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第一章

第5話 この技、気軽に使っていいやつだ!

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「大丈夫かドルマ!! 死んだか!?」

 エリカが慌てて俺を引っ張った。
 心底動揺してる声だ。

「大丈夫大丈夫! いやあ、ヤバいなあのモンスター。なんなんだ!」

 俺たちはぎりぎり、モンスターの間合いの外に出て様子をうかがった。
 モンスターはこちらをジロジロ見ると、ニヤニヤ笑いながら井戸の中に戻っていく。

「さながら、いどまじんだな……」

「いいな! ではあいつは、いどまじんと呼ぼう!」

 名前が決まってしまったな。
 そしていどまじんが使ってくる、水の攻撃。
 その名は渦潮カッター。

 俺の能力欄にあるから技名まで判明してしまった。
 これは使えるんだろうか?

 俺は手に入れた能力を意識した。

「渦潮カッター……!」

 呟いてみる。
 だが、何も起こらなかった。

「大丈夫? ドルマ、頭打ったりしてない?」

「大丈夫大丈夫! 元気だから!」

 いかんいかん、エリカに心配されてしまった。

「そうか、良かった! じゃあ次は私が行くぞ!」

 短剣を握りしめて、いどまじんの縄張りに踏み込もうとするエリカ。
 いやいやいや。
 無茶が過ぎる。

 鍋は確かにダメージを受けないけれど、それは上手く鍋に当たった場合のみだ。
 鍋以外に当たったら、確実に死ぬ。

「うわーっ、鍋にガツンときた~!」

「あーっ、無策で突っ込むんだから!」

 今度は俺がエリカを縄張りから引きずり出すことになった。
 これは困った。
 いどまじんまで接近できる手段が無いぞ。

「エリカ、お前には何も隠し事はしないつもりなので打ち明けるが」

「おっ、なんだ!」

「実は今、あいつの技を受けて、俺はそれを覚えたらしい。っていうか、くさい息も子供の頃にモンスターから喰らって覚えたんだが」

「そうなのか!? それってもしかして凄くないか!?」

「凄いんだろう。渦潮カッターという技なんだが、使えなかった」

「ああ、さっきの呟きはそれか! でもなんで使えなかったんだ?」

「分からない。何か足りないのかもしれないな」

 何が足りないだろうか。
 いどまじんは武器を持っているようには見えない。
 違いと言えば、井戸にいることで、渦潮カッターは井戸水を使っているだけ……。

「水……!?」

「お前ら、何をいつまでもぶつくさ言っておるんじゃ! 冒険者なんだからワーッと特攻せい!! 命がけで退治しろー!」

 村のじいさんがわあわあとまくし立てる。
 その手には、秘蔵だという梅酒!
 あるじゃないか、そこに、水が!

 一部アルコールだけど!

「じいさん、そいつをもらうぞ!」

「あっ、わ、わしの梅酒に何をするお前ーっ!!」

「じいさんの梅酒が村を救うんだ! 行くぞエリカ! 俺の予想が確かなら、これで行ける!」

「ああ! 私は君を信じる! 思う存分やってくれドルマ!!」

 信頼してくれる人がいる。
 なんと心強いことであろうか。

 エリカを背中に隠しながら、梅酒のビンを片手に進む俺。
 今、いどまじんの縄張りに踏み込む……!

 井戸から渦巻きが起き上がり、いどまじんが笑いながら攻撃を放ってきた。
 渦潮カッター!

「行くぞ! 渦潮……梅酒カッター!!」

 俺が叫ぶと同時に、ビンの頭が砕けた。
 梅酒色の渦巻きが、真っ向から渦潮カッターを迎え撃つ。

「ぬおーっ! わ、わしの梅酒がーっ!?」

「効いてる! じいさんの梅酒が効いてるよ!!」

 いどまじんは驚愕に目を見開いたあと、立て続けに渦潮カッターを放ってきた。
 迎え撃つ俺、梅酒カッターを連打だ!
 減っていく梅酒!

「わしの梅酒がーっ!?」

 その隙に、エリカがいどまじんへと駆け寄っていた。
 いどまじんはエリカを視認していても、反応ができない。
 一瞬でも気をそらしたら、俺の梅酒カッターが押し勝つ!

 いいぞいいぞ、この技!
 水分が持つ限り、いくらでも放っていやつだ!

 まあ、梅酒の残りは少ないけど。

「いどまじん! 終わりだあーっ!!」

 叫びながら、エリカが全力で短剣を振り回した。
 いどまじんを切り裂く斬撃。
 ついにモンスターの体勢が崩れた。

「梅酒カッター!!」

 そこに炸裂する、俺の渦潮カッター。
 いどまじんは天を仰ぎながら、一瞬痙攣した。

『ウ、ウ、ウグワーッ!!』

 そして、まるで水のようになって飛び散ってしまったのだった。

 一瞬の静寂に包まれる村。

「やった……やった!」

「モンスターが倒されたぞ!」

「やった、やったぞー!」

「冒険者たちがやってくれたー!!」

「わしの梅酒がーっ!!」

「おじいさん!」

 大歓声が巻き起こった。
 なお、梅酒はほんのちょっぴりしか残らなかったぞ。

「じいさん、ありがとう。あんたの梅酒のお陰で勝てた……」

「そうか……そうか……。うう……村を救う力になったのなら良かったわい……。さっきはあんたたちを、ちゃんとしてない冒険者なんて呼んで悪かった。あんたたちは、本物の冒険者だ! あと、梅酒はモンスターを殺した梅酒として新しく作って売り出すことにするよ」

 転んでもただでは起きないじいさんだ。
 こうして村は救われた。

 俺たちも、最初の冒険を終えることができた。

「やった……やったぞドルマ! わた、私、初めてモンスターをやっつけた!」

「初めてだったかあ」

「それにドルマ、やったじゃないか! なんだったんださっきの技は!」

「あれか! あれなあ。多分、この井戸水でも再現できる……」

 井戸水をひとすくい手にして、呟く。

「渦潮カッター」

 手のひらの水が回転を始め、あっという間にそれは超高速になり、ついにはぶっ飛んで行ってしまった。

「おおー!」

「オー」
「オー」

 エリカと村人たちがどよめいた。

「どうやらこれが、俺の力らしい。モンスターの技を受けて、それを自分のものにする! なんだかだんだん分かってきたぞ!」

「そうか! それは未来の大騎士の仲間に相応しいな!」
 
 エリカが嬉しそうだ。
 そして、俺たちが鍋を拝借した奥さんが、真新しい鍋を差し出してきた。

「これは……?」

「どうか、これを使っておくれ。あんたたちがちゃんとした防具を買えるようになるまで、この鍋があんたたちを守ってくれるから。あ、さっきの鍋はモンスターの攻撃を受け止めた鍋だってことで、見世物にするから」

 たくましい!
 だが、鍋の提供はありがたい。
 俺は今後、特に体を張ることになりそうだし、ありがたく使わせてもらうことにしよう。

 こうして、俺たちの最初の仕事は終わったのだった。
 エリカにとっては、大騎士への一歩目というところだろうか。
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