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第三章

第52話 風水士の本音と作戦開始

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「ちなみに風水士、お前、人間の王も殺す気でしょ」

『王の人格によるな。だが人間の側にも協力者がいてな。殺すべき相手のピックアップは終わっている。死の偽装も可能だ』

「悪いやつだなあ」

『それにゴブリン王国が戦う理由の一つは口減らしだ。貴様ら人間も似たようなものだろう。せいぜい数を減らした後、穏便に戦争を止めてやるとしようではないか』

 風水士、お世辞にも善良なやつではないな。
 エリカに本音を聞かせたら、すぐさまバトルが始まってしまいそうだ。

 これは俺の中だけに留めておこう……!
 風水士も、この本音を俺以外に暴露するつもりはないようだし。

「俺が止めるとか考えないわけ?」

『我は過去の時代で貴様を知っている。貴様は誰よりもあのバーサーカーを優先する男だ。だが、我は過去のことから、貴様に友誼を感じている。故に貴様に、本当の目的を話した』

「なるほど。確かに、俺としてはゴブリンが皆殺しになっても構わないが、それは風水士にとっては逆でもいいもんな」

『そう言う事だ。立場が変われば見方も変わるな。我が人間どもに対し、多少は友好的なやり方を取っているのは、貴様がいるからこそだ』

「過去の俺、何をしたの」

『もうじき分かる』

 風水士が笑った。
 善人ではないというか、生かしておくと人間側にとって最悪の敵になりかねない男だが、不思議と俺は嫌いではない。
 じゃあそういうことで、と俺と風水士は方向性を確認し合ったのである。

 エリカが興味を持って近づいてくる。

「何をお喋りしてるんだ? 私も混ぜてくれ!」

『話は終わったぞ、騎士よ』

「騎士!? お、おいドルマ聞いたか!? このゴブ……じゃない風水士、私のことを騎士だって! ああ~。分かる人は分かってくれるんだなあ~」

「一瞬でエリカを味方につけてしまった。凄いやつだ」

 俺は感心してしまった。

『青魔道士』

「おう」

 最後に風水士の呼びかけを聞く。

『貴様は我を止めてもいい。このままにしてもいい。それは貴様に任せよう。我は貴様の選択を尊重する』

「おう、ありがとうな!」

 善人じゃないが、いいやつだなあ。
 この後、すっごいジェノサイドをしようとしてるけど。

 俺はなかなか難しい立場に置かれた。
 ゴブリン王の暗殺だけさせて人間側の暗殺を止めると、人間が止まらない。
 そのままゴブリン王国に攻め込んできて、戦争継続。

 人間側の要人暗殺も認めると、その余波で人間側にも多数の死者が出るっぽい。
 だが、人間もゴブリンも戦争どころではなくなって、戦争は止まる。
 多分、ものすごく長い間、それどころではなくなる。

 トータルで被害が減って、救われる命が増えるのは後者かもなあ。
 どうしたもんか、どうしたもんか。

 ま、いいか。

 俺は考えるのをやめた。
 そんな事よりも、ゴブリン飯である。

 ゴブリン王国の飯はなかなか美味い。
 塩があまり取れないところらしく、味付けはハーブが多い。

 動物の血を料理にたくさん使っているから、これで塩気を補ってるんだろうなあ。
 ワイルドな味がする。

「なかなか美味しいな!」

 エリカが骨付き肉をガツガツ食べていた。

「存外、ゴブリン料理は繊細な味付けでござるなあー。美味美味」

「うむ」

 ホムラもアベルも、文句はないようだ。
 ちょっとハーブは癖があるかな?

『さて、ジャガラを殺す計画だが、正面から行けばヤツのガードを務めるゴブリンジェネラルが邪魔をしてくる。ジェネラルを殺しても、その間にジャガラは恐るべき逃げ足で姿をくらます。逃げられない状況にするのが肝要だ』

 この計画を話し合っているのが、吹きさらしな普通の食堂なんだが。

「これ、聞かれる心配ないの?」

『我の地形の技で、周囲に音を遮る風を吹かせている。気にする必要はない。暗殺には、幾つかの協力者がいる。奴らがジェネラルを留めてくれよう。だが、ジャガラを殺すのが骨だ。ヤツはすぐに逃げるが……強い』

「強いのにすぐ逃げるんだな」

『うむ。ゴブリンの中にも、戦を止めたい者たちは多い。彼らに協力してもらえば、暗殺できる状況まで持っていくことはできよう。だが、ジャガラを仕留められる者がいなかった。そこへ、貴様らがやって来てくれたということだ』

 なるほどなるほど。
 俺は腑に落ちた。
 だがエリカが難しい顔をしている。

「なあ。だけどそれでは、私は騎士として活躍ができないじゃないか。暗殺だと表に出てこないから……。この仕事はどうなのかな」

「面倒くさいことをいい始めたな」

 ズバッと言うのがアベルらしいところだな。

「金になればいいだろうが」

 いや、アベルを褒めてちょっと損した気分だ。

『そこは問題ない。ジャガラは本来、国のことなど何も考えていない愚物だ。ヤツが求めるのは、人間どもへの復讐だけ。故にヤツは、体内に化け物を飼っている。追い詰められれば自暴自棄になり、それを解き放つだろう。これが手がつけられない』

「それだ! じゃあ、私たちはそれを倒せばいいんだな!」

『ああ。そういうことだ』

 風水士、エリカの操縦の仕方を知っている!

『だが気をつけろ。町中で解放すれば、その化け物はゴブリン王国を蹂躙し尽くすだろう。魔獣ベヒーモス……。魔神アンリマユと並ぶ、世界を滅ぼす災いの一つだ……!』

「その言い方はエリカのテンションを上げるだけだと思うな」

 俺はぼそっと呟くのだった。
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