝手なことを平然と始めて。それを考えただけで胸がジリジリする。
得体の知れないジュディの部屋から戻ってきたところで、僕の部屋へ入る彼女の後ろ姿が見えた。
開けっ放しの扉から、僕は静かに気配を押し殺し、中の様子を見ていた……。
躊躇う様子もなく、彼女は守護の魔法が付与された栞に気づいた。
その姿を見て、彼女は、どこまで魔力に敏感なんだと目を疑った。
今まで誰にも触れさせず、大切にしていたものを彼女が勝手に触れていたのだ。
腹が立つかと思ったが、不思議と怒りは込み上げてこない。
あの方からもらった魔道具を持つ彼女を、何故だか、もう少し眺めていたい気持ちになった。
妙な感情が僕を支配したのは、彼女がその守護魔法に、必死に助けを求めているように見えたからだろうか。
そうだとしても、それは僕の宝物である。一つたりとも失いたくない。
人には譲れないと返却を求めれば、「たくさんあるから貸せ」と言い出した。
その言葉に驚愕して、言葉を失いかけた。
あれを僕が持っているのは、ジュディにとっては不都合なのか?
記憶喪失も偽装? もはや何が真実で何が嘘なのか分からない。
だが、魔力計測器は嘘をつかない。真実、彼女は魔力なしだ。
彼女は間違いなくワケありで、何かある。
そう考えていた時だ。あの方からの贈り物が、ボンッと消えた。
効果を発現すれば、魔道具は当然、形を失う。それもそもはず。
直前、ジュディは頭が痛いと訴えていたんだ。だから、早く手を離せと願ったのに……。
ショックで頭が真っ白になり、そのせいで彼女を冷たく突き放した。
まさか、その贈り主が何も言わずに僕の横を通り過ぎたとは、気づかなかった……。
◇◇◇
0
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説
駄作ラノベのヒロインに転生したようです
きゃる
恋愛
真面目な私がふしだらに――!?
『白銀の聖女』と呼ばれるシルヴィエラは、修道院の庭を掃除しながら何げなく呟いた。「はあ~。温かいお茶といちご大福がセットで欲しい」。その途端、彼女は前世の記憶を思い出す……だけでは済まず、ショックを受けて青ざめてしまう。
なぜならここは『聖女はロマンスがお好き』という、ライトノベルの世界だったから。絵だけが素晴らしく内容は駄作で、自分はその、最低ヒロインに生まれ変わっている!
それは、ヒロインのシルヴィエラが気絶と嘘泣きを駆使して、男性を次々取り替えのし上がっていくストーリーだ。まったく面白くなかったため、主人公や作者への評価は最悪だった。
『腹黒女、節操なし、まれに見る駄作、聖女と言うより性女』ああ、思い出すのも嫌。
ラノベのような生き方はしたくないと、修道院を逃げ出したシルヴィエラは……?
一生懸命に生きるヒロインの、ドタバタコメディ。ゆる~く更新する予定です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
マグノリア・ブルーム〜辺境伯に嫁ぎましたが、私はとても幸せです
花野未季
恋愛
公爵家令嬢のマリナは、父の命により辺境伯に嫁がされた。肝心の夫である辺境伯は、魔女との契約で見た目は『化物』に変えられているという。
お飾りの妻として過ごすことになった彼女は、辺境伯の弟リヒャルトに心惹かれるのだった……。
少し古風な恋愛ファンタジーですが、恋愛少な目(ラストは甘々)で、山なし落ちなし意味なし、しかも伏線や謎回収なし。もろもろ説明不足ですが、お許しを!
設定はふんわりです(^^;)
シンデレラ+美女と野獣ですσ(^_^;)
エブリスタ恋愛ファンタジートレンドランキング日間1位(2023.10.6〜7)
Berry'z cafe編集部オススメ作品選出(2024.5.7)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる