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1・王国での出会い編

第4話 銀貨が鉄貨百枚に

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 荷馬車で二人、ワイワイと騒いでいると、当然の如く見つかる。
 王都から離れた所で、荷馬車の主が呆れ顔で俺たちを見上げていた。

「うるせえと思ったら、どこで乗り込みやがったんだ! 降りろ降りろ!」

 ムキムキのおっさんだ。
 麦わら帽子に汗の滲んだシャツ、クビにはタオルを巻いている。
 むき出しの腕がミスティの腰くらい太くて、日焼けして赤銅色だった。

「ごめん! だけど、俺らをもうちょっと乗せてもらえないか!?」

「駄目だ駄目だ! その藁、うちの馬が食うんだからな! 大事な藁なんだ! 降りろ降りろ!」

「そこをなんとか!」

「駄目だ駄目だ!」

「じゃあ……」

 俺とおっさんのやり取りを聞いていたミスティが、銅貨を取り出した。
 いつの間にそんなものを……?

「これで行けるところまで送ってよ! お金払うからさ!」

「むっ!!」

 おっさんが唸った。
 そして銅貨を受け取ると、

「いいだろう。うちの農場まで乗せてやる」

 そういうことになった。
 お金で解決できるんだな、こういうの!
 俺はちょっと感動する。

 今まで金をまともに所有していた経験が無いので、金を使った交渉というのが全くわからなかった。

「ミスティ、凄いな! なんだ今の?」

「なにって、お金で交渉しただけだけど?」

 そのまんまだ。

「そっかー。だけど、銅貨で納得してくれるもんなんだな。この藁って銅貨だとどれくらい買えるんだろうなあ」

 俺たちの声が、御者台のおっさんに聞こえたらしい。

「銅貨一枚だとな、この荷台の藁の三割くらいが買えるんだ。馬鹿にならねえぞ」

「すげええええ」

 おっさんが俺たちを乗せることを了承するはずだ。

「おめえら、追われてるだろ」

「ドキッ」

 ドキッとする俺とミスティ。

「……ど、ど、どうする? ファンタジー世界だと、こういうのは目撃者は消す、みたいな」

「しねーよ!? っていうか俺らじゃあのおっさんに返り討ちにされるわ!」

 おっさんが筋肉をピクピクさせている。

「俺も田舎者を馬鹿にする王国は嫌いだからよ。生活のために利用してるだけだ。隠れてろ」

「ありがてえ!」

「一日につき銅貨一枚な」

「うっ」

 早く旅立とう。

 荷馬車は夕方くらいに農場へ到着するようだ。
 その間に、俺の能力を鍛えようという話になった。

「銀貨を銅貨に変えてみよう! あ、鉄貨はヤバいと思うからね。超増えるから」

「増えるの?」

「百枚になるって! 重すぎて馬車ひっくり返るかもよ!?」

「マジかあー! っていうか、銀貨が鉄貨になるの? あ、一気に変えられるのか? やってみていい?」

「だから駄目だって! あーっ、ダメ、ウーサー! それはダメェェェェェ!!」

 なんかエッチな感じの叫びを受けながら、俺は銀貨を一気に鉄貨に変えた。
 急激に増加した荷馬車の重量に、荷馬がつんのめり、おっさんが振り落とされ、馬車が立ち上がったのだった。

 そして、俺はおっさんに頭をぶん殴られた。

 いてええええええ!!

 農場に到着すると、おっさんの奥さんと子どもたちがいた。
 おっさんが銅貨を見せると、奥さんが俺たちを大歓迎するわけだ。

 世の中は金だ。

「ウーサー! お水使わせてくれるって! あたし、ちょっと体洗ってくる! 汗でベトベトしてて気持ち悪かったんだよねえ……」

「えっ、水浴びする!?」

「覗くなよー少年」

「うっ、ううっ」

 女の体なんか見たこともない。
 だが、凄くきれいなものらしいことは、スラムのおっさんたちが言っていた。

 これはチャンスではないのか……。
 そーっと井戸の近くまで行く。

 王国周辺は昔湖があったらしく、どこを掘っても地下水が出るから、とにかく井戸が多い。
 水音がする方向まで、そっとそっと近づく。

 物陰から覗くと、真っ白なミスティの体が見えた……気がした。

「ひゃーっ、気持ちいいーっ!!」

「おおーっ」

 もっとしっかり見ねば、と思った俺である。
 だが。

 ポンッと肩を叩かれた。

「うおおっ!!」

 振り返ると、おっさんがいる。

「あのよ、お前、えーと」

「お? 名前か? 俺はウーサーだ」

「そっか。俺はイールスってんだ。お前な、農場に来る途中に荷馬車ひっくり返しただろ」

「あ、あれか! ごめん! マジでごめん! 銀貨が鉄貨になったら、あんなに嵩が増えると思わなかったんだ!」

「そう、それよそれ!」

 おっさんことイールスは、俺の能力に興味を持ったようだった。

「俺の眼の前でよ、どこから取り出したか分からない鉄貨が、あっという間に一枚の銀貨になっちまって。ありゃあなんだ?」

「あれはさ、俺、両替っていう能力があって、金をああやって細かくできるんだ」

「能力!? あー、えーと、スキルっつーやつか。ずっと向こうのバルガイヤー森王国では、そういう能力を持ったやつをたくさん抱えてるって話だ。それに、どこかではスキルをもったガキを集めて暗殺者に育ててるそうじゃねえか」

「おっさん詳しいなあ……」

「エムス王国とエヌール公国の間に俺の農場あるだろ? だから旅人が途中で泊まるわけよ。そこでいろいろな話がな」

「なるほどぉ」

「だけど、金を細かくするだけのスキルってのは初めてだなあ。そんな能力をエムス王国は追いかけてたってわけか? わけが分からんな」

 おっさん、どうやら王国に追われてるのが俺だと思ってるらしい。
 これは、ミスティの話は伏せといた方がいいかもしれない。

 なんか知ってたほうが危険になることってあるもんな。

「俺も全く役に立たないと思ってたんだけどさ。ミスティがなんか、俺のスキルが使えるみたいな」

「ははー。俺らにゃ分かんねえ凄さがあるのかもなあ」

 おっさんと話し込んでしまった。

「で、お前らこれからどうするんだ? ウーサー、お前はまだガキだが、ミスティは女だ。狙われるぞ。ガキが守れねえくらい外の世界はやべえからな」

「お、おう! 頑張るわ」

 必死こいてスキルを強化しないといけないじゃん。

「と、とりあえず、おっさんとこを出たら……どこに行けばいいんだ?」

「そうだなあ……。エヌール公国は汚職が横行してて治安がクソだな。一応エムス王国とは仲がいいから、憲兵が行き来してる」

「最悪じゃねえか」

「エルトー商業国がまだマシじゃねえか? 金がありゃなんとでもなるし。ただし、エムス王国がそこに戦争をふっかけようとしてる。これくらいか」

「救いが無い!」

 この国の周辺、クソみたいな国ばかりだなあ。
 俺はずっと王国のスラムにいたから、全くわからなかった。

 こりゃあやべえぞ……。
 今までみたいな、自分がその日の黒パン食うだけで満足してたガキではいられない。

「うーん……!」

「人が水浴びしてる横で大声で喋ってんじゃない!」

 唸っていたら、いつの間にか服を着ていたミスティに後ろからはたかれたのだった。

「ウグワーッ!? う、おおおお、なんかちょっと濡れた髪がエッチ……」

「うるさーい!」 
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