上 下
87 / 116
第4章 夢の実現へ

ミカエル殿下

しおりを挟む
【SIDE マックス】

 もう1人の王子の機嫌が悪いと、担当事務官から相談を受けた。
 正直なところ、僕は、姉のことが無ければ、この城で仕事をするつもりは無い。
 いつ、この城を出るかを考えている僕にとっては、ご機嫌伺いなんてやってられない。

 どうせ、ミカエル殿下の不満は、王太子に関係している事だろう。

 前王妃は、自分の息子であるミカエル殿下に肩入れをしていたが、ミカエル殿下本人は、王位を欲しがるような人間とは違うように、僕には見えている。
 それどころか、ミカエル殿下は、今の甘んじた立場を上手く利用している気がしていた。
 なのに、王妃に協力した……。狙いは?

 昔、ミカエル殿下は、王太子への優越感から令嬢達と関係を持っていると、僕に口を滑らせていた。

 ミカエル殿下が、高位貴族の大半の令嬢へ手を出していた理由が、王太子がどの令嬢を妃に選んでも、兄は自分の次になると……。
 兄を見返したいと考えついた結果に、呆れてものが言えなかった。
 僕は、そんなくだらない事はどうでも良いし、真っ当な事では、兄と並べないと考える事も理解出来なかったから。

 姉が妃教育に参加した後に、令嬢達の会話について行けないと、夜会に興味を持っていた。
 友人が出来ないと、落ち込んでる事は知っていたが、僕は姉を夜会に連れて行かなかったんだ。
 あの、能天気な姉なら、あっと言う間にミカエル殿下に、別室に連れ込まれてしまうから。

 
 機嫌が悪いと言う割には、僕が来て満足そうな顔をしているが。
「公務の事で、相談があると担当の事務官から報告がありましたが、どのような件でしょうか?」
 
「担当の事務官が、きちんと情報を確認しないから、兄から苦情を言われたんだよ。担当の事務官の質も、僕の仕事の量もおかしいんじゃないのかい?」
 公務の大半を姉に振っているが……。それでも。

「いえ、ミカエル殿下には、経験豊富な事務官が付いてますので、そのような事は無いかと。それに、公務の量も多いとは言い難いですが」
 公務の苦手なミカエル殿下の為に、フレデリック王太子自ら指導した事務官だ。何年も王太子の元で仕事をしていた事務官を、僕がこの城に来たタイミングで、ミカエル殿下の担当に替えたのだから。

「アリーチェ妃は、ほとんど公務をしてないだろう。前の担当の事務官、……トミーだったっけ。彼から、アリーチェ妃の1日のスケジュールを聞いて、呆れたよ」
 なるほど。
 姉の事を、家名だけの奇天烈令嬢だと思ってたのに、違って残念だったな。

「そうですか、アリーチェ妃殿下は仕事が早いので。ですからトミー事務官から聞き入った状況だと思いますけど」
「アリーチェ妃の仕事が早いなら、母が担当してた分は、そちらに回してくれる。いちいち、兄から煩い事を言われるのに、もう、うんざりだから」

「ミカエル殿下がそれでよろしいなら、そうしますが。それと、担当事務官については、僕がミカエル殿下の公務の確認に、頻繁に関わらせていただきます」

「頼むよ。そう言えば、兄の直近の視察はいつだい?」
「明日、辺境伯領に行く予定で、朝から終日不在です。――良ければ、ミカエル殿下が今抱えている公務は、この際ですので全て、アリーチェ妃殿下にお願いするのに、持って行きますね」

 姉の執務室へ行っても、どうせ最中だろうし、終わったら、仲良く王太子の部屋へ行くだろう。
 王太子の事だ、どうせ知っているんだろうから、まあいいか。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……? 嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して── さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。 勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

処理中です...