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第1章 気が付かない3人の関係

陰りの始まり①

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 妃試験が始まって1年半。
 わたし以外の妃候補が、会場に来なくなった。試験に脱落した令嬢もいれば、自ら辞退した令嬢もいたようだ。
 わたし1人になったのだから、当然わたしが婚約者になるはずだった。

 それなのに……。
 何故か、突然の通知が届いて、妃教育が始まった。
 そんなの聞いていないし、今までの試験は何だったのか?

 もしかして……、と良からぬ想像が、頭の中をグルグルと回っている。
 フレデリック殿下は、わたしと結婚したくないのかもしれない。
 
 いくら、フレデリック殿下が過去のわたしを探していたとしても、「リー」と名乗ったわたしと会話したのは、たかが知れている。
 リーは、身分を隠していたフレデリック殿下が、令嬢からベンチを譲れと言われているのを助けて、2人の将来の夢を話したくらいだ。

 わたしの容姿が変わっても、わたしはわたしのままで、昔と一緒だ。
 何がいけないのか分からない。
 
 妃教育に変わってから、めっきり姿を見せなくなったフレデリック殿下。
 どんよりと落ち込んでいるわたしの元へ、キラキラと眩しい金髪が目に入った。

 全く予期していなかったけど、フレデリック殿下が久しぶりに、わたしに会いにきてくれた。
 サプライズで来てくれたことが、嬉し過ぎて途端に気分が上がる。
 相変わらず、わたしの胸を高鳴らせる姿は、少しも変わっていない。
 
 
「会いたくて待っていたんですっ! 実は、フレデリック殿下に、お願いがありまして。わたし、1年半くらい新しい言語を勉強しているんです。だけど、本と睨めっこをしても、分かんない漢字感じがあるんですよね。一緒に勉強しませんか?」
 驚いている様子を見ると、やはりフレデリック殿下も、漢字を知っているんだ。
 このメレディス王国では、その単語を知っている人はいないから、やはりフレデリック殿下だと感心する。

「アリーチェ嬢……。それは、君がしっかり勉強していないからだろう。それは、私ではなく、講師に頼むべきだ」
 講師では、話にならないから相談したのに。
 7歳のリックは、学者の読むような本を、もの凄い速度で読んでいた。
 わたしと似ている。
 そんな感覚があったから、フレデリック殿下と一緒に考えれば、あの漢字も読解できそうな気がした。

「そうですか……。あの本が、王子様の恋愛小説なら、すぐに分かったかもしれないけど、歴史とか、建築とか、あまり面白くない内容なので。まあ、どうせ使うこともなさそうなので、いいです」

 わたしが1年半前から、異変を感じているフレンツ王国とのやり取り。
 以前は丁寧な言葉が多かったのに、少しずつ横柄な表現に変わっている。
 それに、こちらの依頼への反応が遅い上、悪くなってきた。
 少しずつ、フレンツ王国が変わってきているけど、感触的には、しばらく大きな問題は起きないと判断している。
 フレンツ王国が動き出した時に、妃になっていれば、交渉の場にも立ち会えるだろうし、新しい取引国を探さなくても大丈夫だろう。
 念のために続けていた漢字の勉強だけど、必要になる日は来ないはずだ。

「他国の言語くらい使いこなせなければ妃として相応しくない。どうせ使わないではなく、使うものだと思って、勉強してくれないと困る」
 真剣な顔でわたしにお願いをするフレデリック殿下は、妃としてのわたしを、頼りにしている。
 ふふふっ、困るですって。
 漠然と妃教育を受け続けていたけど、この言葉を待っていたわたしは、闘志がみなぎってきた。

「そうですか。じゃあ、なんかキュンキュンできるような本を探しますね。あの~、わたしのことは、アリーチェって呼んでね。わたしもフレデリック様って呼びますから、キャッ。そんな、『困る』って、グフッッ、わたしのことを頼りにしてくれるなんて、嬉しいわぁ~」

 なんたって、困っている人を助けないわけにはいかない性分なんだ。そんなことを言われたら、やらずにはいられない。
 もっと、得意分野から、漢字を攻略すればいいのよ


****
【SIDE フレデリック第1王子】

「ファウラー……。妃試験で学ばせているのは、同盟国のフレンツ語だけだよな」
「そうですけど、どうかしましたか?」
「アリーチェが、分からないから、一緒に勉強しようといいだした。だが、当たり前だろう、講師の話も聞かず、こんな台本のような手紙を私に書いているんだから」

「そんなのは、外交時にフレデリック様が対応すればいいだけですよ。そもそも王妃様だって分かっていませんし、試験がなければ、問題ないことなんですから。それにフレデリック様を基準にしたら、誰もお相手なんか見つかりませんって。建国史だって、暗記できるわけないでしょう。そんなのを基準にするから、誰も残らなかったんですよ」

「いや、建国史を暗唱できるのは私だけではない。ワーグナー家のマックスだってそうだ」

 1年半前。
 城で働く必要のない公爵家の次期当主が、何故か、城で働きたいとやって来た。

 奴から殺気に近い何かを感じ、追い出すために即興で試験をした。
 周辺国10か国の言語に、建国史。
 できなければ、即刻不採用を伝えるつもりだった。
 だけど奴は、何をやっても難なくこなしてた。

「そういえばそうでしたね。仕事ができるから、事務官長になるらしいですよ。あの方も、フレデリック様と同じで次元が違います。あの方の姉がアリーチェ様っていうのが信じられません。あれ、そういえば、フレデリック様は、アリーチェ様との距離が近くなったのではありませんか? 今朝と呼び方が変わってますよ」

「むしろ距離は遠くなった気がするが、何故か、名前で呼ぶように命じられた」
「くくっ、もう尻に敷かれてるんですか」
「そんな訳あるかっ!」

 アリーチェに会ってから、身震いが止まらない。
 他国の言語以前の問題だ。
 彼女は、このメレディス王国の言葉さえ分かっていないだろう。
 私は、不勉強さを叱責したのに、なぜ喜ぶ。

 アリーチェの異常さは、次元が違う。
 絶対に逃げたくなるような課題…………、刺繍でもさせるか。
 講師の目の前では、流石に不正もできないし、自ら音を上げるだろう。

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