上 下
11 / 75
Mと砂漠再生編

第十一話:ドMとようじょと砂漠の国

しおりを挟む
 ひょんなことから、僕たちは今、空を飛んでいる。
 突然現れた悪魔っぽいようじょが、魔法を使ったのだ。
 魔法は大爆発を起こして、その場から、僕と新聞屋、そして空中にいた悪魔ようじょを巻き込んで、どこかへと吹き飛ばした。

 今まさに吹き飛ばされる最中。

「ええい、ばかばか! なぜグレモリーをまきこむですか! にんげんのくせに、なまいきなのです!」

 グレモリーちゃんと言うらしい。
 ようじょがぽかぽかと僕を叩く。
 痛い痛い。結構痛い。
 つまりご褒美だってことだよ!
 ヒャア! ようじょの折檻だ、たまらねえ!

『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『体力がアップ!』
『愛がアップ!』

 もりもり強くなるぞ。
 グレモリーちゃんは、赤髪に羊の角を生やした、ジャンパースカート姿の美幼女である。
 透き通るくらい色が白くて、表情は小生意気そう。
 小さな手が、悪魔ハーフで僕をよくどついていたイヴァナさんくらいのパワーを持って、ぽかぽか叩いてくる。
 あれっ、もしかしてここは天国ですかな?

「ひい! 張井くん何をヘブン状態になってるっすか!! あんたが死んだらあっしは誰を盾にしたらいいんすか!? おのれ、回復、回復!! ”ピカッと回復ヒールライト”!!」

 新聞屋の回復魔法で、僕のHPがどんどん回復していく。
 その回復魔法、名前が適当でも発動するんだなあ。

 さて、いい塩梅でボコられたので、今のステータスを確認してみよう。
 何、地上に激突するまではまだ時間があるし、焦ることもないよ!
 ちなみに、戦場で兵士たちから攻撃されたけど、僕は男から受けたダメージで成長するのは断固として拒否している。
 美少女だけが僕をいたぶりなさい。


名前:張井辰馬
性別:男
種族:M
職業:M
HP:2471/848→2471
腕力:3
体力:34→48
器用さ:5
素早さ:3
知力:4
魔力:20→46
愛 :38→50
魅力:7→10

取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)
    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)
    河津掛け(相手体重準拠)←NEW!


 おっ!
 新しい技が増えてる!
 僕知ってるよ。この河津掛けって、かつて伝説にうたわれた身長二メートルのジャイアントなBBなレスラーが使っていた、相手と肩を組んで倒れ込む技だ!
 ……ま た 素 手 の 技 か !!
 実に地味で、いぶし銀な技ばかりが増えていく気がする。

「おっ! あっしも魔力と愛と魅力が超上がってるっす! 日頃の行いっすなあ」

「愛は納得いかないなあ」

「おっ、おまえたち! なにをのんびりしてるですか!! いま、グレモリーたちは、らっかしてるところですよ! おちたらしぬですよ! むきー!! おまえたちグレモリーをたすけるですー!!」

 おおー、ようじょが癇癪かんしゃくを起こした!
 可愛いなあ。

 僕たちが飛んでいるのは、海の上。
 上空から見ると、イリアーノ王国ってなんだか見たことがある形をしているなあ。
 あの長靴みたいなのってなんだっけ?

「パスタの国っすよ!」

「おお、パスタの国かあ」

「砂漠でパスタを茹でて水が無くなって撤退したっすな、あっはっは」

「あっはっは、そりゃおかしい」

「なーにーがーおかしいですかーっ!!」

 グレモリーちゃんは、いつの間にか僕のお腹の上に馬乗りになっている。
 はっ、これはマウントポジション!!
 そこから回避できないパンチを僕に見舞うんだね!

「よし来い! 君のパンチを存分に打ち込むんだグレモリーちゃん!」

「いやあああああ! このにんげん、きもいですううううう!!」

 ぽかぽかと殺意の篭ったようじょパンチが僕を襲う!

『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『体力がアップ!』
『愛がアップ!』
『愛がアップ!』

「はいはいー。”適当に回復ヒールライト”っすよー」

 うわあ、おざなりな回復魔法なのに物凄く治る!!

「おっ、そろそろ地上が見えてきたっすね。張井くん、このままだと地上に激突っすけど、その落ち着きようだと何か策があるっすね? えっへっへ、あっしもその策に一枚噛ませてくださいよう」

 僕の背中にしがみついた新聞屋が、この体勢で器用に揉み手する。
 長いふんわりヘアで、むちむちで、出るところでて引っ込むところが引っ込んだ、けもみみでちょっと垂れ目気味で唇がややぽってりした美少女が、下卑た笑顔を浮かべてへりくだってくる。
 これが新聞屋クオリティ。
 僕は彼女を安心させるべく、力強く口を開いた。

「ノープランだよ!!」

「ぎょええええええ!!」

 大空に新聞屋の絶叫が轟いた。

「なんであんたはそんなに落ち着いてるっすかあああ!! 落ちたらぺしゃんこっすよお!? のしイカならぬ、のしタヌキっすうう!! ああああああいやだあああ死にたくないっすうううう!」

 新聞屋が涙とか鼻水とか流して、おぎゃあああと叫ぶ。
 必死に僕の体をよじのぼって、あろうことか僕の顔に腰掛けた。

「ふう、ふう、す、少しでも地上から遠ざかるっす!」

「ええい、うえにあがってきたら、グレモリーのじんちがへるです!! タヌキはしたにいるです! むだなにくをつけてるんだから、クッションになるです!!」

「い、言うたなこの幼女めえええ! あっしは悪魔に逆らってでも生き残るっすよおおお!!」

 新聞屋が僕の顔の上でもぞもぞ動くので、大変心地いい。
 やはりここは天国だったのだ。

「わが生涯に一片の悔い無し……!」

 僕はギュッと拳を握り締め、天高く突き上げ……というところで地面に激突した。

「うっぎゃああああああああ!!」

「あきゃあああああああああ!!」

「もごー」

 ドカーン! と爆発するように砂が噴き上がる。
 どうやら僕たちは、砂丘に落っこちたようだった。
 僕は無事に落下のクッションの役割を果たしたみたいで、僕のHPは流石にボロボロだよ!!

「アオウ……し、尻が……! 尾てい骨が折れたかもしれないっす……」

「ひいい、おしりが、おしりがいたいですう……!」

「新聞屋、一気に範囲回復魔法とか使っちゃいなよ!」

「うひょおお! 尻の下で喋らないで欲しいっす!? 全く、しょうがないっすねえ……。ええと、範囲回復? そんなんあったっすかねえ? えーと、”領域を癒す光エリアヒールライト”?」

 ぽわあーっと表現するような光が広がり、僕の体が急速に癒されていく。

「おしりのいたいのが、きえたですう……!」

「おっ! あっしの光魔法のレベルが上がったっすよ!! やればできるものっすなあ!」

 新聞屋は人間としてはどうかと思うけど、本当に能力だけは有能だね。
 新聞屋とようじょは、ようやく僕の上から立ち上がった。
 お尻の具合が落ち着いたらしい。
 特に新聞屋は、年頃の男子の顔に座っていたわけだから、もっと年頃の女子として気にするべきことがあると思うな!

「ここはどこですか? さばくがあるっていうことは、もしかしてみなみです?」

「おっ、南国っすね! ワイキキでビーチでバカンスでアロハオエっすよ!」

「ハワイっていうかこれはアラビアとかサハラ砂漠かなあ」

 僕も体を起こして周囲を見回した。
 僕たちが落下した跡はクレーターみたいになっていて、これで良くぞ生きていたものだ。
 周りに砂を跳ね除けて、その下にある地面がむき出しになったようだ。
 黒い地面が見えていて、これは割りと普通の土みたい。

「砂漠の下ってこうなってたんすねえ」

 ぺたぺたと興味深そうに地面を触る新聞屋。
 ふと、グレモリーちゃんが可愛い鼻をひくひくさせた。

「むむっ、べつのにんげんのにおいがするです! でてくるですよ!」

 そう声を発した。
 すると、なにやら回りに盛り上がった砂の上から、人が現れたではないか。
 頭の上からフードをかぶっていてよく分からないが、女の子のようだ。

「うふふ! オアシスを視察に来ていたらとんでもないものに遭遇してしまいました! この豪運、さすが私ですね!!」

 フードの隙間から垣間見える、褐色の肌の女の子が、乏しい胸を張った。
 また変な子が増えたぞ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姫騎士と呼ばれた少女が町を滅ぼした話

さくら書院(葛城真実・妻良木美笠・他)
ファンタジー
ダンジョンで目覚めた二人は記憶を失っていた。 そして始まる仮面をかぶらぬマスカレイド。 あなたは誰? そして、私は…。

ポニーテールの勇者様

相葉和
ファンタジー
※だいたい月/木更新。 会社を辞めて実家に帰る事にした私こと千登勢由里。 途中で立ち寄った温泉でゆっくり過ごすはずが、気がつけば異世界に召喚され、わたしは滅びに瀕しているこの星を救う勇者だと宣告されるが、そんなのは嘘っぱちだった。 利用されてポイなんてまっぴらごめんと逃げた先で出会った人達や精霊の協力を得て、何とか地球に戻る方法を探すが、この星、何故か地球によく似ていた。 科学よりも魔力が発達しているこの世界が地球なのか異世界なのか分からない。 しかしこの星の歴史と秘密、滅びの理由を知った私は、星を救うために頑張っている人達の力になりたいと考え始めた。 私は別に勇者でもなんでもなかったけど、そんな私を勇者だと本気で思ってくれる人達と一緒に、この星を救うために頑張ってみることにした。 ついでにこの星の人達は計算能力が残念なので、計算能力向上のためにそろばんを普及させてみようと画策してみたり・・・ そんなわけで私はこの星を救うため、いつのまにやら勇者の印になったポニーテールを揺らして、この世界を飛び回ります!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

気づいたら隠しルートのバッドエンドだった

かぜかおる
ファンタジー
前世でハマった乙女ゲームのヒロインに転生したので、 お気に入りのサポートキャラを攻略します! ザマァされないように気をつけて気をつけて、両思いっぽくなったし ライバル令嬢かつ悪役である異母姉を断罪しようとしたけれど・・・ 本編完結済順次投稿します。 1話ごとは短め あと、番外編も投稿予定なのでまだ連載中のままにします。 ざまあはあるけど好き嫌いある結末だと思います。 タグなどもしオススメあったら教えて欲しいです_|\○_オネガイシヤァァァァァス!! 感想もくれるとうれしいな・・・|ョ・ω・`)チロッ・・・ R15保険(ちょっと汚い言葉遣い有りです)

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

竜の棲む島、俺が統治します

浅葱アゲハ
ファンタジー
戦団を率いて魔王軍の幹部を討伐したゼクトは、王様からの褒美に竜の棲む人が寄り付かない島を所望する。 そうしてその島の全権利を手に入れたゼクトはツンデレな姫騎士や純真無垢な回復術師、魔族の子供達と一緒に島の開拓を進めていく。 ある時は襲い来る魔獣を討伐したり、ある時は魔物を部下にしたり、ある時は島内のダンジョンを探索したり⁉︎ ド定番系の冒険ファンタジー‼︎ え?どこかで見たことある設定ばっかって? 自分で執筆してて思いました(笑) いいんだよ、書きたかったから。 ※ちょっとだけ表題変わりました。

処理中です...