上 下
10 / 116
第1章 気が付かない3人の関係

分かっていない③

しおりを挟む
【SIDE フレデリック第1王子】

 今日は、フレンツ語の試験なのか。
 皆随分と熱心に直前まで勉強しているようだ、1人以外は……。
 派手な真っ赤なドレスを着ているのは誰だ?

 試験なのに、大きく肩の開いた場違いな恰好だが、ここは舞踏会ではないだろう。
 それに、持ったと思ったらすぐに筆を置いた……。試験なのに何をしている、不審なのが混ざっているぞ。

 げっ、こっちを向いて……、笑った………。
 不敵な笑みを浮かべる、不細工。いや、人の容姿を悪く言うのは良くない。

 奇抜な顔の令嬢と目が合った瞬間から、ざわざわと胸騒ぎがする。
 心臓がドクドクと激しく拍動しているのが分かる。
 まさか、自分の妃試験の会場で、恐怖を感じているのか?
 来たーッ。
 なぜ、試験を放り投げてこっちへ来る。

「フレデリック殿下~。いたなら声を掛けてくれれば良かったのに。そうしたら、もっと早くに殿下とお話できたのに」
「貴方は、誰だ?」
「ワーグナー公爵家のアリーチェですよ、先日、ご挨拶は済んでいますが」
 ファウラーの言っている意味を理解した。
 これは酷い。

「ワーグナー公爵令嬢……。貴女は試験中だろう。私の元に来てないで、戻って」


「試験は大丈夫ですから。そんなことより、わたしの手紙を読んで、むふぅ~ってなって、わたしに会いに来てくれたんですか?」

 自分の席へ戻るように促しても、一向に机に行かないし、変なことを言っている。
 むふぅ~って、何だ?
 ヤバい! この令嬢は、何か、いやっ、全てが変だ。
 この令嬢が傍にいると、悪寒が止まらない。

 いや、大丈夫だ。私との関係はこれまでだ。
 この試験をさぼっているんだ、ワーグナー公爵家の令嬢は、ここで落第となるだろう。
 明日以降、会うことはないはずだ。

****

「おい、ファウラー! 私の妃試験はどうなっている! どうしてワーグナー公爵家の令嬢は落第にならないんだ。もう他の令嬢達は付いていけずに、全員辞退したんだろう」
「いや~、それがですね……、講義は一切聞かないのは変わらないのですが、成績だけは良くて。アリーチェ様は、試験開始5分で席を立ち、試験が終わる頃に、ふらっと戻ってきて、回収した試験は満点なんですよ。講師達も何も言えなくて」
「明らかに不正だろうっっ! 講師達は何を見ているんだ!」

「アリーチェ様を注意するのに疲れて静観してます。不正する現場だって掴めてませんし。それに、相手はワーグナー公爵家の令嬢です。確証のない疑いは誰も向けられませんから。僕にも無理ですし、講師達も報復を恐れています」
「何なんだ一体! 彼女に妃教育するんだ。それも、逃げ出したくなるような厳しいものをだ」

 堂々と不正を働き、講師達を買収するとは。
 とんだわがままな令嬢が、わたしの婚約者候補として決まりつつある。

 リーを見つけるための思い付きで、由々しき事態が起きている。
 何としても、彼女との婚約は阻止する。

 探し続けているリーは見つからない。
 それなのに、明らかにおかしな娘を、婚約者としなくてはいけない状況に追い込まれている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...