上 下
57 / 84
6・世界漫遊編

第57話 いよいよ魔剣のおでまし

しおりを挟む
 イースマスを出て少し行くと、また周囲がシクスゼクス独特の、森や湿原に覆われた薄暗い感じになってくる。
 浜辺付近はオクタゴンの領域なので、ここを意識して走るようにした。

 海に住む魔族は、オクタゴンと協定を結んでいるので、比較的友好的らしい。
 俺たちも途中で、下半身が魚の女の人や、全身に鱗がある人たちと食べ物の交換を行ったりした。

『えっ、魔弾将軍の妹さん? へえ……随分お姉さんより大きいんだねえ……』

 ニトリアが魚人間みたいな人とお喋りしている。
 魔弾将軍……?

『わたくしの姉ですね。シクスゼクスの前線を預かる将軍の一人です。スキル能力者で、自分が発射したものや投擲したものの軌道と速度を自由に操ることができるんです』

「どこかでそういう能力を持った相手と会ったような……」

 世界は狭い。

『えっ、魔神なのかい? そんなちっちゃいのに!? はあー、そりゃあありがたいことだ。拝んでいいかい』

 今度はエグゾシーが拝まれている。
 どうやら魔神は、シクスゼクスだと信仰の対象みたいだ。

 彼らが信じている魔神とは違っても、一応拝んでご利益を得ようとするのはタダ、ということらしい。

『わし、拝まれるのは変な気分だな』

 エグゾシーは骨蛇の顔をしかめると、俺の背中側に隠れてしまった。

「ちっちゃくなってからちょっと可愛いよねー。あたしにエグゾシー貸して!」

『こりゃやめんか。うわー』

 エグゾシーがミスティに摘まれて、ぶらーんと垂れ下がる。
 これを見て、魔族たちもわっはっは、と笑った。
 なんだか普通の人たちだなあ。

『かつては我ら魔族は人族と激しく争っていたのだが、魔法帝国時代になってから我らは人族に追いやられて絶滅しかけ、シクスゼクス帝国に入り込んで命脈を保ったのだ』

 おごそかに、魚人間の人が説明してくれる。

『それで、帝国は滅びてな。バラバラな時代になった。なぜか帝国が滅びる時、我ら魔族は特に何もされなくてな。勢力を保ったままでここまで来た。途中で魔王がやって来て、我らを支配しようとしたので、慌てて人間と同盟を結んでガンガンに魔王とやり合ったのだ。それ以来、表向きは戦争みたいなことをしているが、大戦争を起こそうという者はいないな』

 そういうことだったか。
 あちこちで悪さをする魔族は、あちこちで悪さをする人間の悪党くらいの出現頻度らしい。
 肉体的には人間より優れている魔族だけど、それは平均の話。

 スキル能力や魔法、鍛え方でそんなものは容易にひっくり返る。
 だから魔族側も人間を見下したりせず、どうにか対等に付き合っているということだった。

 この世界は平和だったんだなあ……。

『こういう平和が漫然と続くと、中身から腐っていくのだ。わしら十頭蛇はそれをちょっと揺らがせるために、金次第でどちらにでもつき、諍いを小戦争くらいまで発展させる』

「おお、そういう存在理由があったんだ! される側は迷惑だけど」

『リーダーの考えだからな。リーダーは、己を倒したマナビ王からこの考えを受け継いでいるそうだ』

 エグゾシーと話すたびに新しいことが分かる。
 流石は長生きしている魔神だ。

 こうして海の魔族たちと別れ、また旅を続ける。
 何度か野宿して、夜中に目覚めたらニトリアがすぐ近くにいたり、それをミスティが追い払ったりという日々を送り……。

 シクスゼクスの国境を越えたあたりで、急に寒くなった。
 少し向こうの平原が、真っ白に染まっている。

 凍土の大地に到着したのだ。

「寒……!!」

「やっぱ途中で防寒具交換してもらって来て良かったねえ!」

 ミスティが荷馬車から、もこもこした服を取り出す。
 本来は人狼用だそうで、フードに耳を入れるトンガリが付いていた。

 俺とミスティでこれを着込み、ニトリアはローブみたいなものを纏う。

『わしは寒さを感じぬから問題ない』

 エグゾシーはそのままだ。
 だが、ミスティが彼の頭に、ちっちゃいもこもこ三角帽子をちょこんと被せた。
 帽子が真っ赤なのでとても目立つ。

『こりゃ、やめろ! なんじゃこれは』

「可愛いじゃん! 周りが真っ白でしょ? エグゾシー落っこちたら見つからなくなるじゃん。それ被ってるといいよ!」

『むう、なるほどな。一理あるわい』

 あ、説得された。
 エグゾシーはぴょんとジャンプして、ニトリアの頭の上に移動した。
 この中で一番高いところだ。

 そこからさらににゅーっと伸び上がって周囲を見回す。

『おうおう、早速お出迎えじゃな。ウーサー、ここで存分にスキルを訓練していけ。わしも少しは手を貸そう』

 エグゾシーの言う通り、全身が氷に覆われた、トゲトゲの球体みたいなのがあちこちに浮かび上がる。
 そいつらは氷の中にある巨大な目玉をギョロつかせ、俺たちを発見するや否や、

『ヴォオオオオオオオ!!』

 そう叫びながら一斉に襲いかかってきた!

「見たこと無いモンスターだ! なんだあれ!」

『氷の魔将の眷属、フローズンアイじゃ!』

『わたくしの技は通じなさそうなので見学していますね……』

 ニトリアが馬車の中に戻っていった。
 エグゾシーは彼女の頭からジャンプして、俺の肩に飛び乗る。

『よーし、やるか。いでよ、アンデッド! アイススケルトン!』

 エグゾシーが呼ぶと、俺の周囲にある凍った大地が動いた。
 ……と思ったら、氷でできた骨人間が次々に立ち上がる。

 いつの間にか、氷人間の頭の中には、小さなエグゾシーみたいなのが住み着いている。

『こいつらは巻き込んでも構わん。これを盾にして、お前の力を試すんじゃ』

「うす! 協力感謝!」

 俺は全身あちこちに装備した革袋から、氷の針を掴みだす。
 使うのは……炎の魔剣!
 いよいよ、最強の魔剣の出番なのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

ミスリルの剣

りっち
ファンタジー
ミスリル製の武器。それは多くの冒険者の憧れだった。 決して折れない強度。全てを切り裂く切れ味。 一流の冒険者にのみ手にする事を許される、最高級の武器。 そう、ミスリルの剣さえあれば、このクソみたいな毎日から抜け出せるはずだ。 なんの才能にも恵まれなかった俺だって、ミスリルの剣さえあれば変われるはずだ。 ミスリルの剣を手にして、冒険者として名を馳せてみせる。 俺は絶対に諦めない。いつの日かミスリルの剣をこの手に握り締めるまで。 ※ノベルアップ+様でも同タイトルを公開しております。  アルファポリス様には無い前書き、後書き機能を使って、ちょくちょく補足などが入っています。  https://novelup.plus/story/653563055

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

処理中です...