上 下
9 / 116
第1章 気が付かない3人の関係

分かっていない②

しおりを挟む
【SIDE フレデリック第1王子】

 メレディス王国の第1王子である私は、長い間、ある令嬢を探し求めている。

 私は、16歳の成人を迎えるのを心待ちにしていた。やっと自由に動けるようになり、「リー」を探せるからだ。
 どれほどその日を待ちわびていたことか。

 当時7歳だった私と、同じ年頃の少女。
 彼女は、自身の身分を明かさなかった。
 だけど、伯爵令嬢を相手に1歩も引かず、この国の建国史を暗唱できると言い、威圧だけでわがままな令嬢を追い返していた。
 堂々としたその姿や、全く関係ない私のことを心配する優しさ、ちょっとお節介なところも、私の心を掴んで離さなかった。

 あの日、リーと交わした全ての会話は、彼女の高い教養が溢れていた。
 それに、伯爵令嬢にも怯むことのないリーは、間違いなく伯爵以上の爵位を持つ家柄だろう。
 急がなければ、他の貴族と婚約を決めてしまう。
 彼女はしきりに、親が結婚相手を決めるから、私との結婚は無理だと言っていた。

 私は、あの日身分を明かせず平民だと偽った。
 だからリーは、私がこの国の王子だということを知らない。商人の子「リック」だと、今も思っているだろう。

 早く見つけ出さなければ、本当に、リーの父親が用意した縁談で、他の男に捕られてしまう。
 リーを探し始めるのが遅いことに、唯でさえ焦っていた。
 それなのに、一向に見つかる気配のないリー。

 ストロベリーブロンドのふわふわの髪に、緑色の瞳。
 当時のリーの特徴を、夜会で探し続けたが見つからなかった。

 第1王子が19歳になっても、婚約者を決めていないことに、陛下が動き出してしまった。
 リーを見つけるまでは、婚約者を据えるわけにはいかない。
 私の妃は、7歳の時に既に「リー」と決めたのだから。

 こんなことは前例にないが、妃試験を思いついた。
 リーを見つけるまでの時間を稼げるのもそうだが、伯爵以上の令嬢を集めることで、それにリーが来るかもしれないと期待した。
 容姿で該当する人物はいなかった。

 悔しいが、この妃試験には、リーは来なかったのか。
 いずれにしても、結果的には1人の婚約者候補を決めなければ、これに集まった令嬢達への体裁が立たない。
 いや、誰も通過できない試験にすれば、1人も残らないはずだ。
 
「私の妃試験の様子はどうだ? 今日はフレンツ語だろう」
「お1人を除いては、大変熱心に講義を受けていらっしゃいますよ」
 試験を監督している側近のファウラーが、そう言いながら、困った顔をしている。
 初日にして講義に付いていけない令嬢がいるのかと、こ令嬢の質の悪さに、がっかりした。
 まだ講義の内容は、基礎もいいところなのだから、初日くらい、やる気を出してもらいたいのが本音だ。

「講義に付いていけないのは、どこの令嬢だ?」
「ワーグナー家のアリーチェ公爵令嬢です」
「意外だな。あの逸材揃いの公爵家の令嬢が」

「話も聞かずにウロウロしてたかと思えば、退屈だからと、フレデリック様に山のような手紙を書いていました。僕や教師が注意しても、全く聞く耳なしでしたね」

「もしかして、今、ここにある手紙は講義も受けずに書いていたのか? まるで本のような厚さがあるぞ…………」
 目の前にある手紙の量を凝視すれば、ぞわっと、全身に悪寒が走った。
 ……普通じゃない。

 会わなくても分かる。
 ワーグナー公爵家の令嬢は常軌を逸している。
 ましてや、妃試験に参加して講師の話も聞かないのは、容認できない。
 様子を見にいくか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……? 嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して── さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。 勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

処理中です...